カワサキのバイク用エンジン積んだ「異形の民間機」実現なるか まさかのハイブリッド いつエンジン使う?

フランスでは、ユニークな機体形状に加え、カワサキのオートバイエンジンを搭載した新型航空機の開発が進んでいます。その一方で、次世代機には珍しく「あえて伝統的」な点も。この機の全容を見ていきます。

胴体は水滴型?

 電動モーターとガソリンエンジンの2つを載せたクルマは一般的にハイブリッド車と呼ばれますが、この型式は自動車分野だけでなく、航空機分野でもこの動きが進んでいます。そのなかでも注目される機体のひとつが、仏のスタートアップ企業ボルトエアロで開発中の、5人乗りのハイブリッド航空機「キャッシオ330」です。

この機はユニークな形状がなんとも目を引きますが、このほかにも、日本のカワサキモータースのオートバイ用エンジンを搭載するなど、旧来からの技術もあえて使っているのも特徴です。

 2023年6月のパリ航空ショーで公開された「キャッシオ330」の機体サイズは全幅が10m、全長は8.96m。巡航速度は約330km/h、離着陸の滑走距離は600mなので、小型飛行機市場への参入を狙っていると見られます。

これまでの民間航空機と比べると斬新なポイントは、胴体前方に小ぶりな“先翼”を備えるなど、ユニークな翼の構成と、水滴型をした太めの胴体でしょう。

この設計は、キャビン(客室)容積を十分に確保できます。実際、同航空ショーに展示されていた胴体の原寸大模型の後部座席に乗ってみたところ、左右の幅はゆったりとしていました。これは胴体の形状だけでなく、主翼と尾翼、プロペラが胴体の後部に付けたことによる“合わせ技”のためでしょう。

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カワサキエンジン搭載の「未来の民間機」、実は伝統設計も?

 ボルトエアロによると、「キャッシオ330」は、離着陸を電動モーターで行い、近距離はモーターのみでプロペラを回すということです。同時に積まれているカワサキのオートバイ用エンジンは長距離での巡航飛行時に用いるため、「キャッシオ330」はハイブリッド機としつつも、次世代を担う電動航空機寄りの機体と見られています。

 その反面、通常こういった次世代航空機は、炭素繊維などを素材とすることが多いなか、「キャッシオ330」の機体構造は、旧来からある航空機と同じようにアルミニウムを使うとしています。

あえて“先進的でない”構造を用いる理由について、ボルトエアロは、落雷への耐性や電磁気的な干渉を避けたりするのに加え、構造の強化と容易な生産へ最適化を探った結果としています。

 こうした新旧の技術を織り交ぜた「キャッシオ330」は、2024年中に欧州連合(EU)から「型式証明」を取得し、2025年に顧客への納入を開始する計画を立てており、既に機体を大型化した6人乗りの「キャッシオ480」、10~12人乗りの「キャッシオ600」の開発計画も発表されています。

 エンジンを担当するカワサキモータースも、すでにボルトエアロへの出資を行ったと報じられています。また、「キャッシオ」シリーズに搭載するエンジンについても、次世代燃料資源である「水素」を動力源にして稼働する動作試験を進めています。これは4気筒の試験用エンジンでは既に成功しており、6気筒エンジンでも同様な試験へ進もうとしています。

実はバイクのエンジンは軽量でコンパクト、そして高い出力が必要なため、航空機用と要求されるものは似ています。それゆえに、将来「キャッシオ」の販売が伸びれば、それをアピールできるという意味で、カワサキモータースもにとっても“朗報”となるでしょう。