一応主人公のリトが小さく描かれた『To LOVEる-とらぶる-ダークネス2nd』DVD7巻(NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)

【画像】不人気主人公たちが支えている魅力的なヒロインたち(7枚)

男主人公は引き立て役としての存在?

 少年マンガにおいて、主人公が一番人気キャラではないのはよくある話ですが、『銀魂』の坂田銀時が連載終了まで公式人気投票を6連覇、『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィは7連覇中と、もちろん例外もあります。

 ですが、ジャンルを「少年誌のハーレムラブコメマンガ」まで絞ると、人気投票結果の1位に主人公の名前があるのを見た記憶がありません。それどころかトップ3、トップ5に入ることすら珍しい気もします。さて、これはただの筆者の印象なのでしょうか? それとも本当にハーレムラブコメマンガの主人公は、人気がふるわないのでしょうか? 今回は、ハーレムものマンガの人気作を何本か厳選し、その公式人気投票結果を振り返ります。
 
 まずはアニメ化予定の『あやかしトライアングル』の矢吹健太朗先生が連載していた『To LOVEる -とらぶる-』(脚本:長谷見沙貴)です。続編の『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』まで含むと、10年を超える(2006-2017)長寿作品になりました。主人公は、男子高校生の結城リトです。同作の人気投票結果は以下の通り。

・1回目 5位(1位:ララ 2位:西連寺春菜 3位:金色の闇 4位:結城美柑)

 続編の『To LOVEる ダークネス』は「ヒロイン総選挙」となり、リトは投票対象外でした。普通に考えると主人公の5位は低めですが、その他のハーレム作品に比べると実はだいぶマシです。

 続いて、「週刊少年マガジン」で連載されていた『五等分の花嫁』は2020年に連載終了しましたが、2022年にアニメ映画で完結編が描かれ、再度話題になりました。主人公は、秀才男子の上杉風太郎です。人気投票の結果は…

・1回目 6位(1位:中野三玖 2位:中野四葉 3位:中野五月 4位:中野一花 5位:中野二乃)
そもそも、ヒロイン5人と主人公以外のキャラが最小限に絞られている作品なので、これは実質メインキャラ最下位ともいえる結果です。ちなみに、2回目は「ベストエピソード人気投票」だったため、投票対象外でした。

 続いて2017年から2020年まで「週刊少年ジャンプ」に連載されていた『ぼくたちは勉強ができない』の主人公・唯我成幸はどうでしょうか。

・1回目 7位(1位:桐須真冬 2位:古橋文乃 3位:武元うるか 4位:緒方理珠 5位:小美浪あすみ 6位:唯我水希)

・2回目 9位(1位:桐須真冬 2位:古橋文乃 3位:武元うるか 4位:緒方理珠 5位:小美浪あすみ 6位:唯我水希 7位:関城紗和子 8位:桐須美春)

 1回目ですでに7位と普通の少年マンガではありえないレベルの低さですが、2回目ではさらに2ランクダウン、ハーレムもので主人公不人気の典型的パターンです。

 実写ドラマが放送中の『彼女、お借りします』は『五等分の花嫁』と同じくマガジン連載作品、アニメ第二期も放送中です。主人公は木ノ下和也の人気は……

・1回目 5位(1位:水原千鶴 2位:更科瑠夏 3位:桜沢墨 4位:七海麻美)

 こちらは比較的マシな5位と、一応主人公としての面子を保っています。人気投票2回目以降は未実施でした。

 続いて、『彼女、お借りします』と同じく「週刊少年マガジン」現役作品でアニメ化もされている『カノジョも彼女』の主人公・向井直也です。

・1回目 7位(1位:佐木咲 2位:星崎理香 3位:水瀬渚 4位:桐生紫乃 5位:迷子の女の子 6位:星崎理沙)

 こちらは人気投票2回目は未実施、安定の5位圏外です。

 アニメ、実写両方で映像化された『ニセコイ』はどうでしょうか。主人公は一条楽です。

・1回目 6位(1位:小野寺小咲 2位:桐崎千棘 3位:鶫誠士郎 4位:橘万里花 5位:宮本るり)

・2回目 7位(1位:小野寺小咲 2位:橘万里花 3位:桐崎千棘 4位:宮本るり 5位:鶫誠士郎 6位:小野寺春)

・3回目 11位(1位:桐崎千棘 2位:小野寺小咲 3位:鶫誠士郎 4位:橘万里花 5位:小野寺春 6位:宮本るり 7位:奏倉羽 8位:橘千花 9位:彩風涼 10位:エルレイン・フィガレット)

 なんと、楽は最終的にトップ10圏外でした。ハーレムものでどんどん女の子キャラが出てくると、こんなケースまで現れます。

 補足として、ハーレムものの代表作『いちご100%』の人気投票結果を調べましたが、同作では意外と人気投票が実施されていませんでした。これについて作者の河下水希先生は、2017年3月29日のtweetで「当時の担当さんが『わかっちゃったらつまらないから』と言っていたような。」とつぶやいています。



『ニセコイ』の楽は最終的にまさかのトップ10圏外。画像はテレビアニメ版ビジュアル。 (C)古味直志/集英社・アニプレックス・シャフト・MBS

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誰もトップ3に入っていない……

ハーレムラブコメ主人公の特殊な立ち位置

 結果をご覧になって、どのような印象を持たれたでしょうか? 主人公の順位が意外と高い、と思った方もいらっしゃるかもしれません。逆に、思ったより低いと印象を持たれた方もいるかもしれません。印象は人それぞれでしょうが、事実として「3位以内」に入った主人公がひとりもいません。

 トップ5圏外のキャラも多く、『ニセコイ』の楽に至っては、最終的にトップ10圏外です。ジャンプ作品の王道系作品(主にバトルマンガ)の人気投票結果でも、『ボボボーボ・ボーボボ』のボーボボが一度6位まで落ちたり、『キン肉マン』でキン肉マンが7位になったりしたことはありますが、さすがに主人公がトップ5どころかトップ10圏外になるのは極めて稀です。なお、ジャンプ+で連載中の『魔都精兵のスレイブ』はバトルものですが、主人公の和倉優希は人気投票1回目7位、2回目12位でした。ただし、同作はラブコメではないにせよ、女性キャラが多い作品で、性質上はハーレムラブコメマンガに近いです。

やっぱり王道は今でも人気?

 さて、ハーレムラブコメマンガの主人公と、王道バトルマンガの主人公は何が違うのでしょうか?

 まず、ハーレムマンガの主人公は、「巻き込まれ型」で「受動的なキャラ」が多いです。『ニセコイ』にしても『五等分の花嫁』にしても、主人公は自分の意志でヒロインたちに関わるというより、周囲の人や環境が原因で巻きこまれています。例えば、『ぼくたちは勉強ができない』と『五等分の花嫁』は、主人公が「ヒロインたちの勉強を見ることになる」というシチュエーションまでよく似ています。また、主人公が自分からヒロインに働きかけて好意を持たれるというより、ヒロインの側から好意を持つようなパターンが非常に多いです。

 これは王道物バトルマンガの主人公と正反対です。『ONE PIECE』のルフィは、自らの意志で海賊王を目指していますし、『ブラッククローバー』の主人公・アスタ(人気投票5回中1位を4回獲得)も、自らの意志で魔法帝を目指す超能動的なキャラです。アスタがシスター・リリーにアタックしては、フられているのも正反対ですね。

 また、キッカケが能動的な主人公でも、その動機は情けない場合が多いです。『彼女、お借りします』の和也は、見栄からレンタル彼女の千鶴に本物の彼女を演じてもらうことになります。

 さらに、『カノジョも彼女』の直也は「ひとりを選べないから二股したい(最低)」という純粋すぎる邪念から、ハーレム展開になります。ルフィやアスタの邪念の欠片もない動機と比べると、雲泥の差です。

 とはいえ、そもそもハーレムラブコメの魅力はヒロインにあると思うので、その引き立て役として主人公が設計されている都合上、人気がふるわないのは当たり前の結果なのかもしれません。読者の人気はヒロインに集中するものの、そんなヒロインたちから好かれる男としての説得力は持たせないといけない、という難しいバランスのキャラといえます。