『機動戦士ガンダム』のオープニングテーマ「翔べ!ガンダム」CDジャケット(キングレコード)

【画像】衝撃の最終回! 富野由悠季監督の名作アニメたち(6枚)

初代ガンダムOPに隠された法則、アナタは気づいた?

 今では全世界に知られる日本のロボットアニメ。その代表ともいえるのは、やはり『機動戦士ガンダム』ではないでしょうか。しかし、この作品が放送された当時には、制作会社であるサンライズ(当時は日本サンライズ) もスポンサーだった玩具会社(バンダイではなく、クローバーという今は無い玩具メーカー)も、決してメジャーとも大手とも呼べない存在でした。

 そのために作り手側としては、当時のテレビアニメの主な視聴者だった子供たちに、なんとかまずこの番組を覚えてもらわねばなりませんでした。実際には、商品であるロボットを覚えて(買って)もらわなくてはいけないというのが大命題なのです。

 実は、商品を覚えて買ってもらうための仕掛けが、あの有名なOPには隠されているのです。もし『機動戦士ガンダム』のDVDやBlu-rayをお持ちの方、あるいは動画配信サービスに加入の方は、ずっどん、ずっどん、ずっとん、ずっどど、ぴゅぴゅーん、と始まるあのオープニングを改めてご覧になってみてください。

 さあ、解りましたか? 富野監督による演出の法則に、アナタは気づきましたか?

 もしこれを発見したら、絶対に「おおお」と感動するはずです。「燃えあがーれ……」とのオープニングソングとともに流れる映像。その歌の歌詞の中に出てくる「ガンダム」という言葉の時、その画面には、必ず白い機体、そう、ガンダムの姿があるのです!

 このことに気が付いている人は案外少ないかもしれませんね。実は製作側にいたスタッフの間でも、言われて初めて「あっ!」という反応をする人が多いのです。

 オープニングをどのような映像にするかを考えたのは、もちろん、富野由悠季監督です。番組の顔であるオープニングはとても重要なものなので、監督自らが映像を考えることは珍しくありません。アニメーションでどのような映像を作るかを考えるのには、いくつかの行程がありますが、どんな画面をどう動かしてゆくかの設計図のような「絵コンテ」という作業があります。ガンダムに限ったことではありませんが、富野監督は、オープニングの絵コンテで、人一倍、歌詞と画面とのシンクロを意識しています。『ガンダム』の二作前に監督を担当した『無敵超人ザンボット3』のオープニングを見ても「三つのメカが……」で合体シーン、「神秘の姿……」でザンボットの全身、「戦え……」で各メカが武器を打ちまくるシーンなどの画面作りをしています。

 日本サンライズで制作していた作品の多くは、原作マンガなどがないオリジナルです。原作があれば、名前を聞いただけで説明がなくともそれがどんなものかは、皆おおよそ知っています。しかしオリジナルの場合、視聴者にはなんの基礎知識もなく、それこそ「ガンダム」が何かも知らずに見始めることになるのです。

 そんな未知のものを、まず視聴者に覚えてもらい、玩具屋の店先で、そこに登場しているロボットの玩具を見たときに「あれだ!」と気が付いて貰わねばなりません。そんな責任が監督の肩にはいつも掛かっているのです。誰よりも、それをよく理解していた富野監督が『ガンダム』のオープニングに仕掛けたのが、この「歌詞とシンクロして登場するガンダム」なのです。

 作品のヒットには、こうした努力と工夫、そして時の運も含め、さまざまな要因が絡んではいますが、何気なく見ていたオープニングの裏に、こんな秘密があったことを思い浮かべながら、あらためて、もう一度ガンダムのオープニングを見直してみてはいかがでしょうか。なにか、また新しい発見があるかもしれませんよ。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規所属にて『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。