リトラクタブルヘッドライトとは?

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引っ込めて格納できるヘッドライトのこと

リトラクタブルヘッドライトとは、車体内部に格納できるヘッドライトのことをいいます。「retractable」の意味は「引っ込めることができる」ですから、その通りの動きをします。

厳密には「ポップアップライト」へ分類される「寝ていたヘッドライトが前へ起き上がる」方式や、開かずともパッシング可能なように、ヘッドライトを完全には覆わない「セミリトラクタブル」方式も含め、かつては大衆車からスーパーカーまで多くの採用車種がありました。

スッキリとしてシャープ、いかにも空気抵抗の少なそうなボディ先端が「パカッ!」と変形するかのごとくヘッドライトが現れる構造は、かつて1970年代にブームとなったスーパーカー世代の憧れであり、今でもメカ好きの心をくすぐります。

空気抵抗の少ないデザインを追求した結果、誕生

1930年代には初登場して以降、特に多かったのは1970年代から1980年代にかけて20年ほどの期間でしたが、単に「スーパーカーみたいでカッコイイ!」というだけで採用されていたわけではありません。

今も昔も世界の自動車にとって最大の市場であるアメリカ(北米)では、ヘッドライトの形状や高さが厳しく規制されていた一方、無闇にハイパワーなエンジンでなくとも高性能と燃費などを両立できる、空気抵抗の少ないデザインの車が求められていました。

そのためには「ウェッジシェイプ」と呼ばれる、フロント前端を低く絞り込んだクサビ型のボディ形状が適しているものの、それではアメリカの規制で求められた高さへ、ヘッドライトを配置できないのです。

その解決策として注目されたのが、複雑で重く、高価になりがちなメカが必要なゆえ、デザインアクセント以上の意味をもたせにくかった、リトラクタブルライトでした。

かつてのアメリカンスポーツカーには必須だった

普段は格納しておいて空気抵抗を減らし、必要な時は規制をクリアする高さへ「浮上」するリトラクタブルライトは、かつてのアメリカではスポーティな車を販売するため、必要な手段でした。

もちろん、日本やヨーロッパなど、アメリカのような規制がない国では、低い位置へ配置したヘッドライトでもっとスマートなデザインの車も作れます。

実際にそのような車も販売していましたが、せっかくリトラクタブルヘッドライトのアメリカ仕様があるからと、兄弟車や特別なグレードとして併売するケースも、多々ありました。

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なぜ消えた?現行車に採用されていない理由

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絶対に使われない、というわけではないが…

リトラクタブルヘッドライトそのものは、近年でもランボルギーニ ウラカンをベースに、スーパーカーの名車デ・トマソ・パンテーラの復刻を目指した「パンサー・プロジェクト」で採用されるなど、全く使われなくなったわけではありません。

しかし、スポーツカーも含めた一般的な市販車では、2005年にシボレー コルベットが6代目へとモデルチェンジしたのを最後に、すっかり採用されなくなりました。

その理由としてさまざまな説が挙げられていますが、1990年代に北米でヘッドライトの規格や高さに関する規制が緩和されたため、「リトラクタブルライトを採用する必然性がなくなった」のが、もっとも影響を及ぼしたと思われます。

採用しないメリットも多い

おまけに、市販車ではリトラクタブルライトを採用しつつ、軽量化のためレースでは固定式ヘッドライトを採用したレーシングカーによって、「リトラクタブルライトじゃない方がレーシーでカッコイイ」というイメージさえつきました。

技術の発展により、低い装備位置からでも十分な能力があるヘッドライトはとっくの昔に実現可能でしたし、リトラクタブルヘッドライトさえなければ以下のようにメリットだらけなのです。

  • 余計なメカが不要でフロントを軽く作れ、旋回性能が上がる
  • メカが故障する心配もなく、何より安い
  • 夜間でも空気抵抗が少なく、視界も広くて運転しやすい
  • 歩行者への衝突時、与えるダメージを減らすため急速格納するようなメカも不要
  • いちいち開いたり、薄目のセミリトラクタブル仕様にせずともパッシングができる
  • エンジンルームに余裕ができて、冷却性能でも有利

近年の安全基準やオートライトとの相性も悪い……

さらに2000年代以降は歩行者への衝突時、頭部をエンジンの硬い部分へぶつけて被害を増やさないよう、ボンネットとエンジンの間に広い隙間を儲ける必要があり、ミッドシップやリヤエンジン車以外でボンネットの低い車を作りにくくなっています。

とどめとなったのは近年の「オートライト義務化」で、夜間でなくとも暗くなったら自動で即座に点灯しなければいけないオートライトと、開閉を伴うリトラクタブルヘッドライトの相性は最悪といえます。

このようにリトラクタブルライトは、「性能面のみならず、安全のためにも消えるべくして消えた装備」だったと言えます。

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