「対中国」念頭か 病院船に“速さ”必要なワケ 米海軍の新型 船名からして重要な存在に

アメリカ海軍が明示した遠征病院船の意義

 このベセスダ級遠征病院船、実は今後のアメリカ海軍の運用構想において、非常に重要な意義を持つことになるとみられています。というのも、船名が「ベセスダ」に決定された際のアメリカ海軍のプレスリリースにおいて、次のような記述があったからです。

「このベセスダ級遠征病院船は、分散型海上作戦(DMO)を支える中で病院レベルの医療ケアを可能とする医療専用船である」

 この「分散型海上作戦」とは、艦艇どうしを分散させて敵からの発見を避けつつ、情報共有などにより連携して脅威に対処するという、アメリカ海軍の新しい運用構想です。艦艇どうしの距離が離れる分、病院船にもそれなりの機動性が求められる、ということなのかもしれません。

 加えて、これまでアメリカ軍にとっての戦場はイラクやアフガニスタンなど地上で、しかも敵はテロリストや武装勢力でした。こうした状況下では、例え兵士が負傷したとしても、短時間で医療施設へと搬送する余裕がありました。ところが、今後最も懸念される中国との軍事的な衝突を想定すると、その戦場は海や島で、しかも敵は正規軍です。

 そこで、必要な海域へ即座に展開でき、かつ南シナ海や東シナ海の島々へ容易にアクセスできるよう、浅い海域でも活動できるような能力が求められたのではないかと、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

 遠征病院船のみならず、アメリカ海軍で今後就役するスピアヘッド級の最新バージョン(フライトII)においても、従来の輸送艦と比較して医療設備の拡充が図られています。こうした動きは、次の戦いに備えるアメリカ軍の「本気度」の表れなのかもしれません。