「幸せな家族」とは一体なんだろう。

多様性が重視される昨今において、きっとその答えは一つではないはずです。男女の夫婦以外に“夫夫”がいてもいい。そこに幸せがあるならば、性別や身分に囚われる必要なんてない。

現在放送中のTVアニメ『ただいま、おかえり』は、そんな“当たり前”を再確認できる作品です。α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)の3種の人間が存在し、男女に関係なく妊娠することができるオメガバースという架空の世界設定が描かれています。

愛する夫・藤吉弘(α)と結ばれて専業主夫になった藤吉真生(Ω)は、もうすぐ2歳になる息子・輝を授かり、郊外の街に引っ越してきました。

αとΩの「格差婚」という世間からの偏見を受け、なかなか自分に自信が持てずにいる真生。作中では周囲から心ない言葉を掛けられたり、無意識の差別によって心を痛めてしまうシーンが度々描かれています。

「そんな真生は、弘と出会って、二人の間に輝が生まれて、自分の全てを受け止めてくれる家族という存在ができた。それが何よりも支えになっているんです」

真生役を演じた声優・田丸篤志さんは、「家族というかけがえのない存在が、真生を強くしてくれた」と嚙み締めます。

オメガバースという特殊な設定のある世界だからこそ、感じてしまう痛みやつらさ。

「こうした設定のある作品に触れるのはほとんど初めてだった」と明かす田丸さんですが、真生の内側にある苦しみや葛藤、そして家族への深い愛情を、どのように解釈して役に落とし込んだのでしょうか。本作の魅力と合わせて聞きました。

オメガバースは現実と共通する部分もある

ーー本作は「オメガバース」という特殊設定を扱っていますが、この設定は以前からご存じでしたか?

田丸篤志(以下、田丸):

言葉を耳にしたことはありましたけど、確かきちんと設定を知ったのは(ドラマCDで)この作品に携わることになってからだったと思います。

最初は率直に、「すごい設定が出てきたな」と思いましたね。ただ、原作コミックスの冒頭にオメガバースの世界観や、αやΩが持つ先天的な性質について細かく説明があったので、すんなりと理解できました。

ある種のファンタジーといいますか、面白い世界観だなと感じましたね。

現実とは全く異なる世界ではありますが、特に『ただいま、おかえり』での描写においては、現実と共通する部分もあると思うんです。

ーー例えば、どのような部分で現実との共通点を感じますか?

田丸:

真生は(オメガバースの世界では差別の対象となりやすい)Ωで、生まれ持った能力値が高いとされるαの弘との結婚は「格差婚」であると、周囲から無意識の差別を受けている描写がありますよね。

性別や属性によって区別されたり、心ない言葉を掛けられたりする場面って、残念ながら現実世界にもまだ残っている気がしていて。

なので、オメガバースでの世界ならではの描写だから理解できないとか、演じるのが特別難しかったとかはなかったです。

ただ、そういったシーンは真生という人物を表現する上で欠かせない要素だと考えていたので、丁寧に演じるように心掛けました。

ーー第1話の冒頭では、テレビ番組のコメンテーターの発言に心を痛めるシーンがありましたね。

田丸:

弘の両親も最初はそのような発言をしていましたよね。

でも彼らに関しては、単純に育ってきた環境とか時代が違うから、無意識にそういう発言をしてしまっているのではないかと思っていて。真生に敵意を抱いているとか、傷つけたいというわけでは決してないと僕は考えています。

それでも、やっぱり真生にとっては「Ωだから」とあれこれ言われるのはつらいこと。

その事実に変わりはないので、両者の立場を踏まえた上で、そこは解釈していく必要があるのかなと思いました。

ーー真生の過去を描く回想シーンでも、Ωに生まれたことへの罪悪感だったり、αである弘との結婚を踏み切れずにいる描写がありました。

田丸:

真生はもともと気にしすぎなところがあって、つい「自分なんか」って考えてしまう性格なんですよね。だから「ひろさん(弘)と結婚したら足手まといになるんじゃないか」って考えてしまったのだと思います。

でも最終的に弘は、そういう葛藤も含めて真生の全てを受け止めてくれるんです。今までもいろんな葛藤を全て乗り越えて夫婦になった二人なので、これからもそうであると信じています。

あとはそこに輝という、純粋無垢な存在が居てくれるのも大きいなと思いますね。

「Ωだから」と心ない言葉を投げ掛けられたり、テレビでΩの人をけなすような発言をしているのを聞いてしまったり……ふとした事で真生が胸を痛めるシーンがありますが、そういう時に輝が言ってくれるんですよ。「まあちゃ(真生)をいじめちゃ、だめ!」って。

それで真生もハッと我に返るんですけど、Ωとかαとか、あまりよく分かっていない子どもの言葉だからこそ響くんですよね。

輝はもうすぐ2歳になるくらいの年齢なので、複雑な背景とかは全部抜きにして「ダメなものはダメ」「嫌なことは嫌」という、シンプルですごく大切なことを大人たちに教えてくれる

そのピュアな正しさに、真生も弘も救われているんだろうなと思います。

ーー第1話で、家族3人でクリスマスツリーの飾り付けをするシーンでもそのような輝の無邪気さにハッとする場面がありましたね。

田丸:

ツリーのてっぺんにある星を指して「お星さまが輝で、その下にある二つのベル(真生と弘)を照らしてるよ」って伝えるシーンですね。

そういう輝の無邪気な明るさに触れることで、真生は自分自身が抱えている苦しみに少しずつ向き合えるようになったのだと思います。

真生は、弘に出会うまではずっと独りだったんですよね。

それが二人になって、輝が生まれて、自分の全てを受け止めてくれる家族という存在ができた。それが、何よりも真生の支えになっているのだと思います。

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弘&松尾、祐樹&お母さんの「関係性」が推せる

ーー4月8日からアニメが放送開始しています。本作において、TVアニメならではの魅力をどのように感じていますか?

田丸:

やっぱり、輝のかわいらしさが倍増されたなと思います。第1話を観た時、とにかく「かわいい!」を連呼していました(笑)。

アニメ化するにあたって、実は一番気になってたのは輝の表情だったんです。

原作コミックスでは、あの赤ちゃん特有のほっぺたのモチモチした感じとか、コロコロ変わる表情とかがすごくかわいらしく描かれているじゃないですか。

「アニメではそれがどこまで表現されるんだろう」と気になっていて。でも完成した映像を観て、それは杞憂に終わりましたね。

ーー登場人物の中で、田丸さんが特にいいなと思ったのは誰でしょう?

田丸:

僕が演じる真生ももちろんいいなと思うのですが……個人的には、弘と松尾(知泰)の関係性がいいなと思いました。

普段は“エリート”でかっこいい弘が、同僚の松尾と一緒にいる時だけはそれが崩壊してしまう。第1話でも輝の動画を見せてデレデレしている弘に対して、松尾が雑にツッコむシーンがありましたが、そういう関係性が微笑ましいなと思いましたね。僕も、松尾に雑にツッコまれてみたいなと(笑)。

あとは、(平井)祐樹くんのお母さんかな。

ーー藤吉家の隣家に住む大学生・平井祐樹の“お母さん”ですか?

田丸:

はい。祐樹くんって藤吉家と関わるまでは家に引きこもりがちだったんですけど、そういう我が子に対して過保護にならず、あえて距離を置いているのがすごく良くて。

もしかしたら、我が子に対してちょっと雑な扱いをしている印象を受ける人もいるかもしれません。でも「雑な扱いをする=家族として信頼している」ということだと思うんですよね。

ーー確かに、我が子を信じて任せるような親の愛を感じました。

田丸:

藤吉家以外の登場人物たちの家族の絆の深さ、人と人とのつながりも丁寧に描かれているなと思います。

そういうキャラクターが周りにいるからこそ、藤吉家の魅力が倍増するのかもしれませんね。

祐樹のお母さんに関しては、アフレコ現場でも「良いキャラだよね」「息子に対してあえて雑な感じがまた良いよね」と盛り上がっていました。