古谷徹さん演じる『機動戦士ガンダム』の主人公、アムロ・レイ。画像は『機動戦士ガンダム アムロ・レイぴあ』の表紙(ぴあ)

【画像】古谷徹さんの「アムロ・レイ以前」の代表作は?

関係者も驚いた古谷徹さんの起用

 古今、アニメの世界を支えてくれる数多くの声優たち。「声優」として意識する以前から、TVCMや別番組のナレーション、洋画の吹き替え、時にはドラマ内の俳優として見ていた人だったと気づくことがあったりもしますよね。

 今でこそ「声優専門学校」などもあり、最初から声優としての教育を受けてその道に進む人も多いようですが、少なくとも私がアニメーションの制作に関わっていた1970~90年代くらいまでは、多くの声優さんは俳優さんでもあり、アニメとは無関係の、ドラマや舞台劇、ナレーションなどでも活躍されている方々がとても多かったものです。

 しかし、そんな方々のなかには、もちろんアニメーションでブレイクした方も数多くいらっしゃいます。

 たとえば『機動戦士ガンダム』で、第1作目からずっとアムロ・レイを演じ続けられている古谷徹さん。

 多くの方はもちろんご存じでしょうが、古谷さんは、アムロを担当する以前、やはり大変人気のあったTVアニメーション『巨人の星』の主人公・星 飛雄馬を担当され、すでに有名声優のおひとりでした。

 しかし、これは声優さんに限ったことではないですが、いわゆる「当たり役」を持つというのは「諸刃の剣」で、その役のイメージが強すぎて似たような役柄しかオファーがなくなる、ということが起こりがちだと言います。

 たとえば『シティーハンター』の冴羽リョウや『ゲッターロボ』の流竜馬、『勇者ライディーン』のひびき洸など、まさに「カッコいい!!が声になったような神谷明さんは、昔、お話ししていたとき「実は洸の時よりライディーンの時の声が好きです」といったら、嬉しそうに「そんなこと言われたの初めて!」とおっしゃって「悪役もやりたいんだけど、ヒーロー役ばっかりで……」と (そりゃそうでしょう、とは思います)。

 ですから、後に『キン肉マン』に抜擢された時は、いわゆるヒーロー声から解放され、さぞや嬉しかったろうな、なんて勝手に思ったりしています。

 そんな私も当時は「古谷徹って飛雄馬でしょ」でした。

 ある日、富野監督がスタジオに戻ってこられ「ガンダムの主人公の声、決まったよ」と嬉しそうに仰ったのです。私自身は『ガンダム』の担当ではありませんでしたが、設定画等はすでに見ており、あのモシャっとした髪型の男の子が主人公だよな、くらいは知っていたので、当然のように「誰になったんです?」と聞き返すと「古谷徹」と答えるのでびっくり。

 思わず「えーっ!? 星飛雄馬ですか!? イメージ違いすぎますよぅ!」みたいなことを口走ったと思います。すると、「まあ、最初のひと言、聞いてみてごらん」と、やけに意味深なカンジにニヤリと笑ったのです。

 そして、社内で初めて第一話の初号(最初に出来上がった、TV放送できる状態のフィルム)試写で聞いた、常に声を張っている飛雄馬からは想像できない、あのアムロの眠そうな気の抜けたような第一声「そうなの?」。心の中で「うわっ! うっそ! ホントにこれがあの飛雄馬か?」でした。同時に富野さんのニヤリ笑いの「まあ、聞いてみてごらん」の意味がよく解ったのです。

 昔も今もアニメの声優は、音響監督という、音関係を仕切られる責任者さんが、候補となる幾人かを選び、そのなかから監督とともに一種のオーディションを行って決めることが多いようです (他にも方法はあります)。もちろん、そんな場に私がいたわけではないので、これ以上の詳しいことは知りませんが、富野さんの「ニヤリ」が、あれから現在まで続く、あの「アムロ」を生んだのは確かです。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。