いずも型護衛艦「空母化」必要なの? 軍事的な合理性はあるか それ以上に大切な「日本の見られ方」

海上自衛隊は2023年10月現在、全通甲板型形状の護衛艦「いずも」「かが」の2隻を空母に改装しようと動いています。ただ、戦力的にはあまり貢献はしなさそう。有事よりもむしろ、平時の方が重用するかもしれません。

戦力向上を考えるなら空中給油機の方がメリット大

 日本はまもなく戦闘機の運用が可能な航空母艦、いわゆる「空母」を手にしようとしています。2023年現在、海上自衛隊が保有するいずも型護衛艦の2隻、「いずも」と「かが」に対してF-35B 短距離離陸・垂直着陸(STOVL)戦闘機が運用可能な能力を付加する改修が順次行われています。これは日本の軍事力を大きく向上させるとともに、国際社会における日本の存在感を高めることになるでしょう。

 しかし、空母は本当に必要なのでしょうか。実は、空母の導入は軍事的な合理性よりも政治的な理由によって決まったと言えます。筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は2017年ころには、空母の導入はしばらくないと予測したことがあります。

 その根拠は、日本の防衛政策においては基本的に航空自衛隊の活動範囲内での作戦が推定されるから。加えて空母は高価であり、維持費や運用費も考慮するなら空中給油機のほうが、はるかに戦力の向上につながるだろうと考察したためです(これについては空中給油機KC-46の配備がすでに始まっています)。

 当時、いずも型護衛艦への戦闘機搭載改修に否定的な声は筆者以外にも見受けられ、決して少なくありませんでした。結果として、戦闘機搭載化に否定的だった人たちの予想は外れたことになりますが、筆者を含め、軍事的な合理性に欠けると考えていた人たちは何を間違っていたのでしょうか。

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「空母がある」それ自体に意味がある

 軽視されていた重要な点としては「空母は政治的に非常に大きな意味合いを持つ」ということです。東アジアでは、中国の軍事的な挑発や領土問題が深刻化しており、日本は将来的にあり得る中国の海洋進出に対抗するために、自国の防衛力を強化するだけでなく、同盟国や友好国との連携を密にする必要がありました。

 その点では、空母は有効な手段であると言えます。海上自衛隊は昭和の頃から「一国一城の主」として、いつかは保有したい「天守閣」として、何度となく保有の構想を掲げていましたが、限られた防衛予算のなかでは、たとえばイージス艦が優先されるなどずっと後回しにしてきた経緯があります。

 空母は戦闘に使われることもあるでしょうが、いずも型は非常に小型であり、その機能はどうしてもアメリカ海軍のニミッツ級原子力空母などと比べると限定的です。したがって、戦闘での貢献度は正規空母と比べると極めて低く、誤解を恐れずに言うなら「なくても困らない」レベルというのが実情です。

 しかし、平時の外交の道具として見た場合は別です。日本は空母を持つことで、自国の防衛意志や能力を示すことができ、また空母はヘリコプターの運用拠点としては非常に効果的であることから、その能力を使って他国で協力や支援を行うことで、日本は国際社会から尊敬される存在として認められることにつながるかもしれません。

 もっとも考えられる有効的な使い方は、やはり災害時に空母から救援活動を行うことでしょう。また、諸外国での平和維持活動や人道支援活動にも空母として参加することができます。さらに、同盟国や友好国との共同訓練や演習にも空母を使うことができます。これらの活動は当然海外へ向けて発信されますから、いずも型を空母化したなら、それは「日本の顔」として世界にプレゼンスをアピールする手段として極めて有効です。