現実の宇宙飛行士たちが体験した不思議な現象

 実物大の「ガンダム」はお台場や横浜に現れましたが、「ニュータイプ」は現実的にありうるのでしょうか? 1960年代~70年代に米国の航空宇宙局(NASA)によって行なわれた「アポロ計画」に参加した宇宙飛行士たちは、月への宇宙旅行中に神秘的な体験をしたことを語っています。

 作家の立花隆氏が1983年に刊行したノンフィクション『宇宙からの帰還』(中央公論社)によると、「アポロ15号」の操縦士だったジム・アーウィンは【宇宙に出てから頭の働きがすごくよくなったような気がする】【頭の中が明晰そのものといった感じになり、精神能力が拡充した感じになる】【宇宙船の操作にしても、地上での訓練の何倍も効率的にやることができた】【何を考えても、すぐにピンとくる】と述べています。

 ちなみにアーウィンは、こうした頭脳の明晰化、精神能力の拡充は、100%の酸素を吸い続けたためではないかと考えたそうです。

 さらに月面に降り立ったアーウィンは、【神がいま自分にこう語りかけているというのがわかる。それは何とも表現が難しい。超能力者同士の会話というのは、きっとこういうものだろうと思われるようなコミュニケイションなのだ】と、神の存在を間近に感じたことを明かしています。

 アーウィンは地球への帰還後、宗教家となりました。彼と同じように心的変化が起きた宇宙飛行士は少なくありません。

 地球を離れ、宇宙という異空間で過ごした体験は、人間の内面に大きな影響を与えるようです。「ニュータイプ」という発想は、まったくの絵空事ではないようです。

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富野監督と安彦監督とでは異なる「ニュータイプ」論

 安彦良和監督は『機動戦士ガンダム』の作画監督を担当し、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の総監督も務めています。「ガンダム」ファンの間では知られていますが、「ガンダム」の生みの親である富野監督とは、「ニュータイプ」のとらえ方が異なります。

 ファーストガンダムこと『機動戦士ガンダム』の最終回「脱出」では、アムロだけでなく、ホワイトベースに乗艦する仲間や子供たちも「ニュータイプ」として目覚めます。戦争終結後には新しい時代が訪れることを予感させた、感動的なエンディングでした。

 富野監督は「ニュータイプ」像に人類の革新というイメージを含ませていましたが、安彦監督はこれには懐疑的な立場にいます。ジオン公国の独裁者となったギレン・ザビは、アースノイド(地球人類)に対してスペースノイド(宇宙移民)は選ばれた民であると演説し、ジオン公国の国威発揚に利用します。同じように、シャアも「ニュータイプ」はそれまでの古い人類(オールドタイプ)を凌駕する存在だと主張します。こうした「選民思想」は危険だと安彦監督は考えています。

 ララァはインド生まれで、地球にいる間にすでに「ニュータイプ」としての能力を発露している様子が『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では描かれています。「宇宙空間の環境に適応した」という「ニュータイプ」の定義から逸脱しています。アムロやララァの「ニュータイプ」としての資質は、あくまでも個人的なものというのが安彦監督の考えです。

 2023年11月3日にNHK Eテレで放送された『こころの時代ライブラリー』に出演した安彦監督は、「わかり合えないをわかりたい」と語っていました。人間と人間がわかりあうことは容易ではありません。これは「ガンダム」シリーズを通したテーマにもなっています。

 でも、だからこそ「わからない相手」のことを、「わかりたい」と願うのではないでしょうか。世界から戦争がなくなったとき、人類は「ニュータイプ」の時代を本当に迎えるのかもしれません。