『機動戦士ガンダム』でジオン公国軍は当初、モビルスーツ「ザク」で戦備を統一していました。しかし戦争後半になると「グフ」「ドム」「ゲルググ」など多数の機体が登場します。なぜ種類を増やしたのか、旧海軍を例に考えてみます。
バラエティに富むジオンのモビルスーツ群
人気アニメ『機動戦士ガンダム』において、ジオン公国軍は当初、人型のロボット兵器、いわゆるモビルスーツ(以下MS)を「ザク」に統一します。「ザクI」「ザクII」の違いはありますが、この両者は武装もほぼ同じで、兵器としての運用構想に差はなく、概ね共通運用が行われていました。
補給・整備の都合を考えるなら、兵器の種類は少ない方が合理的です。開戦時のジオンはどの艦艇にMSを収容しても、補給・修理・整備が行えたでしょうから、機種統一することで合理的な運用が可能だったと考えます。
ところが、敗戦直前のジオン公国軍は多種多様な兵器を投入するようになりました。主要なMSだけでも「ザク」「ドム」「ゲルググ」と3系統に別れ、それぞれ細かなバリエーションに細分化しています。これでは、部品や武装の共用ができないケースも多々あったでしょう。
加えて、「ズゴック」や「ゴッグ」などの水陸両用MSや、「ギャン」「ケンプファー」「ジオング」などの試作MSも次々と実戦投入され、さらに「ビグロ」「ザクレロ」「ブラウ・ブロ」「ビグ・ザム」「エルメス」などのモビルアーマー(MA)も使われていました。
これらは高性能ですが、お互いに共通している部品は乏しいでしょうから、補給や整備面で現場には大きな負担をかけたと考えられます。
振り返って、第2次世界大戦中の日本やドイツでも、多種多様な兵器が前線に投じられ、時には混乱をもたらしていました。なぜこうなるのでしょうか。
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戦争中、用途別に進化した旧海軍の戦闘機
筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、これについて「兵器開発は相手があるから」と考えます。
たとえば、旧日本海軍では1943(昭和18)年より求められる状況に合わせて、戦闘機を「甲戦」「乙戦」「丙戦」の3種類に分けました。
「甲戦」は、敵戦闘機の撃墜を主眼に置いた戦闘機です。上昇力、速力、旋回性能が高次元でバランスよく調和し、敵機に勝てることを求められました。なお甲戦の代表的な機種が「紫電改」です。零戦(零式艦上戦闘機)を「甲戦」とする史料もありますが、甲戦が定義された時点では、すでに旋回性能を最重要視する零戦開発時の価値観はなくなっていました。
一方「乙戦」とは、高高度における敵爆撃機の撃墜を主眼とし、速力と上昇力、高高度性能を重視した機体になります。これには「雷電」のような局地戦闘機が該当します。
そして「丙戦」とは対爆撃機用で、夜間戦闘可能な戦闘機のことを指します。「月光」などが該当します。
これらがなぜ区別されるのか。「運動性のいい零戦は敵戦闘機との空戦は向いているが、速度や上昇力は並みなので、高速大型爆撃機への迎撃は向いていないし、単座でレーダーもないので夜間戦闘をさせると機位を見失う」からです。
このように、兵器は「敵軍の兵器への対応」で進化しますから、戦うごとに兵器の種類が増えるわけです。