“うきは市”というと福岡県の人たちは決まって「フルーツがおいしい!」と答えます。今回は江戸時代に筑後川から引いた河川や水路が町を巡り、町屋や土蔵が立ち並ぶ「吉井」を散策します。歴史的景観を今に伝える町並みを歩き、かつて繁栄した商業都市「筑後吉井」を旅します。

西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎(実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典(PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

誰もが認めるフルーツ王国!地元プライドの代名詞”うきはのフルーツ”を食べ歩く

うきは市吉井町は、福岡県の県南・筑後地域にある町。温暖な気候と豊富で良質な地下水を使ったフルーツ栽培が盛んです。フルーツ種類が豊富で、かつ次々と生まれる品種で、観光農園やフルーツを使った加工品も数多くあります。
そんなうきは市は「フルーツ王国」と呼ばれることも多く、一年中いろいろいろなフルーツが出回ります。洋菓子店が多いのもフルーツの宝庫である町の特徴のひとつで、観光スポットを歩いていてもフレッシュな果実を使ったスイーツショップを見つけることができます。

まず入店したのが「kawasemi danish(カワセミデニッシュ)」。
うきは市のフルーツを乗せた可愛いデニッシュを販売しています。宝石のようにキラキラ輝くスイーツは見ているだけでもワクワクします。カフェとしても利用でき、ドリンクとセットで楽しめるデニッシュ専門店です。
直接農家から買い付けるので最も旬な時期を逃さず、産直の良さを生かした新鮮なフルーツが使われます。常時4~5種類のデニッシュをそろえ、季節や果物によって変えるカスタードクリームを合わせます。年間で使用するフルーツは数十種類、さらに約20種のカスタードクリームとの組み合わせによりバリエーションが豊富で、その時の味はまさに一期一会です。訪れた時の巡りあわせも楽しめる静かなカフェで、地元の人も観光客もどちらにもうれしいお店です。

次に訪れたのは餅を使ったスイーツを提供する「暴食の果実」。
店名からインパクトがあり気になるお店ですが、提供する和スイーツにもこだわりが。同町の石橋餅加工所で作られた餅とつぶあんを使ったフルーツ大福が主力商品です。
提供されるいちご大福は求肥の大福とは違い、餅を使っているため米の味わいとしっかりとした食感で食べ応えがあります。すぐに固くなってしまうため賞味期限は翌日までですが、日持ちさせるための添加物などは使わず、餅本来の風味を大切にした直球勝負の和菓子です。
いちご大福の他に桃、いちじく、マスカットなど、旬のフルーツを使った大福に出会えることも。餅とジューシーな果物との出会いは、いつも食べるフルーツ大福とはひと味違ったおいしさです。

和と洋の見事なバランスで仕上げた生クリームどら焼きで人気の「キチココ(Qui tico co)」。
オーナーは北九州市から移住されたご夫婦で、和菓子屋の息子でかつ東京都内の有名どら焼き店で修業されたご主人と、洋菓子店を経験された奥様というどら焼き同様に和洋折衷のお二人。うきはで採れるフルーツの魅力をたっぷり詰め込んだどら焼きは大人気です。
25年どら焼きを焼き続ける職人気質のご主人が焼く皮は、ふんわりしっとりとした食感と絶妙な香ばしさ。朝どれで鮮度が高いフルーツがすぐに手に入る環境の中から生み出された商品で、乳脂肪分の多い贅沢な生クリームとの相性も抜群の“幸せな味”。夏にはフレッシュフルーツや地元の抹茶を使用したかき氷もあり、うきはらしさを詰め込んだ商品づくりが行われています。

フルーツを使ったスイーツ・和菓子に携わる方たちの声を集めると、みんな一様にうきはのフルーツを絶賛し、また次々と品種改良されて登場する新しいフルーツに驚き、そして農家さんとうきはの環境に感謝しながら商品を作っていると答えてくれました。
豊かな自然があり、その自然を活用しながら農業をする人がいて、そしてそれらを消費者においしく届けてくれるお店がある。魅力いっぱいの吉井町に心も舌も満足させられたスイーツ巡りでした。

kawasemi danish(カワセミデニッシュ)

住所:福岡県うきは市吉井町1340電話:080-3182-7687営業時間:10:00~18:00定休日:水曜日、木曜日URL:https://www.instagram.com/kawasemidanish/

暴食の果実

住所:福岡県うきは市吉井町1305-3電話:0943-75-5507営業時間:10:00~18:00定休日:木曜日URL:https://www.ishibashimochi-shop.com/

キチココ(Qui tico co)

住所:福岡県うきは市吉井町1043-2 観光会館 土蔵内電話:090-6428-3635営業時間:12:00~15:00定休日:月曜日、火曜日URL:https://www.instagram.com/quiticoco/

筑後吉井駅から行く“フルーツ王国うきは”のスイーツ巡り

kawasemi danish(カワセミデニッシュ)はオープンして2年半

季節のフルーツを使ったデニッシュを販売。クリームも複数種類あり、バリエーション豊富

(左)浮羽町三春産・よかもんいちご「苺の練乳デニッシュ」、(右)浮羽町町山北・やまんどん「よもぎ風味の苺大福デニッシュ」

餅スイーツ専門店「暴食の果実」へ

大粒のいちごを使ったいちご大福が名物

店内イートインもできます

餅専門店の出来立ての餅を使って製造。求肥に比べ食べ応えがあり、甘くてジューシーないちごにも負けない

付属の紐を使っていちごの断面も楽しめる

フルーツやあんこ、クリームなどを使ったどら焼きで人気の「キチココ(Qui tico co)」

観光案内所「観光会館 土蔵(くら)」内にあるので、立ち寄りやすい

オーナー自らが海外で買い付けたカバンや雑貨、地元のグループで作ったハンドメイドアクセサリーなども並ぶ

美しい焼き色のどら焼きは、この道25年の職人が焼く。うきはのフルーツの魅力を存分に感じられるお菓子で、複数購入する人も多い人気商品

フルーツが豊富なうきはでは“フルーツはもらうもの”という感覚。私も旅の途中でいただいた

(広告の後にも続きます)

全世帯が地下水で暮らす町、吉井の水にまつわる物語

うきは市は全国で唯一上水道がなく、各家々の飲用水や生活用水、農業用水などを地下水でまかなうことができる稀有な地域。中でも吉井町はその地名のとおり吉井=「吉い井戸水」が湧く土地として、古くから地域の生活を地下水でまかなってきました。地下水はその水量だけでなく質も良く、ミネラル分を多く含むフルーツ栽培に適した水であることもわかっています。ミネラル成分の中でも“シリカ”が多く含まれていることも特徴です。

またうきは地区は江戸時代初期、筑後川流域よりも高地にあったため万年水不足が深刻でした。ここに人工用水「南新川」「北新川」が完成し、安定した米作りが行われるようになりました。またその裏作として小麦も育てられ、水車による製粉など、産業・商業において発展するきっかけになりました。
民の暮らしを豊かにしようと、このかんがい用水を町に引いたのが吉井町にいた5人の庄屋でした。藩には負担をかけないことを約束し、失敗した時に責任を取るためのはりつけ台が設置され、命を懸けた難工事が行われました。
この庄屋さんを死なせてはならないと地元の農民も工事を手伝い、無事完成。この「五庄屋」ストーリーは今も大切に伝えられ、町の中の説明看板や小学校校歌として歌い継がれるなど、地域の誇りとなっています。
現在もこれら水路は市内を流れ、緑豊かな景観にさらに清らかな潤いを与えています。

吉井の水の本当の良さを知り、水の恵みについて熱く語ってくれたのは「古賀豆腐店」、「長尾製麺所」、「幾里人珈琲焙煎所」の皆さん。豆腐づくりも製麺も、そしてコーヒーも水がなければ作れない、もっというとほとんど水でできているものだからこそ、おいしい水の恩恵を受けている食品・商品です。

まもなく創業100年を迎える「古賀豆腐店」は、素材にこだわった豆腐づくりを三代目店主と四代目の息子さんにより行っています。国産大豆を使った「寄せ豆腐」、佐賀大学で開発された新品種の高オレイン酸大豆を使った「厚あげ」など、個性的な商品があります。
地下深くから汲み上げる水はこれまで枯れたことがなく、一定温度に保たれています。豆腐づくりにはこの地下水を常に使うため、欠かせない大切なもの。水に含まれる豊富なミネラルもたっぷり含んだ豆腐ができます。
工場内では出来立ての商品が購入できます。

歴史の中で生まれたそうめんづくりを行うのが「長尾製麺所」。
吉井を含めたうきはは、江戸時代から麺づくりを行ってきました。
長尾製麺所は吉井の地で長年そうめんやうどんなど乾麺を中心とした麺づくりを行っている企業。一般的に食用油を使ったそうめんが多い中、長尾製麺所では油を使わないそうめんを独特の手延べ製法で作っています。ゆで上げたらすぐに食べてほしいという、繊細な風味を持った「吉井素麺」は、うきはの歴史が詰まったそうめんです。

「幾里人珈琲焙煎所」は同市内に店舗を構える焙煎コーヒーの専門店。うきはの水を語る上でどうしても行ってみたかったお店です。
焙煎所のオーナーである濵さんは、コーヒーを淹れる道具を積み込み九州全県の名水といわれる場所をまわり、コーヒーに一番合う水を探したという強い想いの持ち主。そしてうきはでやっと理想の水に出会えたことからこの地に定住、まさにうきはの水を愛する人です。近くには濵さんが惚れ込んだ清水寺境内の地下水「清水湧水」があり、清らかな水がこんこんと湧き出ています。
幾里人珈琲焙煎所はインドネシア・スマトラ島で生産されるマンデリンを複数種取り扱っています。店主が自家焙煎した深煎りの豆で淹れるコーヒーは、苦味の中に複雑な味わいが感じられ、ゆっくり味わいたい一杯です。コーヒーの話をしながら店主のこだわりを聴いたり淹れ方を教わったりと、まさにコーヒー好きのためのお店であることは間違いありません。

古賀豆腐店

住所:福岡県うきは市吉井町940電話:0943-75-3305営業時間:7:00~18:00定休日:水曜日、日曜日URL:https://www.instagram.com/kogato_futen/

長尾製麺所

住所:福岡県うきは市吉井町943電話:0943-75-3155営業時間:9:00~17:00定休日:土曜日、日曜日、祝日

幾里人珈琲焙煎所

住所:福岡県うきは市浮羽町山北226-9(今後は焙煎所として利用予定)
※移転先住所:福岡県うきは市浮羽町字百堂1846-1(旧山北保育所)営業時間:月~金13:00~17:00、土日11:00~17:00定休日:不定休URL:https://www.instagram.com/kiritocoffeeroasters/
※移転時期などはInstagramで随時更新

江戸時代に苦労して引いた南新川。「五庄屋」ストーリーはこの町の誇り

吉井町は乾麺の産地としても有名。長尾洋介社長が手掛ける手延べそうめん、うどんは油を使わず小麦の味がダイレクトに味わえる

麺工場は元役所の建物。背の高い木造建築が渋い

工場内では手延べ作業の真っ最中。すだれカーテンのように麺がかけられている

手のひらを使って麺を延ばしていく。簡単そうに見えるが熟練の技

製造所で購入も可能。社内でデザインしたカラフルなパッケージが目を引く

とうふは“水が命” 古賀豆腐店の工場へ

豆腐屋の朝は早い。その日のうちに新鮮なまま豆腐を出荷するため

出来立ての豆乳から湯気があがる寒い朝

手際よく豆腐が作られていく

国産大豆の寄せ豆腐は名品!

工場内では出来立ての豆腐を購入できる

「幾里人(きりと)珈琲焙煎所」のコーヒーでホッと一息

インドネシアスマトラ島のマンデリン族が栽培をはじめたアラビカ種「マンデリン」

幾里人珈琲焙煎所の濵さんがこの地に定住する決め手となった清水湧水

一杯ずつ丁寧に淹れるハンドドリップコーヒー。豆を購入すると一杯サービスされる

画家のご両親の影響で、濵さん自身も絵を学んだ。店内には作品が飾られている

今後、近くの廃校活用として移転する。子ども連れなどにやさしい居心地の良いカフェへと生まれ変わる予定