自衛隊は「トヨタ車」を持参 スーダン邦人救出に成功 なぜ「邦人救出専用車」は使われなかったか

輸送防護車が現地へ行かなかった理由

 そしてC-130HとC-2、この2機種に焦点を絞った場合、後者の方が積載量、機内容積ともに優れています。輸送防護車の車重は約14.5tであることから、C-130Hであれば1両、C-2であれば2両を搭載できそうです。しかし、C-2に輸送防護車を2両も乗せてしまうとC-2の有効搭載量32tに近くなることから、他の機材が積めなくなる恐れがあります。また燃料も満載できなくなるほか、離陸に伴う地上滑走距離も長くなることから、安全を考慮した場合、1両が現実的な数になるでしょう。

 他方、高機動車であれば車両重量は約2.6tで、防弾板を装着していても3t程度で済むと考えられるため、C-130HとC-2双方に2両を積載し、現地まで飛んでいくことが可能です。

 計4両の高機動車を輸送した場合、一度に運べる在外邦人は28名程度となりますが、近隣諸国や国連の支援を受けることができると考えれば妥当な数でしょう。

 実際には、高機動車は航空自衛隊の輸送機から降ろされることなく、在外邦人は関係諸国や国連の車両でポートスーダンの空港まで避難してきています。

 ちなみに、陸上自衛隊は軽装甲機動車という装甲化された小型の車両も保有していますが、こちらは最大乗車人員が4名となっているため、運転手と車長を乗せてしまうと、乗せられる在外邦人は1両あたり2名となってしまうため、現実的な数字ではなくなってしまいます。その一方で、退避する車列の警護には使えるため、場合によっては軽装甲機動車を運ぶという算段もあったでしょう。

 いずれにせよ、退避を希望する在外邦人が全員救助されたのは喜ばしいことです。しかし、仮に全ての在外邦人を自衛隊が独力で救助するとなった場合、陸上輸送を担当する陸上自衛隊の部隊を乗せる航空自衛隊の輸送機が不足するという問題が発生する恐れがあります。

 今回は現地在住の邦人数が少なかったことが不幸中の幸いであったと言えるかもしれません。もっと在留邦人の多い国で政変が起き、救出しなければならない事態になったときのためにも、今回の事例をしっかり教訓として次に生かすことを筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)は期待します。