画像は『となりのトトロ』場面カット (C)1988 Studio Ghibli

【画像】そもそもジブリは「怖い場面」がいっぱい! みんなのトラウマになった名場面の数々(5枚)

最後まで聞くとちょっぴり怖い『トトロ』の劇伴

『いつも何度でも』や『君をのせて』、『人生のメリーゴーランド』など、スタジオジブリ制作の劇場アニメには名曲が付き物です。壮大なファンタジーの世界観を築き上げるうえで、音楽の力が大きな影響を及ぼしたことは疑いようがないでしょう。しかし、実はそんなジブリ音楽には、よく聞くと恐怖を感じてしまうような歌詞の楽曲が少なからず存在していました。

 たとえば有名なのが、『となりのトトロ』の『まいご』という曲です。物語終盤、サツキが迷子になったメイを探しているシーンで使用されており、劇中ではメロディしか流されていませんが、サウンドトラックには歌手の井上あずみさんの歌声が入ったバージョンが収録されていました。その歌詞には「さがしても みつからない まいごの子」と、迷子の妹を探す人物の心情がつづられており、メイに対するサツキの想いが表現されているように見えます。

 しかし最終的にハッピーエンドを迎えた本編のストーリーとは違って、この楽曲では迷子が見つからないまま曲が終わります。「へんじして おねがいだから」「もどってきて おねがいだから」などと切実な願いが歌われる一方で、最後は「どこかしら どこかしら」と締めくくられるのです。

 そうした歌詞に加えて、全体的に悲しげな曲調となっていることも不穏なイメージの原因でしょう。もしかするとメイが帰らぬ人になってしまう「もうひとつの世界線」を歌った曲だったのかも……というのは考えすぎでしょうか。

 また『千と千尋の神隠し イメージアルバム』に収録されている『さみしい さみしい』は明るい曲調ながら、ホラーテイストの歌詞となっています。同楽曲で歌われているのは、油屋で大暴れする不気味なキャラクターであるカオナシの心情でした。

 楽曲のなかでは、カオナシが抱えるひとりぼっちの孤独感が表現される一方で、孤独を埋めてくれる存在への底なしの欲望があふれ出していきます。「たべたい たべたい 君 たべちゃいたいの」「すぐ逃げちゃう寂しい夢よりも 君 おなかに入れたいの」といったフレーズからは、カオナシの秘めた狂気が伝わってくるでしょう。

 ちなみにこの曲は宮崎駿監督が映画の制作中に書き留めたイメージメモをもとに、作曲家の久石譲が仕上げたものなので、カオナシというキャラクターをより深く理解したいファンにとっては必聴といえるかもしれません。



恐怖とは無縁そうな『ルージュの伝言』だけど…… 画像は『魔女の宅急便』場面カット (C)1989 角野栄子・Studio Ghibli・N

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『ルージュの伝言』もよく聞くと怖い?

 そしてホラー的な恐怖というよりは、男性の心理を突いたサスペンス的な恐怖を感じさせるのが、『魔女の宅急便』の主題歌『ルージュの伝言』です。もともと発表済みだった松任谷由実さんの曲が主題歌に選ばれたという特殊な経緯があるものの、広い意味では「ジブリ音楽」のひとつといえるでしょう。

 主人公のキキがほうきにまたがって旅に出発し、猫のジジにラジオを付けさせると、『ルージュの伝言』の陽気なリズムが流れ出す……。ジブリ作品でも屈指の名シーンを生んだ伝説の1曲ですが、その歌詞はかなりインパクトが強いものでした。

 同楽曲は明るい曲調に反して、昼ドラのようにドロドロとした世界観が表現されています。設定としては、恋人の浮気を知った女性が家を出て、彼の母親に会いに行くというもので、歌の出だしから「あのひとはもう気づくころよ バスルームに ルージュの伝言」という強烈な一節が飛び出します。

 バスルームの鏡に真っ赤なルージュ(口紅)で恋人へのメッセージを残したということでしょうが、実際にその光景を想像するとかなりの迫力を感じられます。とくに家にポツンと残された男性側の目線で見ると、トラウマ級の出来事といえるでしょう。

 本編ではピュアな少年少女の爽やかなラブストーリーが展開されていた分、ドロドロとした恋愛の歌詞には大きなギャップを感じざるを得ません。おそらくはキキも歌詞の意味をあまり分からずに聞いていたのではないでしょうか。

 ちなみに歌手の吉澤嘉代子さんが2016年にリリースした『東京絶景』のアルバム曲「化粧落とし」には、面白い一節がありました。ユーミンを真似して車に「ルージュの伝言」を残すと「警察沙汰」になった……という身も蓋もない現実的な目線の歌詞がつづられているのです。

 ジブリ作品は「本当は怖い」という考察が盛り上がることで有名ですが、その楽曲にも解釈の余地が多く残されています。この機会に各作品の劇伴やイメージソングにも目を向けてみてはいかがでしょうか。