ギャグ満載で人気だった「『爆走戦隊カーレンジャー』vol.1(DVD)」のパッケージ(東映ビデオ)

【画像】バリンガーZがいちばんマネしてたのは「頭部」? 改めて見ると特徴的な「マジンガーZ」のデザインがこちらです(4枚)

「ジャンジャジャ~ン! バリンガーZ登場!」のはずが

『王様戦隊キングオージャー』(テレビ朝日)もいよいよ終盤を迎えています。スーパー戦隊シリーズは放送が1作品1年間と決まっているので、物語の展開を構成しやすい利点があります。ただし、過去にはこれが裏目に出てしまい、「あわやクライマックスの演出が大トラブルに!?」という出来事があったことをご存じでしょうか。それは、1997年2月に最終回を迎えた『爆走戦隊カーレンジャー』で起こりました。

 最終回(第46話)で「カーレンジャー」の5人は、敵が繰り出す最強ロボットとラストマッチを迎えます。そこで番組側は撮り終えたシーンから、そのロボットの画像を1997年2月号『テレビマガジン』(講談社)、『テレビランド』(徳間書店)などの児童雑誌に掲載して盛り上げようとしました。紙面に先行お披露目された最強ロボは、その名も「バリンガーZ」です。

「おや?」と思うような名前ですが、その姿はお椀を逆さまにしたような頭、ひし形の黄色い目、鉄格子のような銀色の口、胸には赤いV字状の板、ロケットのように飛び出す青い腕……そう、どうみても『マジンガーZ』のパロディーでした。

 この「バリンガーZ」を「カーレンジャー」はどうやって倒すのだろう!? 子供たちは胸躍らせてTVを観たわけですが、なんと最後まで「バリンガーZ」は姿を見せずに番組は終了してしまいます。「うそつき! 雑誌の情報と違う!」と怒った人は多かったでしょう。なぜ「バリンガーZ」は登場しなかったのでしょうか。



最終回も収録『爆走戦隊カーレンジャーvol.2(DVD)』(東映ビデオ)

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パロディでは済まされない時代に?

「バリンガーZ」が出てこなかった理由はそう、「著作権」の問題です。ファンからは「永井豪とダイナミックプロ側からクレームがついた」とささやかれましたが、真相は違うようです。

「カーレンジャー」はギャグ満載で愉快な作風でした。最後は「マジンガーZ」のパロディで視聴者を楽しませようと考えたのでしょう。「バリンガーZ」のロボットスーツを作り、大がかりなセットも組んで撮影を終了しました。

しかも、敵のボーゾック総長の声はアニメ『マジンガーZ』のボス役である大竹宏さんだったため、アフレコ台本にも「ジャンジャジャ~ン、バリンガーZ参上! いくわよー!」とあり、本家の「ジャンジャジャ~ン、ボスボロット参上!」の口調を真似て収録し、スタッフ一同大満足だったそうです。

 ところが、制作の現場でそのようなお遊びが行われたと知った東映の上層部が、「それはヤバいのではないか!?」と協議し、その結果、NGと判断して最終回の内容を変更し、急きょ一部を撮り直してオンエアに間に合わせたのです。当然、パロディまがいの演出について、『マジンガーZ』の版元である永井豪先生側に許可など取っていませんでしたから、もし放送していたら大問題になっていたかもしれません。このエピソードは大竹宏さんが雑誌のインタビューでも話しており、本当に大変だったことがうかがえます。

 それにしても、なぜこのようなアウトな内容で制作してしまったのでしょう? 推察ですが、昔は「著作権」が緩く、バラエティー番組でいろんなアニメのパロディーコントなどをしていたため、「楽しさ」を優先してしまったのでしょう。もちろん悪気はなかったはずですが、その認識が甘かったわけです。時代は著作権に関して大きな変化を迎えていました。

『カーレンジャー』放送時の90年代後半からインターネットが急速に普及し始め、ネットビジネスなどが多様化して著作権に関するトラブルが増えていた時期でした。1998年には、より厳しく改正した「著作権法」が施行されています。そんな時代の流れをシビアに察知して、「バリンガーZ」の登場を幻にさせたのだと思われます。

 ちなみに、せっかく作った「バリンガーZ」のスーツは、アメリカ版の戦隊『パワーレンジャー・ターボ』(1997年)のなかで、ロボットの一部にリサイクルされて日の目を見たそうです。