勇ましい風貌でポーズを決めるライオン丸。『快傑ライオン丸』Blu-ray BOX(キングレコード)

【画像】これは戸惑うわ…別人設定『風雲ライオン丸』のビジュアルをチェックする

石森×東映に勝利した独立プロ制作の傑作

 子どもたちが変身ポーズを真似した1972年放送の特撮変身ヒーロー時代劇『快傑ライオン丸』は、ファンの間で『仮面ライダー』に匹敵するほどの人気を誇っています。実は同時期に『仮面ライダー』と同じスタッフで制作された、同じく特撮変身ヒーロ時代劇『変身忍者嵐』も放送されており、のちに番組プロデューサーはライオン丸に負けた旨を述べました。

 予算もスタッフも少ない独立プロであるピープロの『快傑ライオン丸』が、なぜ石森章太郎(当時)×東映の『変身忍者嵐』に勝てたのでしょうか。改めて振り返ってみると『快傑ライオン丸』には、制作環境の不利を超越する魅力がありました。

主題歌、造型、キャスト、全てが噛み合った奇跡の作品『快傑ライオン丸』

「特撮ヒーローは顔が命」とまでは断言できませんが、やはりどんなエンタメでも見た目は大切です。そうしたなか、マンガ家のうしおそうじ(鷲頭富雄)さん率いるピー・プロダクションのそれまでの作品は、いまひとつといわざるをえませんでした。

 前作『スペクトルマン』のデザインも、無骨さが魅力となり一部で熱狂的な支持を受けているものの、万人受けしたとはいえません。その弱点を補って余りあるのが『快傑ライオン丸』の、動物のマスクでした。黒いマントを翻し、真っ白なたてがみを揺らしながら日本刀でバッサバッサと敵を叩っ斬ります。

 完全に和洋折衷ですが、なぜか全体で見るとしっくりきます。元々、『スペクトルマン』の原題は『宇宙猿人ゴリ』で、宇宙猿人の造型は見事でした。『快傑ライオン丸』で、ピー・プロダクションはようやく自社の強みを活かせたようで、以降『鉄人タイガーセブン』まで動物マスクのヒーローが続きます。

 戦国時代、長引く戦乱の中で親を失ったみなし子「獅子丸」「沙織」「小助」は、飛騨の山中で忍者の長老「果心居士」に育てられました。そこへ、日本征服をたくらむ「大魔王ゴースン」は手下の暗黒魔人を送り込みます。「暗黒魔人オロチ」に襲われた果心居士は、獅子丸に「金砂地の太刀」を託して息絶えました。獅子丸が鎖で結ばれた金砂地の太刀を抜くと「忍法獅子変化」によって「ライオン丸」に変身します。

 この変身シーンの格好良さも、『仮面ライダー』の変身に匹敵するほどの人気になりました。また、小助が果心居士に託された「横笛」は、果心居士の魂を宿した「天馬ヒカリ丸」を呼び出すことができます。ヒーローの足手まといになりがちな弟キャラですが、小助はライオン丸をサポートする重要な役割を担っていました。

『快傑ライオン丸』の評価を決定づけたのが、後半から登場する「タイガージョー/虎 錠之介」でした。最初はゴースンの配下として登場、のちにライオン丸と共闘し、最終回には壮絶な最期を遂げます。

 敵でありながら、完全に悪とはいえない魅力溢れるライバルキャラクターは、それまでの特撮番組にはない画期的なキャラクターです。それ以降、『人造人間キカイダー』の「ハカイダー」、『キカイダー01』の「ワルダー」など、ドラマを盛り上げるライバルキャラが登場していきました。



『変身忍者 嵐』VOL.1 DVD (C)石森プロ・東映

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不都合な条件が続き苦戦した『変身忍者 嵐』

 偶然なのか、売れる特撮時代劇の形を模索した結果なのか、『快傑ライオン丸』と『変身忍者嵐』では共通点が多く見られます。たとえばそれは、「時代劇」で「忍者が主人公」であり、一緒に旅をする仲間は「くノ一と子ども忍者」で、ラスボスは「海外から渡来した大魔王」でした。当時の子どもたちは、どちらを観ているのか混乱したことでしょう。

 大人気だった『快傑ライオン丸』に対して、『変身忍者嵐』は視聴率で苦戦していました。人気絶頂の『ウルトラマンA』が裏番組だったのも理由のひとつですが、新聞のテレビ欄を見ても子どもたちが読むことのできない漢字のタイトルも災いしたようです。放送15回目にしてそのテレビ欄のタイトルを『へんしん忍者あらし』と改めても、すでに遅かった様子でした。

 また時代劇で東映といえば京都太秦のスタジオがあるものの、プロデューサーの平山 亨氏が『仮面ライダー』などと並行して仕事をしていたので、東京で撮影をすることになったようです。それまで一度も時代劇を作ったことのないスタッフが、かつらや衣装も用意することになります。

 そこで主人公「ハヤテ」はじめ主要キャラの3人はいずれもチョンマゲをしない設定になり、ハヤテは長髪にバンダナです。その衣装も、設定は江戸時代のはずなのに、ビニール地の派手なカラーのジャンパーにブーツというあまりにも現代風のものでした。

 忍者らしからぬ姿が不評だったのか、ハヤテたちは第21話から獅子丸と同じようにチョンマゲと忍者衣装という別人のような姿に変わります。レギュラーキャストのチームワークも良かったとはいえないようで、「カスミ」役の林 寛子は理由もなく途中離脱しました。

 愛馬「ハヤブサオー」は、変身後には白い面を被ったものの、やはり白馬である天馬ヒカリ丸の格好良さにはかないません。プロデューサーである平山氏の著書『泣き虫遺言状~テレビヒーローと歩んだ50年~』(講談社)によると、なんと撮影のストレスで2頭も死んでしまったのだとか。

 思ったほど人気にならなかったため、「ハヤブサオー」は第20話で降板(予算のためにカット)しています。白馬を使いたいがために白馬1頭を買い取ったというピープロは社運がかかっており、制作の本気度が違ったということでしょう。

 なお「嵐」への変身は、忍法なのに、背中の刀の鍔を鳴らすことで特殊な振動が起こり、脳神経が異常活動を始め、身体の細胞配列を変える、というものです。いかにも石森原作らしい変身の設定ですが、この理論をどれだけの子どもが理解できたでしょう。

 平山氏は著書で、『ライオン丸』に対して『嵐』の負けを認めていました。



うしおそうじ先生原作のマンガ『快傑ライオン丸』第1巻(KADOKAWA)