ロケット団がジャケットに描かれる「ポケットモンスター金銀編」第1集 第2巻DVD(小学館)

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声に出して読みたいロケット団の前口上……元ネタがあった?

 一体、ムサシとコジロウは何を言っていたのでしょうか?

「なんだかんだと聞かれたら 答えてあげるが世の情け
 世界の破壊を防ぐため 世界の平和を守るため
 愛と真実の悪を貫く ラブリーチャーミーなカタキ役
 ムサシ コジロウ 銀河を駆けるロケット団の二人には
ホワイトホール 白い明日が待ってるぜ」

 最後にニャース(CV:犬山 イヌコ)が「ニャーんてな!」としめる、ご存知アニメ『ポケットモンスター』に登場するロケット団のムサシ(CV:林原めぐみ)、コジロウ(CV:三木眞一郎)の前口上です。昭和60年代以降生まれであれば誰もが一度は耳にしたことがあるセリフでしょう。語呂の気持ちよさから声に出して読みたい日本語と言っても差し支えありません。

 しかし、読めば読むほど何を言っているかが絶妙にわかりません。「愛と真実の悪を貫く」「ラブリーチャーミーなカタキ役」と意味深長なパンチライン。パロディのようで、元ネタは思い浮かばない。果たしてどのようにして誕生したのでしょうか? 生みの親の想いとともに辿っていきます。

 まずムサシもコジロウもアニメオリジナルキャラクターです。したがってゲームにこの口上は存在しません。彼らを生み出したのはアニメのシリーズ構成・脚本を担当された首藤剛志さん(2010年没)です。『魔法のプリンセス ミンキーモモ』『まんがはじめて物語』などのヒット作やタツノコプロ作品も多く手がけた大御所。まるでミュージカルのような洒脱で歯切れの良いセリフ回しが首藤作品の特徴です。

 そんな首藤さんが『タイムボカン』シリーズの悪役トリオを下敷きに生み出したのがアニメ版ロケット団でした(キャラクターデザインはむしろアニメ『さすがの猿飛』の悪役コンビに寄せています)。

『タイムボカン』の悪役トリオと決定的に違うところは「悪役である自分たちがいなければ『ポケモン』というアニメは成立しないと自覚して登場する」点であると語っています。ロケット団の3人は負け組ではなく、自分自身のポリシーをきっちり貫くことを徹底させたキャラクターだと言えるでしょう。

 アニメ『ポケモン』をこれまでとは違うユニークなものにするには、敵であるはずのロケット団が主人公サトシたちよりも個性的でなければならない、それが首藤さんの想いでした。



シリーズの原点である、ゲームボーイソフト『ポケットモンスター 赤』(任天堂)

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「毎回、ひと言も変えずに絶対やって、流行らせます」

 脚本家がアニメ『ポケモン』の核として生み出したロケット団。そこに託された想いをくんだ上で、前口上を改めて読み上げると……なるほど印象が違います。

「愛と真実の悪を貫く」で自分らのポリシーを告げ、さらに「ラブリーチャーミーなカタキ役」とややメタ的に自分らの立ち位置を説明しているではありませんか。

 この口上は首藤さんも相当に力を入れて書き上げたもので、ムサシ役の林原めぐみさんは「私達(ロケット団)が出る時には、毎回、一言も変えずに絶対やって、流行らせます」と首藤さんに告げられたと言います。脚本家と演者のたぎるような契り、美しい限りです。

 首藤さんがアニメ脚本を離れても、ロケット団は毎回のように登場し続けています。視聴者が成長し卒業する宿命を背負ったアニメ『ポケモン』ですが、実はロケット団の口上も世代ごとに少しずつ変わっているのです。

「愛と真実の悪を貫く ラブリーチャーミーなカタキ役」の箇所は2002年からの「AG編」だと「健気に咲いた悪の華 ハードでスイートな カタキ役」に、また2006年からの「DP編」も最後に「時代の主役はあたしたち!我ら無敵の!ロケット団!」と勇ましい締めに変わりました。

 小さい頃はわからなかったロケット団の心意。虚勢や言葉遊びではなく、この世界には自分たちが必要なのだという力強いメッセージを放っていたのです。今の時代にふさわしい、エンパワーメントな言葉だったのです。ニャーんてな。