あおり運転が社会的問題として認識されるようになった昨今ですが、それでもなお、あおり運転を原因とした重大事故のニュースは後を絶ちません。

車間距離を詰める、幅寄せをする、クラクションを鳴らす、パッシングをするなどが代表的なあおり運転の行為とされますが、さらに悪質な場合、道をふさぐようにクルマを停めた上でクルマから降り、怒鳴ったり車体をたたいたりするケースも。

そのようなとき、被害者が窓を開けて加害者に応じてしまうことがあります。これが危険な行為であることは言うまでもありませんが、なぜ、被害者は窓を開けてしまうのでしょうか?

窓を開けてしまうと、被害はさらに大きくなる場合も

あおり運転の被害者が窓を開けてしまう例として知られているのが、2019年8月に茨城県の常磐道で発生した事件です。

この事件は、早朝に東京方面へと走行していた被害者に対し、加害者があおり運転行為を繰り返したあげく、進路をふさぐかたちで高速道路上に停車を強要し、最終的に被害者に対して暴行しました。

その後、加害者は逮捕され、懲役2年6月・保護観察付き執行猶予4年の判決が下されました。しかし、判決の内容以上に、社会に対してあおり運転の恐怖を植え付け、またドライブレコーダーの重要性を知らしめた事件となりました。

実際に、事件の一部始終は被害者のクルマに取り付けられたドライブレコーダーに記録されており、そのショッキングな映像は多くの視聴者に衝撃を与えました。

一方、事件の映像を見た視聴者からは、「被害者が窓を開けて応じなければ、暴行されることはなかったのでは」という意見が寄せられました。

この事件以外にも、あおり運転の被害者が窓を開けてしまうことによって被害が大きくなることは珍しくありません。

第三者から見れば、窓を開けるべきでないことは明らかですが、それでも窓を開けてしまう背景には、あおり運転独特の事情があると言います。

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なぜ、窓を開けてしまう?

あおり運転などの交通問題に詳しい自動車ジャーナリストは、次のように話します。

「あおり運転の被害者は、自身に非がないと感じているからこそ、窓を開けて『正論』による話し合いで対応してしまおうすることがあります。これはふだんから正義感の強い人ほどそのようになる傾向があると言われています」

そのうえで、

「実は、あおり運転というのは『加害者』と『被害者』をはっきりとわけにくいという特徴があります」

とも話します。どういうことか詳しく聞いてみました。

双方が被害者意識を持ちやすいからこそ、トラブルが大きくなる

「あおり運転のニュース映像を見ると、突発的にあおり行為が始まったかのような印象を受けますが、実際にはその火種となる交通トラブルが事前にあることがほとんどです。

例えば、AのクルマがBのクルマに対し、危険な割り込みをした結果、BのクルマがAのクルマにあおり運転をしてしまうような例です。

Aのクルマには危険な割り込み行為を行ったという自覚がない場合も多く、その際には両方のクルマが『被害者』という意識を持つことになります

もちろん、危険な行為を受けたからといって、Bのクルマがあおり運転を行なうことは許されません。ただ、Bのクルマも『被害者である』という意識があることから、自身の行為を正当化してしまうのです」

「冷静に対応すれば大きな問題には発展しないという指摘もあります。しかし、クルマの運転中は、継続的な緊張状態に置かれるため、そもそも冷静な判断をしにくいという事情があります。

そうした中で交通トラブルが起こると、些細なものであっても、必要以上にヒートアップしてしまいがちです。その上、互いに少なからず被害者意識があることから、相手に対して過剰な正義感を持ってしまうということがあります」

このように、「自分は被害者だ」という一方的な被害者意識は、時としてさらなるトラブルを生んでしまうことになります。

クルマの運転中は冷静な状態を保ちにくいこともあり、路上で話し合いをして解決することはほとんど不可能でしょう。こういったシーンで窓を開け、相手と直接話そうとするのは得策とは言えません。