フラウを抱きかかえるアムロが描かれる、劇場版『機動戦士ガンダム I』特別版DVD(バンダイビジュアル)

【動画】「殴ったね?」再び描き直された、「アムロ平手打ち」の名シーン

面倒見の良い、アムロの隣人だった

『機動戦士ガンダム』に登場したフラウ・ボゥは、アムロ・レイと同様に、戦争によって大きく運命を変えられてしまった女性キャラクターです。

 彼女が初めて登場したのは第1話「ガンダム 大地に立つ」です。お隣さんのアムロのために用意したサンドイッチが手付かずなのを見て「まー! まだ食べてない」と呆れた様子でつぶやいていますが、その後も勝手知ったる様子でアムロの避難支度を済ませており、このわずかなシーンだけで両者が普段から家族同然の付き合いをしていたことがわかります。

 しかしフラウの運命は、ジオン軍のザクによる襲来で暗転します。避難の最中、フラウはアムロを見つけて駆け寄りますが、その背後に流れ弾が着弾して吹き飛ばされてしまいました。フラウはかろうじて生き延びましたが、一緒に避難していた母親と祖父は一瞬で命を失ってしまいます。

 震える声で「母さん……おじいちゃん……」と呼びかけながら死体を揺するフラウでしたが、アムロに「君は強い女の子じゃないか!」と叱咤(しった)され、泣きながらホワイトベースへと向かったのです。

 ホワイトベース艦内では連邦軍の軍服に身を包み、負傷者の治療やカツ・レツ・キッカたち孤児の面倒を見るなど、さまざまな仕事をこなしていました。アムロとの関係も良好でかいがいしく世話を焼いており、9話「翔べ! ガンダム」では疲弊しきったアムロの様子を見に来て会話を交わし、アムロの爪を噛む癖をたしなめるなど、親しい間柄でなければできない会話を交わしています。

 その後もアムロがマチルダ・アジャン大尉に惹かれているのを悟って嫉妬したり、19話「ランバ・ラル特攻!」でアムロが脱走した際にはひとりで探し回ったりするなど、フラウがアムロに好意を抱いていることを示すエピソードには事欠きません。

 しかし、アムロが数々の死闘や母カマリア・レイとの別れなどを経験し、否応なしに大人として成長いくについれて、ふたりの距離は少しずつ離れていってしまいます。自力で生活できないほどだらしなかった男の子が実は超人的なパイロットであり、自分を含め多くの人間の命を左右するような力を持っていることを日々思い知らされているのです。今までどおりにはいかなくなるのは当然でしょう。



アムロとフラウのフィギュアがセットになった「G.M.G(ガンダムミリタリージェネレーション) 機動戦士ガンダム 地球連邦軍 07 アムロ・レイ&フラウ・ボゥ」(メガハウス)

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「あの人は。私たちとは違うのよ」

 フラウは24話「迫撃! トリプルドム」で、セイラ・マスがGファイターのパイロットとなってからは通信士の役割を担うようになります。26話「復活のシャア」ではアムロから「話し方がセイラさんに似てきた」と軽口を叩かれており、このころはまだ両者の関係に目立った変化は見られません。

 両者の関係が決定的に離れ始めたのは、35話「ソロモン攻略戦」になるでしょう。戦いの最中、幼馴染であるハヤト・コバヤシが被弾して負傷したことを知ったフラウは、ハヤトの手当てに向かいます。

 アムロへの対抗心を口にしながらも、まるで敵わず涙するハヤトに、フラウは「アムロは……違うわあの人は。私たちとは違うのよ」と、寂しげな目をして語りかけたのです。それは、フラウがアムロに対する気持ちを抑え込んだようにも、あきらめたようにも見えるシーンでした。

 それからはアムロとフラウはふたりで話す機会もなくなったようで、37話「テキサスの攻防」ではアムロがフラウに血圧を測ってもらいながら「いつからだっけ? 僕ら、話しなくなって」と語りかけています。

 このとき最初フラウはあまりアムロの顔を見ようとはせず、たわいない会話の中で「あたしなんかには届かなくなっちゃったのね」と決別の言葉を投げかけています。もはや子供時代のままではいられなくなったことを、フラウははっきりと自覚してしまったのでしょう。

 最終話「脱出」で、アムロはフラウに「僕の好きなフラウ」と語り掛け、戦場からの離脱を促します。アムロがフラウへ正直に気持ちを伝えたのは、ふたりの関係が終わりを告げた後でした。これは、アムロにとってひとつのケジメだったのでしょう。

 一年戦争後、アムロは地球連邦によって軟禁され、フラウはハヤトと結婚し、フラウ・コバヤシとなりました。『機動戦士Zガンダム』ではハヤトとの子供を妊娠した状態でアムロとの再会を果たし、戦場へと戻るアムロを見送っています。劇場版『機動戦士ZガンダムIII 星の鼓動は愛』では最後にアムロとともに登場し、地球から戦争の終結を見守っているシーンも追加されました。

 アムロとともに戦場に放り込まれ、生き延びていくなかで決別を選択したフラウ・ボゥ。もしザクのパイロットであるジーンが無謀な攻撃を選択していなかったら、このふたりの関係はどうなっていたのでしょうか? 想像でしかありませんが、案外あっさりと結婚し、その後もずっとフラウはアムロの面倒を見続けていたかもしれません。