人気はあるが受け皿不足の日本コンテンツ

 プレゼンテーションの最後はNetflixのディレクター、杉原さんによる「配信業者がリードする制作環境整備」です。

 杉原さんは日本アニメ産業は大規模な投資をしたくても受け皿がない状態にあると述べました。その理由は多重下請け構造によってクリエイターやスタッフに利益が還元されづらいこと、慢性的な人手不足、商慣行、不透明な経理などがあげられます。



アニメに限らず、実写映画でも同じことが言える

 またフリーランスや外部制作会社が多い多重下請け構造の中でチームが解散してしまうため、制作会社のノウハウやナレッジが溜らず、高額予算、ハイクオリティの作品を制作し続けられない状況にあると指摘しました。



アニメーターの薄給ぶりはアニメファン以外にも広く知られるようになった。問題は多重下請け構造と収益力悪化とのこと

 そして日本のコンテンツ産業は少額予算の制約で人材が流出し、人材育成が困難になっているため、世界水準で戦うには制作の全てにおいて変革が必要と主張し、Netflixが制作現場で取り組んでいる労働環境の改善例などを紹介しました。



Netflixでは撮影技術の導入やトレーニングだけでなく、俳優やスタッフの労働環境も整備している。

 合わせてNetflixで3週連続トップを果たした実写版『ONE PIECE』の成功はNetflixが資本提供だけでなく、仲介役となって原作者・出版社の意向をハリウッドの制作会社に上手く伝えることで調整していたから、と述べました。『ONE PIECE』の成功をモデルケースとして、今後は異なる領域での海外進出の試みも増えそう、とのことです。

 以上、4名のパネリストの発表内容が絡み合って、日本のコンテンツ産業の置かれている状態、問題点、海外の取り組みなどが明確化したプレゼンテーションでした。



実際にコンテンツ制作に携わっている当事者による、具体性のある意見が交わされた。

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3週遅れの日本、いまだスタートラインにすら立てず

 プレゼンテーションに続いて行われたパネルディスカッションや質疑応答では、日本のコンテンツ振興に対する問題点や現状が次々と浮かび上がってきました。主な内容は下記の通りです。

・日本はコンテンツ産業への意識が弱い。現状は政治家や官僚たちに伝わり始めている段階で、ようやくこれからどのような形に落とし込まれるかというフェーズである。

・新しい文化や産業を育てるのが海外の文化政策のようだが、オペラや歌舞伎など既存の歴史文化を守るのが日本の文化庁の仕事である。また産業振興は経産省の担当となるので主幹官庁が違う。コンテンツ産業は誰が担当しているのかわからない状態だ。

・1998年のIMF危機の頃に金大中大統領が国策としてコンテンツ産業支援を始め、それまで分散していた部署を強力な政治力で統合して集権的な仕組みを作った。国家主導の産業育成はサムスンやヒュンダイでも成功している。

・日本のアニメ産業は構造として未熟だが自由である。しかし大資本化していく世界でどこまで戦えるかは疑問が残る。ただし小さくて専門技術を持った会社が協力して大きな仕事をこなす建設業界のような構造になることも考えられる。

・制作会社が予算を付けても多重下請けの中で販管費ばかりが増大し、中抜きされてアニメーターに還元されない。そのためNetflixでは発注の際に全体予算に占める販管費の割合を決めている。

・コーエーテクモのようにゲーム会社は合併して大きくなった会社が多い。その理由は新たなプラットフォーム(ゲーム機)に対応したり、複数のゲームジャンルを組み合わせてシナジー効果を生み出すためなど経緯はさまざま。かつての『信長の野望』は100万円程度で制作できたが、現在AAAタイトルを作るには50億~100億円の予算が必要で、さらにマーケティング費用もかかる。アメリカなら制作費で200億、合計で300億円もありうる。技術を結集してワールドワイドで活動するには資本が必要だ。

・ゲーム業界が一足先に合併によって大資本化し成功した流れは、アニメや映像制作にも及ぶかもしれない。

・コンテンツ庁設立を早急にやって欲しい。司令塔が必要だ。しかし実現可能なのだろうか。

・岸田総理は日本が誇るトヨタの高級車センチュリーで移動しているが、なぜポケモンジェットで移動しないのか。もし岸田総理がポケモンジェットで渡米すれば世界中のメディアが報道したはず。「総理がポケモンジェットに乗って何が悪い」と誇りを持てるようなマインドセットを持てれば、コンテンツ庁は実現できるだろう。