『うたの☆プリンスさまっ♪』『あんさんぶるスターズ!』『アイドリッシュセブン』など、衰え知らずな“ボーイズアイドルコンテンツ”。平成から令和の現在に至るまで数々のコンテンツが生まれてきたものの、既存コンテンツの根強い人気により、新規コンテンツの参入が難しく、世はまさに“ボーイズアイドルコンテンツ戦国時代”です。

そんな中、X(旧:Twitter)とYouTubeをメインの活動の場としながら、生放送の最高同接数約1万人、ファンからの最高投票数100万票超えとなったコンテンツがあります。その名も『VS AMBIVALENZ(バーサス アンビバレンツ/通称:ビバレン)』。

2021年からスタートしたアイドルオーディションプロジェクトで、14人の候補生のうちデビューできるのは7色の担当カラーからそれぞれ1人ずつ。最終オーディションでライバルより多くの投票数を集めた7人がデビューを勝ち取るという“二者択一”の新しい試みが話題に。

SNSの使い方はただコンテンツのPRをするのではなく、Xでは「実在の人たち」が「実在のアイドルオーディション」を受けているかのような投稿をしたり、YouTubeでは実在のアイドルオーディションを追いかけたドキュメンタリーのようなボイスドラマとドラマに連動した楽曲のMVを配信したり……斬新なコンテンツの取り組みから徐々に注目が集まっていきました。

そして、2023年4月21日にはオーディションを見事勝ち抜けた7人のアイドルグループ《XlamV(クランヴ)》がデビュー。現在までに発表されているMVの再生数も好調で、2024年4月12日(金)にはKT Zepp Yokohamaでの1st LIVEが予定されています。

さらに、2024年2月には“二者択一”オーディションの第2弾『VS AMBIVALENZ II』の実施も発表。着実に歩みを進め、勢いを増し続けています。

そんな『VS AMBIVALENZ』、どのような経緯で企画が立ち上がり、どのように進行しているのか……調べてみても全貌が明かされていないことに気が付きました。そこでnumanは、『VS AMBIVALENZ』を運営するアプリボットに取材を打診。なんと『VS AMBIVALENZ』プロデューサーの毛利泰斗さんからお話を伺えることに!

コロナ禍やオーディション番組がきっかけとなったプロジェクト立ち上げ経緯、「新しい一面を引き出したい」という考えから指名制にしたキャスティング秘話、徐々に盛り上がりを高めていったオーディションの反響、数々の2次元アイドルコンテンツが存在する中で《XlamV》が目指す未来など、これまで語られてこなかった『VS AMBIVALENZ』の全貌をたっぷりとお聞きしました。

「キャラに目を向けてもらいたい」キャストへの配慮と既存コンテンツとの差別化から生まれた“二者択一”のオーディション形式

――そもそも『VS AMBIVALENZ』の企画はいつ頃から始まったのでしょうか?

毛利泰斗(以下、毛利):

2020年の12月頃ですね。プロジェクトの始動を発表したのが2021年9月なので、約10カ月くらいで立ち上げました。

僕自身はもともとアプリボットで『グリモアA~私立グリモワール魔法学園~』というコンテンツのプランナーなどを担当していました。その後アプリボットの子会社であるニジスタを立ち上げ、賢プロダクションの声優を起用したグループユニット『K4カンパニー』を作り、ライブ活動やイベントを行っていたんです。

しかし、コロナ禍に入ってからは声優さんたちのリアルイベントが中止になることが増え、ビジネス的にもかなりの打撃を受けてしまって……。

あの頃はそうした状況がどれだけ続くのか見通しが立っていなかったこともあり、声優さんよりもキャラクターを前面に出すような、キャラクター主体のコンテンツを作りたいという気持ちが大きくなってきたんですよね。それができればコロナ禍の影響も大きく受けないのでは、と。

――『VS AMBIVALENZ』プロジェクトの始まりは、コロナ禍が一つのきっかけになっていたんですね。とはいえ、キャラクター主体のコンテンツの中で、「アイドル」をテーマにしたのには、どのような理由があったのでしょうか。当時は既存のアイドルコンテンツが数多く存在していたと思うのですが……。

毛利:

「アイドル」をテーマにした理由の一つは、単純に僕自身がアイドルに興味があったからです。特に、コロナ禍で当時盛り上がり始めたK‐POPに触れるようになり、「こうした熱狂をキャラクターコンテンツでも作れたら面白いな」と思ったんですよね。

加えて、ちょうど「Nizi Project」が話題になっていた時期で、久しぶりにオーディションコンテンツで世の中が熱狂している印象があって。

そうした背景もあり、ただアイドルものを単純にやるよりは、その過程も楽しめる、SNS参加型のコンテンツとしてオーディションものをやろう、という風に企画が固まっていきました。

――「SNS参加型のコンテンツ」であるアイドルオーディションのIPは新しい取り組みですね。

毛利:

とはいえ僕自身、アイドルコンテンツにチャレンジするのが初めてのことだったので、シリーズ構成を『うたの☆プリンスさまっ♪』や『アイドリッシュセブン』などの脚本も手掛ける関根アユミさんにお願いすることにしたんです。

彼女からアイドルのいろはを教えていただきたいという考えもありましたし、彼女がSNSで作品に対する思いを語っているのを見た時に、キャラクターへの想いや言葉の強さを感じ、「心強い存在になってもらえそう」とX(旧Twitter)のDMでお声がけさせていただきました。

ちなみに、キャラクターデザインの風李(たゆ)さんも、同じくXを通じてお声がけさせていただいたんですよ。当時はまだフォロワーが5万人くらいしかいなかったと記憶していますが、衣装などのデザイン性がすごく高いイラストレーターさんだと思って、前々から注目していたんです。この独特な世界観がアイドルと組み合わさった時にどうなるのかと、とてもわくわくしていましたね。

――シナリオに関根アユミさん、キャラデザに風李たゆさんという布陣は、そうした経緯があったのですね。また今回、7名のキャストが同じ担当カラーを2名ずつ演じ、そのどちらかを選ぶ“二者択一”というオーディション形式はとても新しさを感じました。この形式にした理由についてもお伺いできますか?

毛利:

まず一つに、どちらのキャラが選ばれてもキャストは必ず残る形式にして、有名なアイドルコンテンツがすでに多数登場している中、自分たちならではの差別化ポイントを作ろうという意識がありましたね。

キャストさんたちへの配慮も大きな理由です。シンプルに順位を付ける形式だと、1位から最下位までキャラクターの順位が出てしまうので、仮にキャストさんが「最下位のキャラクターの声優」という風に見えてしまうのはよろしくないだろうと。

そしてそれ以上に、今回はとにかくキャラクター主体のプロジェクトにしたかったので、シンプルにキャラクターに目を向けてもらいたかったんですよ。

そうした中で、「声優が同じ2人のキャラが担当カラーを1対1で争って、投票数の多い方がライブデビューできる」という仕組みであれば、声優さん同士の格差が生まれず純粋にキャラクターを見てくれるはずだと、関根さんがこの方法を提案してくださったんです。

実は関根さんには、『VS AMBIVALENZ』というプロジェクト名も考えていただいたんですよね。競うプロジェクトであることを印象付けるための「VS」と、“両面性”を意味する「アンビバレンツ」という言葉を用いて、二者択一の選択方式によって生まれるライバルとの物語を表しています。

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声優は指名制で決定。「このキャラはどう演じるのだろう?」というワクワク感を重視

――二者択一システムのおかげで、各声優さんのファンの方々も安心して投票できますよね。でも、全く性格の違うキャラクターを同じ声優さんが担当するというのは、演じ分けがかなり大変だったのでは……。

毛利:

それでいうと、やはり声優さんの演技力は今回非常に重要だったので、オーディションではなく指名制を取らせていただいたんですよ。指名のポイントとしては、演技力以外に“意外性”なども重視していました。

例えば、メンバーカラーが黄色のNAGOMUとCUC(クック)を演じていただいた浅沼晋太郎さんに関しては、NAGOMUのイメージにはバシッとハマっている印象があったのですが、ちょっと幼くて日本語がままならないCUCというキャラクターを演じるイメージがあまり想像できなかったんです。だから、浅沼さんがCUCをどう料理するのか見てみたかった。

この機会にあまり演じられたことがないであろうキャラクターに挑戦していただいて、ファンの方々にもわくわくしていただきたいという思いからオファーさせていただきました。

――たしかに浅沼さんのCUCはかなり意外性がありました。ほかの方のオファー理由も伺えますか?

毛利:

メンバーカラーが赤のSUBARUとTAIYOを演じた土田玲央さんに関しては、声にすごく主人公感があるのが印象的で。赤色はどうしてもセンターポジションで物語を引っ張っていくキャラクターになるので、特有のキラキラ感が必要でした。そこにドンピシャにハマる方だと思ったんです。

それから、青のISSEIとMIO役の河西健吾さんに関しては、ISSEIが関西弁のキャラクターだったので、関西弁をナチュラルに話せる方というのが必須条件で。加えて、MIOは少し特殊なキャラクターで、普段はすごく寡黙だけど心の中ではめちゃくちゃ饒舌に喋るという、個人でも2面性を持つキャラなんですよ。演技の幅がある方じゃないと厳しいだろうなと思っていた中で、お芝居がお上手な河西さんだったらお任せできるだろうなと。

緑のJINTAROとCIONを演じている小林千晃さんは、現場からお芝居の評価の高さが伝わってくる方なんです。若い方なのにしっかりしていますし、コミュニケーションも本当に気持ちがいいので、CIONのイメージがすごく沸いたんですよね。その一方で、元気なJINTAROをどう演じられるのかなと気になっていました。

それから、当時はまだアイドルものや歌唱の経験があまりなく、キャラクターソングはビバレンで最初に歌ってもらった「Go My Own Way」が2曲目だと仰っていました。今後さらに成長される方の「アイドルコンテンツの1作品目」として演じていただきたいという思いもあり、指名させていただいたんです。

そして、ピンクのAUGURIとFUTABAを演じる村瀬歩さんですが、村瀬さんとは別でお仕事したことがあり、もともと「お芝居がすごく好きな方なんだろうな」という印象があって。とにかく“キャラクターやこちらの意図、台本の意図をちゃんと読み取って、なおかつ1段上のクオリティを必ず提供してくださる方”という信頼感があったんです。それから全体のバランス的に高音のキャラが非常に欲しかったので、正直村瀬さんしか思い浮かばなかったですね。

紫の39YEAH↗(サクヤ)とREYというキャラクターを担当した古川慎さんはすごく勢いがあって、とにかく毎クール拝見していましたし、歌唱力がすごく高いなと思っていたんです。39YEAH↗はチャラいキャラクターなので、それまで古川さんが演じられてきたキャラクターを振り返ってみてもイメージがハマるなと思いましたし、真逆なキャラクターのREYをどう演じられるのか非常にわくわくしてアサインさせていただきました。

最後に、白のLIONとKAZUを担当した畠中祐さん。畠中さんは、KAZUのイメージはすぐに沸いたんですが、クールで独特なLIONのイメージは誰も湧いていなくて。「どういう風に演技をされるんだろう」という期待がありました。それからお芝居の評価がすごく高い印象があり、舞台やアーティスト活動もしている方なので、歌唱力なども含めて心強いなと。加えて、生放送やほかの番組でムードメーカー的なキャラクターだったので、こういう方が1人いてくれると安心するという思いもあり、お声がけさせていただきました。

繰り返しになりますが、みなさんに共通するのはとにかくお芝居が本当に魅力的で、「片方のキャラは想像できるけど、こっちのキャラはどう演じるんだろう?」という意外性やわくわく感を重視していましたね。