『ドラゴンボール』悟空を模したと思われるAIモデルが配布されている。海外企業が運営するオープンソースAIプラットフォーム「Civitai」よりキャプチャー

【画像】えっ、無断使用されてる? 海外企業のAIプラットフォームで作成・配布された国民的人気キャラを見る(8枚)

アニメ業界とAI開発者が抱える課題

 近年、人工知能(AI)技術は目覚ましい進化を遂げており、その発展のスピードは留まるところを知りません。わずか1年前には不自然さが目立っていたAIによる画像や動画も、今では本物と見分けがつかないほどのクオリティで生成できるようになり、商用利用も現実味を帯びてきました。

 このAI技術の急速な進歩は、アニメ業界にも大きな影響を与えることが予想されます。慢性的な人手不足に悩むアニメ業界にとって、AIを効果的に活用できれば課題解決の糸口になると期待する声がある一方で、「クリエイターの職が奪われるのではないか」「類似した作品が大量生産されるのではないか」といった懸念の声も上がっています。

 さらに、国内のAI開発者からは、現状のままでは資金力のある米国や中国の大手IT企業との競争に太刀打ちできず、彼らの都合に合ったルールや取り組みが優先されてしまう可能性があるという心配の声もあがっています。

 今、国内のアニメ業界とAI開発者は、これらの課題にどのように向き合うべきでしょうか。そこでマグミクスでは、アニメ制作支援のための倫理的なAI開発を目指す「アニメチェーン合同会社」と、アニメ業界のクリエイターの権利を守る活動を行う「一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)」に取材しました。AI開発者とアニメクリエイターたちが協力できる道があるのか、両者への取材を通じて迫ります。



アニメチェーンのメンバーでAIHUBのCTO・新井モノ氏

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AIをアニメ制作にどう活かせる?

 そもそも「AIをアニメ制作に活かす」といっても、具体的に何が出来るのでしょうか。

 1枚1枚手描きでつくられるアニメーション作品において、とくに動きのキーとなる絵と絵の中間を描く作業とその絵を「中割り」といい、これには多くの時間と手間がかかります。しかし、AIを活用し、キーとなる絵やモデルに指示を与えるだけで、この中割りが自動的に生成され、工数を大幅に削減することができます。

 さらに現状では企画や脚本作り、絵コンテなど、いわゆる「プリプロダクション」の領域は人間の方に分があるようですが、それ以降の作業のかなり部分でAIがサポート可能だとアニメチェーンのメンバーでAIHUBのCTO・新井モノ氏は語ります。

 もしそれが本当に可能であれば、アニメ制作の人手不足解消に貢献できそうです。さらにクリエイターがAIにサポートしてほしい箇所に対して工数削減を実現させ制作ペースを早くすることもできれば、よりクリエイティブな部分、シナリオや絵コンテ・キーになる原画などに人間は時間を割けるようになるかもしれません。

 実際に、今アニメ業界は慢性的な人材不足が指摘され、どこのスタジオも「何年も先まで予定がいっぱい」といわれます。世界で高まるアニメ需要に対して、現場の生産力が追いついておらず、ここをいかに解決してゆくのか、何らかの対策が必要なこともあり、「AIが人材不足の解消になるのでは」と期待する声もあるようです。



NAFCA事務局長・広報で声優の福宮あやの氏