アニメ2クールが待機中の『SPY×FAMILY』ビジュアル (C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

【画像】偽装結婚が絡むスパイものフィクション(5枚)

スパイの結婚は壮絶

「少年ジャンプ+」の看板作品で、アニメも好評の遠藤達哉先生による『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』。6月にアニメ第1クールの放送が終了しましたが、10月から第2クール放送開始がアナウンスされており、放送開始を心待ちにしている方も少なくないと思います。

『SPY×FAMILY』はスパイアクションにコメディの要素も加わっていますが、さらに本作を魅力的にしているのはスパイと殺し屋が偽装結婚し、超能力者を養子にして疑似家族を築いて絆を深めていくという特殊な人間ドラマではないでしょうか?

 スパイが色恋沙汰を利用して対象を籠絡するために結婚を利用するのは、ヒッチコック監督の『汚名』など、スパイもののフィクションでは定番です。そういった作品や『SPY×FAMILY』を見て、「よく見る設定だけど、本物のスパイも『偽装結婚』をするのか?」と気になった方もいらっしゃることでしょう。今回は近年のスパイものフィクションのモデルになった、実在のスパイが結婚を利用した例を振り返ります。

スパイの結婚・恋愛

 スパイモノはアニメ、マンガだけでなく実写でもポピュラーな題材ですが、リアル路線となると実写の方が圧倒的に多いです。そのなかで「偽装結婚」を設定として採用したもので、実話ベース、またはモデルになった人物がいる作品だと、近年は映画『マリアンヌ』、TVシリーズ『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』などが当てはまります。

『マリアンヌ』は第二次世界大戦時、ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの演じる工作員が、任務のため偽りの夫婦を演じるうちに次第に惹かれ合い、作戦終了後に正式に結婚。しかし、妻に二重スパイ疑惑が向けられ……というあらすじのロマンティック・サスペンスです。

 同作は「実話に基づく」と銘打たれていますが、基になったのは歴史的資料ではなく、脚本家のスティーヴン・ナイトが若いころアメリカを旅行した時に友人の叔母さんから聞いた、友人のおばさんの兄弟(長い)の体験談だそうです。

 ナイトの「友人の叔母さんの兄弟」は第二次大戦中に特殊作戦部隊(SOE)に所属していましたが、この時にレジスタンスのフランス人女性と関係を持ち、彼女を妊娠させます。ところが、後にその女性がスパイであったことが発覚し、彼女を殺してしまったのです(一応、注釈しますが当時のフランスはナチスに占領されており、フランスとアメリカは同盟関係にありました)。

 この話は確たる証拠の無い伝聞であり、本当なのか作り話なのかは分かりません。ただ、劇的な話であることだけは確かです。



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「偽装結婚」は案外あっさりバレる?

 もう一方の『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』は、米ソ冷戦時代を舞台にアメリカ人夫婦を装うKGB(ソ連の情報機関)のスパイが主人公で、同作でケリー・ラッセルとマシュー・リスが演じるロシア人スパイ夫婦にはモデルがいます。ドナルド・ヒースフィールド(本名:アンドレイ・ベズルコフ)とトレイシー・フォーリー(本名:エレーナ・ヴァヴィロフ)の夫婦です。

 ロシアの情報機関SVRの諜報員だったふたりは、ドラマ同様スパイとしてアメリカに潜伏。ドナルド・ヒースフィールドとトレイシー・フォーリーから身分を盗み(カナダ国籍の本人たちはすでに死去)、何食わぬ顔でアメリカ人のお隣さんたちと隣人を演じていました。

 そして、ふたりは米国側に寝返ったあるロシア人スパイの裏切りによってFBIに目をつけられ、ついに逮捕。同時期に、他の8人の諜報員も逮捕されています。そのうちのひとりで、表の世界では敏腕実業家として活躍していたアンナ・チャップマンは、その美しい容姿と華やかな経歴から大々的にメディアに取り上げられました。

 驚くべきことに、隣人たちはもちろん、(ア―ニャとは違い)ふたりの子供たち(実子)ですら彼らが逮捕されるまでスパイであることを知らなかったそうです。子供の誕生日に秘密が露見したという点も劇的、さらに味方の寝返りをキッカケに正体が露見するなど、いかにもフィクションにありそうな設定に見えます。しかし、このロシア人スパイ夫婦逮捕は21世紀の出来事(2010年)で、『マリアンヌ』の伝聞と違い確たる実話です。

『SPY×FAMILY』でも、味方の寝返りからあっさり正体がバレたりしないか……なんて妄想してしまいますね。もちろん、そこであっさりフォージャー家の面々が捕まるとも思えないので、そこから一気にクライマックスの戦いに……なんてこともあるかもしれません。

 なお現実のロシア人スパイ夫婦は逮捕されましたが、舞台を冷戦期に置き換えたテレビドラマ『ジ・アメリカンズ』の主人公夫婦は隣人のFBI捜査官に最終的に正体を突き止められつつも見逃され、夫妻がソ連に戻ったところで物語は完結します。細かい過程を書くとネタバレになってしまいますので、気になる方はご覧になってみてください。

事実は小説よりも奇なり

 このように、「本当に?」とびっくりするような、実在のスパイに関する事実はまだまだあります。「事実は小説よりも奇なり」は使いされたフレーズですが、だからこそ事実をベースにした作品は制作されるのでしょう。いずれ描かれるであろう、フォージャー家のそれぞれの秘密の露見はどのような展開になるのか、今後も『SPY×FAMILY』から目が離せません。

(マグミクス編集部)