独の政府専用機「怒りの即刻クビ事件」なぜ起きた? 軍のメンツをつぶしたA340 「中古機だから」とも言えず

ドイツがエアバスA340をベースとした政府専用機を「可能な限り早く」退役させると発表しました。これは相次ぐ機体のトラブルが直接的な要因ですが、一体何があったのでしょうか。

機齢は23年前後

 ドイツ空軍が、2023年8月、政府専用機として運用していた2機のエアバスA340-300型を、「可能な限り早く」運航停止にすると発表しました。もともとはA350の導入に伴い、1機は2023年9月に、もう1機も2024年末で退役するはずでしたが、後述するアクシデントをきっかけとし、ついに堪忍袋の尾が切れて前倒し退役となりました、どのような背景があったのでしょうか。

 A340ベースのドイツ政府専用機は2023年8月14日、ドイツ外相の外遊時に経由地のアブダビから離陸する際、フラップ(高揚力装置)の不具合が発生させフライトを中止。翌日に再度フライトを試みるも、同じトラブルが起き飛べず、結局外遊を中止にさせてしまったのです。それ以外にも、メルケル前首相を含む政府閣僚の外遊時にトラブルを起こすなどの“前科”を多く持っていました。

 これらの政府専用機は、1機は24年前に、もう1機は23年前に製造され、それ以前はドイツのルフトハンザ航空で旅客機として使用されていたものです。いわば、トラブル続きの古い機体に、まさにドイツ空軍の堪忍袋の緒が切れた、といってよいでしょう。

 定期便を飛ばす航空会社たちも、安全運航はもちろんのこと、定時性の確保に常に気を払っていますが、これは政府専用機を飛ばす公的機関も同じです。当然、首脳の外国公式訪問ともなれば、「定時性の確保」は非常に神経を非常にとがらせる問題となります。

 要人は互いに分刻みのスケジュールで動く必要があるなか、重要な国際行事である公式会談は非常に重要で、注目を集めるものです。こうした外遊の中止は即座にニュースとなって駆け巡り、理由が政府専用機のトラブルともなれば、運用者の技術力や管理力が問われます。この機のトラブルは、海外の国々から見れば、ドイツ空軍が整備力と機体管理力に欠けているとみなされかねないもので、軍が国家の面目も潰したといえるかもしれません。

 随分以前に、筆者は、とある国の空軍が運用していたボーイング707を整備している航空会社を見学したことがあります。その際、「絶対に写真を撮らないでください」と強く求められました。それだけ、軍関係のミッションは、整備と警備確保へ神経をとがらせて臨んでいるのです。

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「古いから壊れやすかった」とも言い切れず

 今回のエアバスA340ベースの政府専用機は、中古機かつ決して新しいとはいえないものの、旅客機や貨物機では機齢が30年を超えることもあり、この政府専用機が著しく古いとは言えません。

また、ドイツ自体がA340型をメーカーであるエアバス社の製造国のひとつです。そうしたことから、補修用の部品が枯渇するとも思えません。そのため、頻発したトラブルの原因は「中古機を使っていたから」ではなく、そもそも“素性”の悪い機体だったとも考えられます。

大量生産する機械は、どうしても故障しやすい、いわゆる“ハズレ個体”が出てしまうのは仕方ないことです。航空機もそのひとつで、数えきれないほど多くの緻密なパーツから構成された巨大な精密機械と考えれば、なおのことでしょう。

 また、ドイツの国防費の推移も背景のひとつとして考えられるでしょう。2023年6月に閣議で決まった2024年の国防予算は17億ユーロ増額の総額518億ユーロ(約8兆1070億円)でしたが、それ以前はドイツでは軍事力の削減が続いていたということです。緊縮予算の中、政府専用機とはいえ第一線の戦闘用でないため、整備の優先順位は高くなかった可能性もあります。

 なお、ドイツではエアバスの最新鋭機「A350」をベースとする新型の政府専用機を導入済みで、これまでA340が担当していた要人輸送任務は、この後継機であるA350政府専用機が担当する予定です。