“姿良し声良し”の代表格、キビタキ|大橋弘一の「山の鳥」エッセイ Vol.10

雄同士のなわばり争い

縄張り争いをしている雄のファイティングポーズ

キビタキの鳴き声といえば、もうひとつ面白いことがあります。それは、外敵を追い払うときに、ブンブンというハチの羽音そっくりの音を出すことです。

外敵というのは、同じキビタキの別の雄のことです。具体的には、1羽の雄がブンブンと音を立てながら別の雄を追いかけ回す行動です。私の見立てでは、繁殖中に同じキビタキの雄が自分の縄張りに入って来た時に、相手を排除する行動なのだろうと思います。

体を細くして、いかにも興奮した様子で別の雄に突進しようとし、そのときにブンブンという音を立てて威嚇するのです。ブンブン音だけでなく、パチパチと嘴(くちばし)を鳴らすこともあります。激しい時には雄同士が空中でぶつかり合うこともあります。

こういうときには、カメラを構えている私の存在など全く眼中にないようです。私のすぐそばをものすごい勢いで飛んで行くこともあり、近くで聞くブンブン音は本当にスズメバチでも来たかと思うほどで、驚いてしまいます。

でも、1羽がもう1羽を追い払えば、もうブンブン音を立てることはなく、また普通のさえずりに戻るのです。 

キビタキの黄色と、新緑の黄緑色と、八重桜のピンク。色彩に彩られる春の森

私はこの音を出す場面にこれまで数回遭遇していますが、これは口から出す声なのか、それとも翼などを震わせて出す音なのかわかりません。音なのか声なのか、いろいろ調べてもこのことを書いた文献を見つけられずにいます。

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じつは難しい近縁種との識別

オオルリの雄(左)と雌

キビタキに近縁の鳥のひとつにオオルリがいます。オオルリも美声の持ち主ですが、キビタキが森の中間層でさえずるのに対して、オオルリは高い梢のてっぺんでさえずります。森は鳥の生息環境としては立体的な構造なので、似た鳥はその中でうまく棲み分けているのです。

オオルリは、青い色が人目を引く、派手な美しい姿の鳥です。先ほどからキビタキは黄色の美しい姿という紹介をしていますが、黄色と黒の派手な姿なのは雄だけです。一方、オオルリも、鮮やかな青い色をしているのは雄だけです。キビタキもオオルリも雌は別種かと思うほど地味で、どちらもほぼ茶褐色の色調です。

そして、実はキビタキの雌とオオルリの雌は互いにとてもよく似ています。その違いはわずかで、一見区別できないほどです。雌を見ているとこの2種が近縁であることが実感できるのです。

キビタキ雌。オオルリ雌とは喉の色調などで見分けられる

雌同士の違いは、喉の色味。キビタキ雌は喉が白っぽいのに対し、オオルリ雌は嘴の下から胸まで褐色。ただ個体差もあり、色よりも体の大きさで比べられれば一番確かです。キビタキの全長は約13.5cmで、オオルリは16cmほどです。でも、両種が並んで比較できる状況になることは、なかなかありません。

この2種には、雄の姿だけ見ていてはわからない識別の難しさがあるのです。

*写真の無断転用を固くお断りします。

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