最近話題の海底熟成ワイン。海に沈めることで熟成が促されるという。また海流という揺れも一役かっているとか。詳しい原理や化学的なことはわからずとも、海が引き起こす力にロマンを感じる人は多いはず。
わたしは東日本大震災の後、瓦礫撤去のボランティアで宮城県の女川(おながわ)の海に通っていた。11年経った今でも、そこで出会った人たちに会いに行っている。いつだって温かく迎えてくれる女川の人たち。11年経った今でも定期的に訪れているのは、時間が経つに連れて関係性が深まり、会いたい気持ちが強くなっているからである。
そんな女川の海に、ダイバーがワインを沈めるという話を聞いた。
ダイビングポイントにもなっている女川の竹浦(たけのうら)漁港
旅行会社「ワールドツアープランナーズ」による企画で、モルディブのダイビングクルーズ「アイランドサファリロイヤル号」でメインガイドをしている的場(まとば)充弘氏が率いるグループだった。的場氏の出身は宮城県。東日本大震災から10年がすぎ、この地のことを多くの人に知ってもらえる方法はないかと模索していた中でたどり着いたのが、この海底熟成ワインだったとのこと。
震災翌年の2012年に、石巻にオープンして今年10周年を迎える宮城ダイビングサービスHigh bridge(ハイブリッジ)の協力の元、6月末に実施された。
2012年に石巻にオープンした宮城ダイビングサービスHigh brige
女川の竹浦漁港▼
的場氏とその仲間たちが海底に200本のワインを沈める!
的場氏による、海底熟成ワイン行程イメージ図
ただ沈めればいいというわけではない。前段階として、半年間の貯蔵に耐えられるように、ワインの口の部分全体を蝋で封をする(ワックスキャップ)作業が必要となる。海底に沈める前日には、200本のワインに蝋封が行われた。そして、ケースの中に入れてワイン同士が大きく動いてしまわぬように紐で固定した。
的場氏と同じくワールドツアープランナーズの飯田氏、そして海底設置ツアーに参加した方々との手作業である。初の試みである故に試行錯誤だったと聞いた。
船に運ぶのも手作業。
こちらはワールドツアープランナーズの飯田氏
船に乗せるのも手作業。
海底での半年間、瓶を守るためにケージに入れる。こちらももちろん手作業である。
ケージが空いてしまわないように留め金をして鍵をかけるのも手作業。
海に下ろすのは、さすがに文明の力を用いて。
上空からもわかるように、この日の透明度はすこぶる悪かった。数日前に岩手で雨が降ったことが原因である。ドライスーツを久々に着るという参加者たちへの緊張感が増しているようだった。
そういった意味では、水中の透明度が悪かったことは想定内であっただろう。そして、通常のダイビングとは異なり、みなさん慎重。
水中用の有線マイクで「下ろしてください」「止めてください」と水中から指示を出し、船の上にいる漁師さんと連携をとりながら、ゲージのバランスを取りながら、ゆっくりと沈めていった。
そして、着底である。
ワインの着底を確認し、別れをつげての浮上。
今回200本のワインを沈めることに成功した。東北の海に揉まれて半年後、何本のワインと再会できるだろうか。
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海底熟成ワインの引き上げツアーも計画中
今回沈めたワインの引き上げは、11月末から12月に行われる予定となっている。このために現在モルディブにいる的場氏が帰国予定。それに合わせて引き上げの記念ツアーが開催されるとのこと。
半年間海底にいたワインはいったいどのように変化しているのだろうか。興味深い。その瞬間に立ち会える貴重な体験ツアー。詳細が決まり次第、ワールドツアープランナーズのページにて発表予定。