大量虐殺阻止のために動いたという見方も……画像はメガハウス「GGG 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY シーマ・ガラハウ」 (C)創通・サンライズ

【えっ…かっこいい!】これが「ゲルググ・マリーネ」シーマ機とシーマ様のお姿です(17枚)

むしろ寝返らない方が不思議な過去

 宇宙世紀0083年を舞台としたアニメ『機動戦士ガンダム0083』は、ジオン軍残党に核兵器を搭載した「ガンダム試作2号機」を奪取された地球連邦軍の「アルビオン隊」を主役とした作品です。試作2号機を手に入れたジオン軍残党「デラーズ・フリート」が、地球にスペースコロニーを落とす「星の屑作戦」を実行するさまが描かれます。

 その中でも異彩を放つのが、途中からデラーズ・フリートに参加する「シーマ艦隊」です。女性指揮官の「シーマ・ガラハウ」中佐は地球連邦軍と内通しており、作戦途中で「デラーズ」を殺害、続く戦闘の中でデラーズ・フリートを攻撃します。ところが、そのように連邦側へ寝返ったにもかかわらず、裏取引を知って、これまでのシーマとの戦いで無意味に「バニング」らが戦死したことに激怒した地球連邦軍士官の「コウ・ウラキ」が、独断で「ガンダム試作3号機」によりシーマ艦隊を攻撃したことで、シーマは戦死するのです。

 シーマは連邦側になぜ寝返ったのでしょうか。大きな動機は「ジオンへの恨み」でしょう。『機動戦士ガンダム』の舞台である「一年戦争」時に、シーマはジオン公国軍突撃機動軍海兵隊として、破壊工作に従事していました。彼女とその配下は、ジオン国内で戸籍登録も許されないほどの貧困層が多い、スペースコロニー「マハル」出身者だったようです。

 開戦当初には、スペースコロニーへの毒ガス注入作戦に従事させられました。「民間人虐殺作戦」と知らされずに毒ガスを撒いたことは、シーマにとってトラウマとなっています。

 この「ジオンへの不信感」は、シーマの故郷であるスペースコロニー「マハル」が「ソーラ・レイ」に改造されて消滅した上に、終戦時に保身を図った上官の「アサクラ」大佐から「虐殺の責任」を押し付けられて、B級戦犯となったことで決定的なものとなります。

 戦犯にされたシーマは、ジオン残党勢力「アクシズ」への亡命もできなくなりました。そしてアサクラ大佐は、彼女の指揮するザンジバル級機動巡洋艦「リリー・マルレーン」を、戦時賠償艦として連邦に差し出そうとしたのです。

 シーマにとって「リリー・マルレーン」と配下は「一家」も同然であり、毒ガスについて何も知らされていなかった以上、戦犯として連邦に差し出される謂れはないものでした。激怒したシーマは、アサクラの搭乗するチベ級重巡洋艦を攻撃しようとしますが、エースパイロット「アナベル・ガトー」の駆るモビルスーツ(MS)「プロトタイプ・リックドムII」に阻止されます。

 結果として行き場を無くしたシーマは、揮下の艦艇を暗礁宙域に展開して、宇宙海賊となります。シーマ艦隊は、機動巡洋艦「リリー・マルレーン」と、ムサイ級軽巡洋艦7隻、パプア級輸送艦艇といった有力な宇宙艦艇を保有していただけでなく、当時としては高性能MSである「ゲルググ・マリーネ」も保有していました。



アナハイムとのパイプを通じて入手したというシーマの乗機「ガーベラ・テトラ」。画像はBANDAI SPIRITS「HG 1/144 ガーベラ・テトラ」 (C)創通・サンライズ

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デラーズは誘ったことがそもそもの間違いだった?

 シーマ艦隊は民間船や地球連邦軍、ジオン残党の船舶までも襲撃して略奪しただけでなく、月の大企業「アナハイム・エレクトロニクス」や地球連邦軍高官ともパイプを作り、生存を図っていました。

 そうした中、デラーズが「自分と協力して、星の屑作戦を行う」よう要請してきたわけです。承諾したシーマにデラーズが命じたのは、民間船であるコロニー公社の輸送船を撃墜してのコロニージャックや、アナハイムに対して「月にコロニーを落とす」と脅迫して協力を強要する謀略であり、また「汚れ仕事」をさせたともいえます。

 シーマ艦隊の作戦参加に対して、かつてシーマがアサクラ大佐の乗艦を攻撃しようとしたことを知るガトーは、上官のデラーズに「あの腹には黒々としたものが……たとえ常勝の武人といえども、この宇宙に光をもたらす者ではありません。必ずや将来、栄光あるジオンに仇をなすでしょう」と進言しています。

 ガトーの進言は正鵠を得ていました。ただシーマからすれば、もしそれを聞いたとしても「民間人虐殺みたいな汚れ仕事を押し付けた上に、あたしたちを戦犯にもしたジオンの何が栄光だい」としか思わなかったでしょう。

 こうした理由で、シーマはデラーズ・フリートの情報を地球連邦軍の「グリーン・ワイアット」大将らに伝え、連邦側へと寝返るわけです。

 では、シーマが寝返らないような展開はあり得たのでしょうか。シーマから見てデラーズとは、かつて彼女を戦犯にしたアサクラの同僚(同じギレン配下で階級も同じ)です。

 デラーズはCDドラマ『宇宙の蜉蝣』で「シーマがかつてしてきたことは知らない」とは言っていますが、シーマに命じた仕事はアサクラと同じ「汚れ仕事」ですから、シーマのジオンへの見方が変わるわけもなく、「人は正義を口にした途端、正義じゃなくなるのさ」「あたしは故あれば寝返るんだよ」と、最初から考えていたに違いありません。デラーズ・フリートに加わったのも「なるべく高くデラーズらの情報、あるいは身柄を連邦軍に売りつけ、自分たちを高く買い取らせるため」ですし。

 またデラーズの「星の屑作戦」は成功しても、連邦軍による報復で全滅を免れない可能性も高い上に、脱出先となるアクシズへの亡命が「戦犯として拒否された」過去を考えても、シーマとしては「デラーズに最後まで付き合っても死ぬだけだ」とも考えていたでしょう。つまり、寝返らせないのは難しかったと思われます。

 この辺り「志を持たぬ者(シーマ)も導こう」とシーマ艦隊を味方につけたデラーズは、戦力不足で目が曇り、スカウトする相手を間違えたといえるでしょう。

 では、シーマが最初から「星の屑作戦」へ参加しなければ、どうなったでしょうか。

 シーマ艦隊が「星の屑作戦」に参加しなくても、デラーズ・フリートは観艦式を核攻撃して連邦艦隊を壊滅させ、作戦自体も成功させていたと考えられます。ここが史実通りであれば、ジオン狩り部隊「ティターンズ」は結成され、反地球連邦組織「エゥーゴ」も結成されるでしょう。月や連邦軍にも人脈を持つシーマは、艦隊ごと「ティターンズ」か「エゥーゴ」に参加したかもしれません。とはいえ、エゥーゴの軍服はシーマに似合いそうもありませんね。