6月9日に公開される映画『水は海に向かって流れる』。原作は田島列島の手掛ける同名漫画であり、「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」にランクインするなど、多くの漫画賞に選ばれている作品だ。

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 評価の高い作品が映画化されることと共に、広瀬すずが主演を務めることから注目を集めている本作。本稿では原作漫画の内容と共に広瀬演じるキャラクターについて振り返りたい。

広瀬すず演じる不機嫌そうな女性・榊と個性的な料理

 進学を期に叔父の住むシェアハウスに住むこととなった高校1年生の少年・直達。彼が最初に出会ったシェアハウス住人は26歳の女性・榊(さかき)であった。

 シェアハウスのなかで榊はいつも不機嫌そうに過ごしていた。そんな榊を気にかけつつ、物語が進むなかで直達は自分と彼女のとある因縁を知ることとなる。直達の叔父や榊をはじめ、個性豊かなシェアハウスの住民たちとの交流と並行しながら、ふたりの関係やその変化、榊たちの心情の機微が描かれる。

 広瀬すずが演じるのは高校生の直達と関係を築く榊だ。広瀬演じる榊はさまざまな料理を手掛けることとなる。そのひとつがシェアハウスに入居した直達に振る舞ったポトラッチ丼である。

 ポトラッチとは北米の先住民が冠婚葬祭の宴会にてお客さんに大量の贈り物をし合うお祭り。ときより榊は私財をなげうって上等な肉を購入し、玉ねぎとめんつゆで煮付けた牛丼を振る舞うのだが、シュアハウスの住人はその料理をポトラッチ丼と称している。

 榊特製のポトラッチ丼の美味しさはたしかなものであるが、煮込まれた牛肉は一口大というにはあまりにも大きく、住人も調理の過程を暴力的と表現するほどに大胆な料理として描かれる。直達に振る舞ったポトラッチ丼も例に漏れない1品に仕上がっており、その姿はまるでどこか不機嫌な榊を映しているようにも見える。

 広瀬が少々気分屋な榊を演じるなかで、不機嫌そうに過ごす彼女の姿や、ときに喜びがこぼれる表情などを目にすることができるだろう。また広瀬が手掛けるそのときどきの気分が表れた大胆で個性的な料理、その料理に感情を乗せる調理シーンにも注目したい。

強調されたグルメ要素によって浮かぶ榊の喜怒哀楽

 ポトラッチ丼はじめ、ブロッコリーと厚揚げの味噌汁や大根カレーなど、原作漫画にはさまざまな料理が登場し、シェアハウスの住民が集まり食卓を囲むシーンが多く登場する。また映画公式サイトでは「榊さんの“気まぐれ”ご飯」と称し「生卵入りカレー」や「鬼盛りのポテサラ」といった原作にない料理が紹介されており、映画オリジナルの展開が描かれることが予想される。

 調理や食事のシーンが多く登場することもあり、本映画は料理動画アプリ「クラシル」とコラボし、ポトラッチ丼のレシピ動画が公開された。動画のなかで紹介されるポトラッチ丼の牛肉も一口大というにはあまりにも大きすぎるものであり、原作の存在をたしかに感じることができる。

 本作はある種ラブコメ的な作品であるが「別冊少年マガジン」で連載を開始する前にはグルメ漫画として構想されていたという(参考:「『水は海に向かって流れる』 田島列島インタビュー」マンバ)。そんな経緯の存在から今回の映画は料理の存在が強調されているのかもしれない。

 直達とふたりで「生卵入りカレー」を食べる榊はどのような表情を浮かべるのか。あきらかに不自然な「鬼盛りのポテサラ」にはどのような経緯があり、どのような感情が込められているのか。原作漫画だけでは想像できない、広瀬演じる榊の喜怒哀楽を感じられることが非常に楽しみだ。