帳(とばり)が劇場を覆う 舞台「呪術廻戦」開幕【ゲネプロレポート】

週刊少年ジャンプの人気作品にしてアニメ版も大ヒットとなった芥見下々による漫画「呪術廻戦」が、はやくも舞台に。多くのファンが待ち望んだ舞台「呪術廻戦」が、7月15日初日を迎える。

2.5ジゲン!!では初日を前に実施されたゲネプロの様子をレポート。劇中写真とともに本作の魅力や各キャストの見どころについて紹介する。まっさらな状態で観劇したいというファンは、観劇後に読むことをおすすめする。

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情報解禁とともに多くのファンが抱いたであろう「間違いない」という確信めいた思いが、幕が開いた瞬間から刻一刻と事実へと変わっていく。人の負の感情から生まれる呪いを扱うダークな世界観とは裏腹に、観る者の心が多彩な感情で満たされていく、小林顕作節あふれる作品に仕上がっていた。

原作で感じる絶妙なポップさや軽快でコミカルなシーンも丁寧に織り込まれた上で、舞台という装置を存分に遊び尽くす仕掛けが満載。観劇後に、「なるほど、これがじゅじゅステ」と思わず唸ってしまうほど、唯一無二のカラーを放っていた。

物語は主人公・虎杖悠仁(演:佐藤流司)の独白からスタート。彼の生き死にへの思いを垣間見た上で、原作序盤の時間軸へ。驚異的な運動神経を持つ以外は普通の男子高校生・虎杖が、呪いの世界と交差していく過程が描かれる。

虎杖は、呪術高等専門学校から呪物回収のために来ていた伏黒 恵(演:泰江和明)と出会う。オカルト研究部の先輩が手にした怪しいブツが、本気で危険な代物・特級呪物だと知らされた虎杖は、全員を助けるために特級呪物=両面宿儺(演:五十嵐拓人)の指を飲み込むという奇策に出て――。

この出来事をきっかけに、呪術師を育成する呪術高専に編入することになった虎杖の騒がしい日々が始まる。

▲虎杖悠仁(演:佐藤流司)と両面宿儺(演:五十嵐拓人)

呪いと対峙するという点においては、おどろおどろしい雰囲気が漂うが、虎杖たちは青春真っ盛りなお年頃。同級生の伏黒、釘崎野薔薇(演:豊原江理佳)、そして担任にして呪術界で別格の強さを誇る特級呪術師・五条 悟(演:三浦涼介)を中心に、時折、補助監督を務める伊地知潔高(演:田中穂先)を巻き込みながら、テンポよい日常シーンが観客の心を軽くする。

耳に残るキャッチーなメロディラインが脳内をリフレインしていると、間髪入れずに場面は呪霊退治の任務へ。文字通り血みどろな現場での死闘が描かれていく。ダークファンタジーに分類される作品とあって、呪霊との戦いや、虎杖に降りかかる出来事は、凄惨と表現しても過言ではない。

しかし、このじゅじゅステは決して闇に飲み込まれない。作中で虎杖たち呪術師がそうであるように、劇場という帳(とばり)の中に一歩足を踏み入れた観客は、絶望や苦悩の果てに、微かな希望を手にするのではないだろうか。

ここからは各キャストの見どころを、ネタバレのない範囲で紹介していこう。

まずは佐藤流司演じる虎杖。端正な顔立ちと眼力を活かしたキリッとした役が似合う佐藤だが、本作では対照的に肩の力を抜いた芝居が際立っていた印象だ。主人公としての存在感はしっかりとありながらも、虎杖のあの掴みどころのない軽さを好演。動くことでより一層、キャラクターの魅力を引き出していた。

泰江和明演じる伏黒はクール&デレが、なんとも絶妙。ソロナンバーでのノリノリな姿は、意外と付き合いのよい伏黒らしさを感じられた。豊原江理佳演じる釘崎の男気あふれる姿はカッコいいの一言に尽きる。

1年トリオも魅力的なのだが、中盤から登場する2年トリオは個性という意味では1年よりもさらに濃い。スタイルのよさに目が奪われる禪院真希(演:高月彩良)、おにぎりの具しか喋れない狗巻 棘(演:定本楓馬)、完璧な再現度を誇るパンダ(演:寺山武志)。このトリオのナンバーは反則級の面白さと可愛さを持ち合わせているので、ぜひ劇場で目に焼き付けてほしい。

▲2年トリオ&伏黒&釘崎のクセになるナンバーも

呪術高専の校医・家入硝子(演:石井美絵子)や田中穂先演じる伊地知さんは、大人組としてストーリーのよいスパイスに。とくに伊地知さんはシリアスな展開における清涼剤に。クスリと控えめな笑いを誘って、作品全体の緩急をアンサンブルの面々とともに作り出していた。

学校関係者として最後に紹介するのは、“最強”な男・五条 悟。三浦涼介の骨格からの美しさが、たとえ目が隠れていたとしても溢れ出ており、まさに特級な五条に仕上がっていた。規格外の五条の余裕と貫禄、それを体現できるのは三浦だからこそ。存在からして最強な五条は、歌っても踊っても最強なのだな…と謎の説得力も味わえることだろう。果たして彼の隠された目が観られる瞬間はあるのか、観劇の際にはぜひとも注目してもらいたい。

▲強者のオーラがたまらない七海建人(演:和田雅成)と五条 悟(演:三浦涼介)

2幕からは学校OBの呪術師・七海建人(演:和田雅成)が登場。和田自身の持つ陽気さを封印しての、脱サラ・ナナミン特有の哀愁と厳しさを表現。一見するとビジネスライクで厳しい人物だが、その裏にある慈愛をにじませる芝居はさすがと言ったところだ。シリアス一辺倒かと思いきや、意外とクスッとできるシーンも用意されているのでファンはお楽しみに。

2幕では七海に加え、最悪の呪詛師・夏油 傑(演:藤田 玲)率いる夏油一派が派手に動き始める。夏油を演じる藤田も、真人を演じる太田基裕も、第一声でガラリと空気を変えられる役者だ。夏油一派の人数は多くないものの、2人の芝居や歌声は圧倒的な強さを放つ。少数精鋭で大きなことを成し得てしまいそうな不気味さが味わえるのは、芝居はもちろん圧倒的歌唱力を持つこの2人がタッグを組んでいるからこそ。そこにビジュアルが本物な漏瑚(演:山岸門人)と花御(演:南 誉士広)が加わることで、2次元から0.5次元分、飛び出した世界にいることを実感できるはずだ。

真人と関わることになる吉野順平は福澤希空(WATWING)が熱演。一般人であった彼の無垢さと、福澤のピュアさが融合し、ほかのキャラクターにはない透明感が生まれていた。

虎杖と身体を共有する両面宿儺は、ダンサーとしても活躍する五十嵐拓人が担当。まだ本領発揮はしていない両面宿儺の掴みきれない恐ろしさを、高い身体能力を活かしながら見事に表現していた。

舞台「呪術廻戦」はダークでありながら、作り手の温もりを感じられる作品になっていたのが印象的だった。感情という人の思いから生まれるものを描くからこそ、本作もエンタメである以上に、人の感情に根ざした作品になっているのかもしれない。果たしてあなたはこの作品に、どんな“思い”を受け取るのだろうか。

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舞台「呪術廻戦」は7月15日(金)~7月31日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて、8月4日(木)~8月14(日)まで大阪・メルパルクホール大阪にて上演される。

 

取材・文・撮影:双海しお

(C)芥見下々/集英社・舞台「呪術廻戦」製作委員会