『ウルトラセブン』で描かれたシュールな団地世界

 戦後の日本では1950年代なかばから、「公団住宅」として団地の建設が始まりました。水洗トイレ、内風呂、ダイニングキッチン、ベランダを備えた洋式の居住空間は、当時の一般庶民にとっては大変な憧れでした。高倍率で選ばれた幸運な家族が暮らす、夢のような世界だったことでしょう。

 しかし、高度経済成長が進むにつれ、日本国民の所得は向上し、団地の立場は徐々に変わっていきます。1970年代に入り、各地にマンモス団地が建てられるようになると、部屋の狭さなどの問題点がクローズアップされるようになります。同じデザインの棟がずらりと並ぶ光景は、個性のない、均一的な空間としてとらえられるようにもなっていきます。

 団地をモチーフにした象徴的な特撮ドラマとして、1968年に放映された『ウルトラセブン』(TBS系)の第47話「あなたはだぁれ?」があります。団地で暮らすサラリーマンの佐藤さん(小林昭二)が酔っ払って深夜に帰宅すると、玄関に出てきた妻から「どなたで?」と言われてしまうのです。ご近所さんも、団地前にある交番の警察官も、佐藤さんのことを知らないと言います。背筋がゾッとするシュールなストーリーです。

 ちなみに「あなたはだぁれ?」がロケ撮影されたのは、神奈川県横浜市にある「たまプラーザ団地」です。同じく『ウルトラセブン』の名エピソード、第43話「第四惑星の悪夢」のロケ地にもなっています。

 団地といえば、給水塔がそびえ、ユニークな形状の遊具のある児童公園があったことも思い出されます。そんな近未来的な空間が次々と誕生していることが、当時の円谷プロのスタッフにはSFチックに感じられたようです。



『雨を告げる漂流団地』公開直前ビジュアル (C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

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郷愁を誘う新作アニメ『雨を告げる漂流団地』

 かつては憧れの空間だった「団地」ですが、建設から半世紀以上が経ち、今では取り壊しや建て替え工事が進んでいる状況です。団地内の公園で遊ぶ子供たちの数も、すっかり減ってしまいました。

 そんな団地で育った世代に郷愁を感じさせるのは、2022年9月から劇場公開され、Netflixでも配信中のスタジオコロリド制作の新作アニメ『雨を告げる漂流団地』です。団地で育った小学6年生たちが取り壊しの決まった「おばけ団地」を訪ねたところ、団地の棟ごと異世界を漂流することになるという、ミステリアスなファンタジーものです。

 少年の冒険ファンタジー『ペンギン・ハイウェイ』(2018年)でデビューを果たした石田祐康監督は、東京都調布市の「神代団地」に入居し、『漂流団地』を完成させたそうです。この団地は、『ウルトラマン』(TBS系)の第26話~27話「怪獣殿下」のロケ地としても知られています。石田監督の団地文化への愛情を感じさせます。

 かつてのような活気は失われたものの、残された団地には緑があふれ、さながら陸の孤島のようになっています。「昭和遺産」「昭和レトロ」とも称されています。大友克洋氏のSFコミック『童夢』や中村義洋監督の実写映画『みなさん、さようなら』(2013年)などの舞台にもなった「団地」は、これからも価値観を変えながら、多くの人々の記憶に残り続けることになりそうです。