アメリカ海軍の“無人艦”横須賀に現る! その名も「幽霊艦隊」 一体どう戦うのか

アメリカ海軍横須賀基地に、最新鋭の無人水上艦(USV)「レンジャー」が寄港しました。同艦が所属する艦体名は「幽霊艦体」。遠路はるばる“自律”航行して来ましたが、アメリカ海軍は何を目的にしているのでしょうか。

最新鋭無人水上艇を報道公開

 2023年9月21日(木)、神奈川県にあるアメリカ海軍横須賀基地にて、1隻の艦艇が報道陣に向けて公開されました。一見するとただの小型船に見えますが、実はこれこそが、現在アメリカ海軍において試験が進められている、最新鋭の無人水上艦(USV)「レンジャー」です。

「レンジャー」はもともと、2018(平成30)年に海上の石油掘削用リグなどに物資や人員を輸送するための高速船として建造されました。その後、アメリカ海軍がこれを購入して無人運用に必要な改造を施し、2022年に新設された「第1無人水上艦隊(USVDIV-1)」へと配備されました。

 カリフォルニア州に所在する同隊は、無人水上艇の中でも「大型無人水上艦(LUSV)」と「中型無人水上艦(MDUSV)」が配備されている部隊で、USVを有人艦艇により構成される艦隊といかに統合すべきかを試験し、評価することを任務としています。

 2023年現在、USDIV-1には「レンジャー」を含むLUSVが4隻、MDUSVが2隻配備されています。このうち、LUSVについては「ゴーストフリートオーバーロード」、つまり「幽霊艦隊」というプログラム名が冠されています。

運用試験の一環としての横須賀寄港

 今回、「レンジャー」は同じくLUSVの「マリナー」とともに、2023年8月から実施されている「統合戦闘課題23.2(IBP 23.2)」と呼ばれる運用試験の一環として横須賀基地に寄港しました。IBPは、無人水上艦の運用に関するコンセプトなどを打ち立てるために行われているもので、これまでにも2回実施されてきました。

 アメリカ海軍の発表によると、今回のIBP 23.2では、「インド太平洋における中型および大型の無人水上艦から、高度な有人・無人チーム編成までの能力とコンセプトの試験と開発」に焦点が当てられるとのことです。また、今回の横須賀寄港に先立ち「レンジャー」および「マリナー」は、アメリカ海軍および海兵隊が実施した「大規模演習2023(Lage Scale Exercise 2023)」に参加し、原子力空母「カール・ヴィンソン」を中心とする第1空母打撃群と共に活動しています。

 また、国際日付変更線を越えてアメリカ第7艦隊の担当エリア内に入った後も、沖縄に配備されている第3海兵遠征軍や第76任務部隊、第15駆逐戦隊などと連携して、「ISR(情報・監視・偵察)」を含むUSVの能力を実証したとのことです。

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“自律航行”で太平洋横断!

 この間、USVはアメリカ本土から出入港時を除くほぼすべての期間、乗員による監視のもとにほぼ自律航行が行われたとのこと。ちなみにアメリカ海軍の無人水上艦が、国際日付変更線を越えるのはこれが初めてのことで、もちろん、日本への寄港も今回が初めてとなります。

センサーにもシューターにもなれる? USVの重要性

 今回のIBP 23.2において、具体的にどのような内容の試験が行われているのか、その全貌は未だ明らかにされていません。ただし、これが中国の脅威に備えているアメリカ海軍第7艦隊の担当エリア内で実施される初の試験であるという点は、非常に重要な意味を持っていると筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

 というのも、実際に有事における活動が想定される海域で、かつ地域内に配備されているアメリカ軍の各部隊と協力しながら試験データを収集できることは、USDIV-1のみならず、ほかの部隊にとってもUSVに関する理解を深める非常に貴重な機会であるためです。

 現在のところ、アメリカ海軍ではLUSVおよびMDUSVを、ISR任務や対潜戦支援、ミサイル発射プラットフォーム、さらに物資輸送など幅広い任務に投入することを目指しています。特に台湾有事を想定した場合、南西諸島周辺の東シナ海では、中国軍の長射程対艦ミサイルや潜水艦の存在により、アメリカ海軍や海上自衛隊の大型有人艦艇の活動が困難となる恐れがあります。

 そこで、人命が損なわれることがなく、また比較的安価なUSVが先行して東シナ海で活動し、発見した敵艦艇などの情報を有人艦艇や地上部隊が受信して、対艦ミサイルや対潜ミサイルで攻撃するというシナリオも考えられるでしょう。

 つまりUSVは今後、有人艦艇や地上部隊にとっての「視覚の拡大」をもたらす存在になると考えられます。さらに、USV自身にミサイルを搭載して、ほかのUSVと協調しながら攻撃できるようになるかもしれません。実際、2020年には「レンジャー」の後部甲板に設置されたランチャーから、艦対空ミサイル「SM-6」を発射する試験が行われています。

 ただし、USVは既存の駆逐艦や空母といった有人艦艇を置き換える存在にはなりえません。アメリカ海軍においても、USDIV-1のもとで「いかに有人艦艇とチームを組むことができるか」という点に焦点を当てたコンセプトの開発が進められています。こうしたアメリカ海軍の先進的な取り組みに、日本がどのように呼応するべきかを考えることが重要でしょう。