あなたにとって愛着のある土地はありますか?

生まれ育った町、たまの休みにしか訪れない場所、刺激的な思い出がある旅の地……思い浮かぶ土地はさまざまでしょう。

「私は、15年間育った町」

こう答えるのは、声優の佐倉綾音さん。「声優の仕事を志した地であり、思春期特有の苦楽を共にした地でもある」と言います。

そんな佐倉さんは、生まれ育った町に人一倍愛着を持つ少女、長編アニメ『クラメルカガリ』の主人公・カガリを演じます。

カガリが暮らすのは、日々迷宮のように変化する炭鉱の町“箱庭”。変わりゆく街並みを地図に書き留める“地図屋”として生きるカガリと風変わりな町の人々との営みが描かれている『クラメルカガリ』にちなみ、佐倉さんにとって思い入れのある土地、暮らしを豊かにするために欠かせない存在を聞きました。

また、『クラメルカガリ』で描かれる幻想と現実が入り混じったようなレトロな世界観、少ない情報量でありながら個性溢れるキャラクターデザイン……「まるで幼いころに自分が思い描いていた作品」と話す佐倉さん。

「この世界に入れたらきっと楽しいだろうな」と思いながら、自宅のクローゼットでオーディションテープを収録したそう。

「1番素に近い“飾らない声”で演じた」というカガリのキャラクター性や演じる上で意識したこと、「成田(良悟)作品がすごく好き」な佐倉さんが印象に残っているキャラクターなど、『クラメルカガリ』の魅力を余すことなく語っていただきました。

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セピアな色合い、紙のような質感…レトロな雰囲気に「この世界に入れたらきっと楽しい」

――キャストコメントに「オーディションの時に頂いた資料を見て『私の大好きな世界だ…』と感じた」と記載がありました。まずは佐倉さんが『クラメルカガリ』の世界観で一番刺さったところについてお聞かせください。

佐倉綾音(以下、佐倉):

オーディション前に、設定資料とキャラクターデザインに加え、作品の世界観が分かる場面写、コンテのVTR、オーディション用の原稿をいただきました。それらの資料を見た時、茶色がかったセピアな色合いや紙のような質感の世界観に、「大好きな世界観だ……」と思ったんです。

幼いころから絵を描くことが好きだったのですが、デジタルで絵を描くことを覚えてからずっと紙のテクスチャを必ず使って絵を描いていたほど、ああいった質感が大好きで。世界観のレトロな雰囲気と自分の幼い頃の思い出が重なり、とても懐かしい気持ちになりました。

こんな絵を描ける人に憧れていたこともあり、「この世界に入れたらきっと楽しいだろうな」と思いながら、自宅でオーディションテープを録りました。

――世界観のほかに『クラメルカガリ』の中で刺さったポイントはありましたか?

佐倉:

キャラクターデザインがかなり好みでしたね。

私は極端な性格なので、たくさん描き込まれているデザインか、引き算して洗練されたデザインが好みなのですが、『クラメルカガリ』のキャラクターデザインは、「私が好きな引き算されたデザインだ!」と感じました。

特にカガリは片目が隠れていたり、ミステリアスな雰囲気がデザインから読み取れたんです。「この子のこと、とても好きになれる気がする」と思いました。

――そんなカガリのオーディション、どのように演技プランを組み立てて臨んだのでしょうか。

佐倉:

声優として培ってきた技術を少しずつ捨てるようなお芝居を意識しました。

私はキャラクターを構築する時に、そのキャラクターが持っている信念や向かっていきたい方向性、叶えたい夢など人間の原動力になっている部分を見極めようとする癖があるのですが、カガリからはそういったものがあまり読み取れず。

一方で、カガリのマイペースさが押し出されたオーディションのセリフや少しタレ目なキャラクターデザイン、そして資料のVTRに入った監督の声を聞いて、「もしかしたらカガリはかなり緩く構築してもいいのかもしれない」と思いました。

なので、パキッとした色使いの作品だと画に負けてしまうくらいのゆるい発声、滑舌感……ダラッと肩の力を抜いているような、家にいる時のかなり素に近い状態の声がいいだろうと考え、クローゼットの中でオーディションテープを録りました。

――へえ! クローゼットの中でオーディションテープを録音したとは……!

佐倉:

本番のアフレコテストの時、スタンドマイクで姿勢よく録っていたら、音響監督さんに「もっとダラリとした感じでいいと思います」と調整が入ったんです。

「たしかに家でオーディションテープを録った時は、もっと背中を丸めてちゃんと発声していなかったな……」と思い、クローゼットの景色を思い出しながら収録しました(笑)。いつもはしっかり役づくりをしてアフレコに臨んでいるのですが、カガリを演じる上では“飾らないこと”を意識したので、自分にとって挑戦でした。

――カガリの声は今お話されている佐倉さんの声のトーンに近い印象を受けました。

佐倉:

たしかにそうかもしれません。ラジオなどではチャキチャキ話すので、パブリックイメージの私とは少し違う印象を抱かれる方もいるかもしれませんが、カメラやマイクが回っていない時はもっとダラダラ話しているので(笑)、そういう意味で「1番素に近いキャラだったかな」と思いますね。

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カガリの“成長の過程”が垣間見えたラストシーン「最後の最後に肩の力を入れるお芝居に」

――「もっとダラリとした感じでいいと思います」と言われたほかに、アフレコで印象に残っているディレクションはありますか?

佐倉:

ディレクションではないのですが、アフレコ前半に休憩でスタジオの外に出たら、(塚原重義)監督が私のことを見て「あ、カガリだ」とおっしゃったのはちょっと面白かったです(笑)。「良かった。カガリになれたんだ」という嬉しさもありました。

アフレコでは、「ダラリとした感じで」という最初のカガリの肩の力の抜き方には少し調整の時間をかけてもらいましたが、そのあとはかなりスムーズに進められたと思っています。

ただ、ラストシーンは話し合いましたね。作中唯一カガリが大きな声を発するシーンなのですが、「カガリだし、あんまりやりすぎない方がいいのかな」と話し合っていく中でなったんです。なので、急に大きな声を発するよりは、ラストに向けて徐々に足し算をしていき、最後の最後に「わっ!」と肩の力を入れるようなお芝居で挑み、「OK」が出ました。

あのラストシーンは、「カガリは1歩成長したのかな?」と感じる瞬間でしたね。

――オーディションを受ける段階では「カガリからは信念や向かっていきたい方向性、叶えたい夢など人間の原動力のようなものがあまり読み取れなかった」とお話されていましたが、最終的にはカガリの成長を感じたんですね。

佐倉:

カガリの芯はあまり変わらず、ふにゃふにゃしたままなのですが(笑)。彼女はこの物語の中で大冒険をするので、自分が今まで体感したことのない事象に直面して、もしかしたら「自分ってこんなに大きな声が出るんだ!」と思ったかもしれません。そういう部分から、「この経験で彼女はさらに成長していくのかな」と予感させる。そんな“成長の過程”みたいなものを感じましたね。

一方で、今思い返すと最初からカガリには頑固さみたいなものがあったのかなと感じていて。のんべんだらりとしていたり、のらりくらりとしていたりするのは、あくまでも彼女の表面的な部分であって、地図屋という仕事を含め、彼女の中にある“興味や好奇心、譲れないものに対して嘘をつけないところ”は、もともと素質として大きいのかなと。

作中に描かれる大冒険を通じて、それがさらに強固になるのか、柔軟性を手に入れてもっと視野の広い大人になるのかは分かりません。けれども、この冒険が彼女の成長のきっかけになっているとは思っています。