ひとつの空港に「3つ目のアクセス鉄道」それでも大成功!? 新線開業が”悲願”だった「絶妙な理由」とは

そもそも「市民の足」として超有能!?

 エリザベス線は地下鉄からも客を奪っています。エリザベス線と地下鉄の双方を運行するロンドン交通局の関連組織、エリザベス線委員会が「2023年1月にエリザベス線を利用した乗客の19%が、元々は地下鉄利用者」と発表しています。当初予想の「乗客の40%が地下鉄からの移行になる」という強気の想定には及びませんが、ヒースロー空港からピカデリー線を利用していた客層の一部がエリザベス線に移行していることを、鉄道会社の関係者も認めています。

同資料で興味深いのは、空港に乗り入れて直接競合するピカデリー線だけでなく、地下鉄で最も混んでいると言われていたセントラル線や、都心と郊外の高級住宅街を結ぶジュビリー線からも乗客がシフトしていることです。ロンドンを東西に貫く輸送需要として、エリザベス線が受け皿となった形です。

 私は天候もエリザベス線に味方したのではないかと見ています。上記の地下鉄3路線は、古いトンネル構造のせいもあって、何といまだにクーラーがありません。エリザベス線の開業直後の2022年夏は記録的猛暑で、英国政府が国家非常事態宣言を出す騒ぎでした。冷房完備の新車両であるエリザベス線、「開業1周年で1億5000万人達成」に昨夏の猛暑が一役買った可能性は無視できません。

 さらに想定外の追い風となったのは、2023年1月にエリザベス線を利用した乗客の30%が「新規顧客」だったこと。マイカーからエリザベス線へ移行した乗客に加えて、「エリザベス線だから乗った」という乗客です。エリザベス線に乗ること自体がもはやブームになっていると言えます。

 モーダルシフトで気候変動対策にも役立った鉄道路線。このブームを一過性のものにせずに固定客に取り込めるかが、今後の課題かもしれません。