四井主馬が松風に蹴りを食らう『花の慶次―雲のかなたに―』新装版第1巻(コアミックス)

【画像】『花の慶次』で姑息な男たちが無様に負けたエピソードを振り返る(4枚)

加賀忍軍の長なのに殺してすらもらえない主馬

 90年代に「週刊少年ジャンプ」で連載され、いまだに根強い人気を誇る時代劇マンガ『花の慶次―雲のかなたに―』。本作には戦国一の傾奇者(かぶきもの)・前田慶次をはじめ、生きざまにあこがれてしまうかっこいいキャラがたくさん登場します。村井若水や商人・武など、最初は姑息で情けない人物として登場しても慶次に感化されて成長する者もいれば、第1話で自らの首をはねて見せた古谷七郎兵衛のように、敵ながら見事な意地を見せた者もいました。

 一方で、『花の慶次』には「こうはなりたくない……」と思ってしまうような、みっともない姿をさらしたキャラも多数いました。

加賀忍軍棟梁・四井主馬

 第2話から登場し、主君・前田利家のためにずっと慶次の命を狙ってきた加賀忍軍の棟梁・四井主馬(よつい・しゅめ)。加賀百万石の国に仕える忍軍の長なので、当然実力者のはずなのですが……慶次の相手にはならず、変装も見破られ、差し向けた刺客もことごとく返り討ちに遭い、おまけに慶次の愛馬・松風の蹴りを食らって顔に恥ずかしい蹄(ひづめ)の跡までつけられてしまいました。

 その後も慶次に腕を斬られて号泣、素っ裸で橋から逆さに吊るされるなど生き恥をさらし、とうとう部下と一緒に命を捨てる覚悟で慶次を仕留めようとします。しかし、それも失敗し、部下を大勢失った挙句、自分は最終的に慶次にぶん殴られて命を救われてしまいました。その後、主馬は慶次が加賀を出奔してからも命を狙いますが、当然のごとく失敗しています。

 他の敵キャラと比べても、慶次に「殺されてすらいない」というのが非常に惨めです。また、骨や風魔の飛び加藤、甲斐の蝙蝠(こうもり)など他の忍(しのび)キャラが異常な強さだったため、主馬の「かませ犬」感がより増していました。

京の傾奇者・蕃熊蜂太夫

 蕃熊蜂太夫(ばんぐま・はちだゆう)は、慶次が秀吉暗殺を目論んだ忍・侘助を遊郭にかくまっていた際の刺客として登場しました。京で五本の指に入る傾奇者で、武芸に秀でているわけではないのに必ず勝つと噂だったのですが……。彼の戦法は、異常に長い舌で毒針を吹き矢の要領で飛ばすというもので、出会ってすぐに慶次にそれを見透かされて舌を根元から縦にぶった斬られてしまいました。

 その後、蜂太夫は侘助が成り済ました摩利支天を怪しいと進言するも相手にされず、やけくそになって慶次たちを道連れにしようと、体に爆弾を巻きつけ、摩利支天を乗せた神輿目掛けて飛び降りてきます。しかし、慶次に空中でぶった斬られ、吹っ飛んでしまうのでした。ある意味最後に意地は見せましたが、傾奇者でありながら「仕官したいから顔を立ててくれ」と慶次に頭を下げるなど、情けないところを見せています。



卑怯な本間一族が報いを受ける『花の慶次―雲のかなたに―』新装版第10巻(コアミックス)

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「嫌な顔」のやつらは生かしておかない

草間弥之助を嫉妬で謀殺した上杉家の小姓たち

 ある時、慶次のもとに、上杉家の側小姓を務める草間弥之助が果し合いを申し込んできます。側小姓の仲間たちが「傾奇者に真の勇士はいるか」という議論になり、中立だった弥之助がそれを確かめるために慶次に勝負を挑むよう指名されたというのです。

 それは弥之助が身分の低い家の出ながらも出世し、直江兼続の妹・なつと恋仲であることに嫉妬した、他の小姓たちによる仕打ちでした。慶次は弥之助を死なせないために、小姓たち全員で果し合いに来るように言います。しかし、弥之助がそれを伝えると、小姓たちはそれが弥之助の嘘ではないかと咎め出します。

 そして、慶次の配慮もむなしく、弥之助は小姓たちによってたかって襲われ、最後は自分の一族にまで火の粉が飛ばないように書置きを残し、切腹したように見せかけて相果てました。

 直江兼続はその事実を調べ上げ、弥之助の最後の望みを叶えようと13人の小姓たちを果し合いの場に連れてきます。慶次は小姓たちの悪びれる様子もない甘ったれた態度と嫌な顔を見て、あえて全力を出し、あっという間に彼らを討ち取りました。

 この小姓たちは兼続の言う通り、主君を命がけで守る小姓の立場でありながら嫉妬で友を謀殺し、十三対一で負ける醜態をさらすなど、特に「こうはなりたくない」と思わされる情けないキャラです。

茶番のいくさを繰り返した佐渡の本間一族

 上杉家が統治する越後領の佐渡を支配していた本間一族は、一族内で争乱を繰り返していましたが、いざ上杉がやってくると、どちらかは上杉方につくという卑怯な手を使って生き残っていました。上杉景勝が佐渡平定に乗り出した際も、本間左馬之助は上杉勢として戦うふりをして時間を稼ぎ、会津の芦名の援軍が来るのを待ちます。さらに上杉と戦う側の河原田城城主・本間高茂は佐渡の百姓たちの子供を人質に取り、年寄りまで無理やり戦わせるなど暴虐の限りを尽くしていました。

 佐渡にやってきた慶次はそんな状況を打破し、上杉家の囚人たちや百姓で軍を作って、左馬之助の軍も無理やり動かし、見事河原田城を落とします。高茂は人質の子供がいる城を燃やして逃げ出すも捕まり、妻子もろとも磔(はりつけ)の刑。左馬之助はいくさが終わった後に褒美がもらえると思ってノコノコ上杉陣営にやってきますが、戦死した者たちを愚弄する発言を繰り返した挙句に兼続に殴り倒され、景勝からは一族もろとも領地没収で越後へ追放する旨を告げられます。

 保身と私利私欲のために姑息に行動した結果、すべてを失った本間一族。小手先で人をだましても、結局見透かされて自分の身に返ってくると教えてくれる、反面教師的存在です。

 その他、慶次たちを金でなびかせようとした伊勢屋や、琉球で地頭代の弟の地位をかさに着て横暴に振舞っていた火嘉宇堂(ひが・うどう)など、メインキャラたちの潔い生きざまとは反対のみっともない男たちはたびたび登場し、結果として慶次たちを際立たせる役割を果たしています。