『文豪ストレイドッグス』ではつかみどころのないキャラクターの太宰治 画像は『人間失格』アニメカバー版(KADOKAWA)

【動画】アニメに登場する文豪を映像チェック!

乱歩は実際に名探偵だった?

 教科書で見たことのある文豪たちが、若くてかっこいい姿で描かれたり、特殊能力を持って派手なバトルを繰り広げたりするアニメが増えています。それらを楽しむ一方で、「実際はどんな人なんだろう」「こんなエピソードって本当にあったのかな」と疑問に持った瞬間はありませんか?

 アニメに登場する文豪は、実は設定やエピソードに史実が織り交ぜられることも少なくありません。そこでこの記事では、大学で日本文学を学んだ筆者が史実をもとに、アニメと文豪の人物像を比較します。

おしゃれ好きで芥川龍之介への愛が重い太宰治

 日本文学史のなかでも、教科書で多くの人が作品に触れたであろう文豪、太宰治。著作はもちろん、太宰治の半生をテーマにした作品も多く作られています。

その人生は数多くの女性との恋愛や私生活での挫折が占めていますが、アニメ『文豪とアルケミスト』では、かまってちゃんでナルシストなキャラクターとして登場します。その反面、時折見せる情緒不安定な一面は、なかなか作品が評価されなかった時代の太宰をもとにしているのかもしれません。

また、『文豪とアルケミスト』での太宰治は、髪型や衣装にこだわりを持ったおしゃれに気をつかうキャラクター設定になっています。史実でも太宰治は随筆「おしゃれ童子」で自分のファッションへのこだわりをつづっており、おしゃれには並々ならぬ情熱を注いでいました。

 その他、アニメ 『文豪ストレイドッグス』に登場する太宰治は、芥川龍之介に憧れられているという描写があります。しかし、史実では太宰治が芥川龍之介を尊敬する立場であり、芥川賞を受賞させてほしいという嘆願書を選考委員の佐藤春夫へ送りつけたり、同じポーズで写真撮影をしたりと、その愛はときに暴走を見せていました。そんな史実を知ると、『文豪ストレイドッグス』における芥川龍之介との関係性も新鮮に思えるかもしれませんね。

謎解きが得意で探偵事務所で働いていた江戸川乱歩

 推理小説を数多く執筆し、後世に多大な影響を残した江戸川乱歩。そんな背景からか、アニメでは推理が得意なキャラクターとして登場するのが特徴的です。

アニメ『啄木鳥探偵處』では大人顔負けの推理を披露する文学少年、『文豪ストレイドッグス』では頭脳と観察力がずば抜けた探偵キャラとして登場します。

史実の江戸川乱歩は、怪盗アルセーヌ・ルパンの産みの親であるモーリス・ルブランの作品などから着想を得て推理小説を執筆、それまでメジャーではなかった推理小説を一般的なものにした功績も評価されています。そもそも、「江戸川乱歩」というペンネームは、ミステリー作家のエドガー・アラン・ポーからとっており、彼がミステリーが好きだったことが十分にうかがえるでしょう。

ちなみに、「江戸川乱歩語辞典:乱歩にまつわる言葉をイラストと豆知識で妖しく読み解く」(著者: 奈落一騎、 荒俣宏)によると、探偵事務所で働きたいと考えた江戸川乱歩は、実在する探偵事務所の面接を受けたというエピソードも残っていますが、単なる推理小説好きと見なされたのか不採用に。それにしても推理好きが高じて、探偵事務所への就職を希望したとは驚きですね。



かなり小柄だった?中原中也。画像は「汚れつちまつた悲しみに……中原中也詩集」アニメカバー版(KADOKAWA)

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中原中也はかなり酒癖が悪かった

史実でも酒乱で小柄な中原中也

『汚れつちまつた悲しみに』をはじめ、優れた詩を創作するも30歳でこの世を去った詩人、中原中也。今も多くのファンを獲得している中原中也は、アニメにおいて「酒乱」「血の気が多い」という史実を理由に喧嘩っ早いキャラクターとして描かれることが少なくありません。

『文豪とアルケミスト』の中原中也は、酒乱で太宰治に度々ちょっかいを出しては、恐れられているという設定。檀一雄の『小説 太宰治』によると、実際に酒を飲んでは太宰治に絡み、挙げ句の果てには作家仲間を巻き込んだ乱闘騒ぎにまで発展したと語られています。

また、『文豪とアルケミスト』『文豪ストレイドッグス』の両作品において共通しているのは、中原中也が小柄であること。坂口安吾は『酒のあとさき』で、中原中也について「4尺7寸ぐらいの小男」と書いていますが、これは現在の単位に直すと150cmほど。この記述からも、中原中也がかなり小柄だったことがうかがえますね。

これらの記録を踏まえると、「酒乱」「小柄」という2点は史実に忠実にキャラクター造形へと生かされているといえます。