【三菱eKクロスEVとは】SUVテイストをそのままに見事に電動化したeKクロス

■三菱自動車工業とは:唯一の財閥系自動車メーカー


三菱財閥の創始者である岩崎弥太郎

三菱自動車工業は日本の自動車メーカーのなかでは唯一、財閥系の企業となります。そのルーツは、1870年に土佐藩が開業した九十九商会です。

三菱ブランドの最初のクルマはA型と呼ばれるモデルで、1917年に誕生した日本初の量産乗用車です。当時はまだ三菱自動車工業は発足しておらず、三菱造船と三菱内燃機の手により開発製造されたモデルでした。

戦後は3輪トラックのみずしまや、スクーターのシルバーピジョンを製造、1953年からはアメリカ・ウイリス社のジープのノックダウン生産を行うようになりました。このジープの生産を開始したのは、新三菱重工業という会社でした。翌1954年には国産ジープの販売会社として、菱和自動車販売を設立します。


1998年に設定されたジープ最終記念車

その後、軽三輪のレオ、三菱500、三菱360、コルト、ミニカと車種を拡大し、1964年には三菱自動車販売を設立。1969年に三菱重工業のなかに自動車事業本部が設置されます。

そして翌1970年、ついに三菱自動車工業が誕生します。今も正式名称は三菱自動車工業ですが、ブランド名として三菱やミツビシ、MITSUBISHIが使われます。また、英語表記の略称であるMMCが使われることもありますが、これは企業を表す場合で、クルマのブランドとして使われることはあまり見かけません。


2022年1月に開催されたルノー・日産・三菱自動車のアライアンスに関する記者会見の模様。向かって右が三菱自動車の加藤隆雄社長兼CEO

2000年代初頭には、リコール隠し問題が起きるなどもあり経営不振に陥りますが、三菱グループ各社からの支援などを受けて危機を脱します。その後、2011年には日産自動車と共同で軽自動車を開発・製造するNMKVを設立。

しかし2016年には燃費データの不正が発覚し、ふたたび経営危機を迎えます。が、同年、三菱自動車工業が新たに発行する株式を日産自動車が2373億円で購入。日産が三菱自動車工業の発行株の34.0%を持つ筆頭株主となることで、三菱自動車工業は危機を脱します。

最新のトピックスとしては、2022年1月27日に行われた、ルノー、日産自動車、三菱自動車工業の3社アライアンスが、今後5年間で電動化に向かって総額230億ユーロ(約3兆円)以上の投資を行うことを発表。2030年までに35車種のEVを発表、そのうち90%は5種のEV用プラットフォームを用いるということです。

●三菱電動車の歴史:1966年には開発を開始 2009年にi-MiEVが登場


1966年のミニカEV

三菱が最初に電気自動車を手がけたのは1966年のことで、当時はまだ三菱自動車工業ではなく三菱重工業の自動車部門が担当しました。ベースはミニカで、バッテリーは鉛バッテリーが採用されました。


荷台一杯に鉛蓄電池が積まれたミニキャブEV

その後、1990年代にはランサーEVやリベロEVでニッケル・カドミウム電池を採用。

1998年にはFTO-EVでリチウムイオン電池にシフトします。以後、エクリプスEV、コルトEV、ランサーエボリューションEVなどの開発車両を経て、2006年にi-MiEVの実験車両を発表、2009年に市販モデルが登場します。


本格的実用化の道筋をつけたi-MiEV

一方、i-MiEVで得られた知見を生かしたモデルとなるアウトランダーPHEVを2012年に発表。エンジン走行、EV走行、ハイブリッド走行が可能で充電もできるモデルとして、アウトランダーPHEVは大きな注目を受けました。

アウトランダーは2021年にフルモデルチェンジされ現行モデルとなります。国内の現行モデルはすべてPHEVとなりました。また2020年にはエクリプスクロスにもPHEVを追加しています。


初代アウトランダーPHEV

2016年以来、三菱自動車工業の筆頭株主は日産自動車となっていますが、それ以前となる2010年に両社はNMKVという合弁会社を設立し、軽自動車の製造を共同で行うようになっていました。三菱のeKシリーズ、日産のデイズ&ルークス、そして日産サクラともにNMKVの手によるもので、製造は三菱自動車工業が行っています。

●eKクロスEVの基本概要 パッケージング:NMKV乗用プラットフォームをベースにEV対応


eKクロスEVのフロントスタイリング

eKクロスEVはeKクロスをベースとしてEVに仕上げたモデルです。プラットフォームはNMKVの乗用プラットフォームを用いて、フロア下にバッテリーを搭載します。

バッテリーは日産リーフなどにも使われているパウチタイプのリチウムイオン電池で、リヤ側の積層枚数を多く、フロント側を少なくすることで効率よくバッテリーを搭載し、室内高はエンジン車のeKクロスと同一の1270mmを確保しています。

eKクロスEVは軽自動車なので、ボディサイズに大きな制限があります。軽自動車枠と言われるボディサイズは全幅1475mm、全長3395mmで全高は2000mm。eKクロスEVは全幅と全長は軽自動車枠に収め、全高は15mm高い1655mmとなります。これらの寸法は日産サクラと同一ですが、日産サクラには設定のないオプションのルーフレールを装備した際は全高は1670mmとなります。

衝突時のバッテリーの安全性などを高めるためにプラットフォームは強化されています。とくに力が入れられたのが後方からの衝突に関するもので、リヤまわりを中心にフレームを追加、さらに左右のクロスメンバーも追加されています。また、ボンネット下のモータールーム(エンジン車のエンジンルームに当たる部分)にも、大型の横方向メンバーを追加しています。このメンバーにモーターをマウントすることで上下振動の軽減にも役立てています。

●eKクロスEVの基本概要 メカニズム:出力はeKクロスと同一だがトルクは2倍のモーターを搭載


バッテリー以外の主要システムはコンパクトでボンネット内に収まる

eKクロスEVに搭載されるモーターは、アウトランダーPHEVやノートオーラ4WDのリヤモーターと同一のものが採用されます。軽自動車のエンジンやモーターには最高出力の自主規制があり、最高出力を47kWとしているので、搭載されたモーターの最高出力もデイズターボと同一の47kWとされています。

ただし、トルクについては規制がないのでデイズターボのエンジンが100Nmであるのに対し、eKクロスEVのモーターは約2倍となる195Nmを発生しています。


充電口は右リヤに設置。軽自動車のスペースに合わせての配置なので、縦型となった

バッテリー容量は20kWhでフロア下に搭載されます。バッテリーは熱を持つと充放電ともに性能がダウンします。eKクロスEVのバッテリーはエアコン用の冷媒をバッテリーに巡らせて冷却するシステムを採用しているので、効率のいい充放電が可能となっています。

とはいうもものの、eKクロスEVは普通充電をメインとして、日常の足として使うことをメインとした設計としています。急速充電については大電力を受け入れる設計ではなく、充電容量が上がってくると充電電力をダウンする設計で、バッテリー保護に重きをおいています。

WLTCモードでの航続距離は180kmを確保。1日の走行距離が30kmならば5日に1回の自宅充電でカバーできる計算とのこと。

●eKクロスEVのデザイン:エンジン車と大きな違いはない内外装


左がeKクロスEV、右がeKクロス

日産のサクラがデイズのシリーズではなく、車名を変更してデザインも異なるものとしたのに対し、eKクロスEVはeKシリーズ、それもeKクロスのEVという車名としています。このためエクステリアのデザインもeKクロスに酷似したものとなっています。

基本的にパネル類は同一となります。eKクロスのグリルは空気の導入が必要なため上部グリルには細かい穴とスリット、下部グリルの左側にはスリットが設けられていますが、eKクロスEVは上部グリルの細かい穴の部分は横バーのメッキパーツでふさがれ、下部グリルの開口部も小さくなっています。


ヘッドライト部分のアップ。左がeKクロスEV、右がeKクロス


eKクロスEVのインパネ

日産サクラはステアリングを2本スポークにしたほか、ダッシュパネルの形状を変更するなどデイズと大きく異なるデザインのインパネを採用してきたのに対し、eKクロスEVはeKクロスとほぼ同一のデザインとなっています。

インパネでeKクロスと異なるのは、セレクトレバーの形状とそのベースまわりで、eKクロスEVのほうがベースパネルの面積も若干ながら広くなっています。また、セレクトレバーベース下にはUSB-AとUSB-Cのポートも装備されます。

●eKクロスEVの走り:小型車レベルの走りを実現


男4人乗車でも十分なトルク感を持って走るeKクロスEV

自動車メーカー主催の試乗会において、私の場合、試乗は1人乗りで行うことが多いのですが、eKクロスEVの試乗は大人4人乗りで出発することになりました。

普通、大人の男性が軽自動車に4人乗りで試乗するというのはかなりの暴挙で、試乗会を主催している自動車メーカーにも嫌な顔をされがちです。というのも、乗車人数が多くなって、クルマが重くなると加速は鈍りますし、乗り心地も悪化するからです。

ところが今回はそうしたそぶりすらなく、会場を送り出されました。それもそのはず、4人乗りでスタートしても何の力不足も感じません。しかし、4人乗りでスタートしてその力不足を感じなかったという事実に気がついたのは、かなりの距離を走ってからでした。モーターの最高出力は47kWでターボ系の軽自動車と同じ(つまりeKクロスのターボとも同じ)ですが、最大トルクは195NmとeKクロスのターボの約2倍にもなるのです。

男4人乗りで走っているのに、発進加速も高速道路での追い越し加速でも不足感がありません。走行モードをノーマルからスポーツにするとさらに加速感が強くなりますが、ノーマルで十分という印象でした。

ビックリするのはACCをオンにして車線維持支援機能(LKA)を働かせたときです。ステアリングはビシッと保持され、ちょっと軽自動車のものとは思えないしっかり感を示してくれます。


ACCをオンにしてLKAを作動させたときの、ステアリングのすわりはかなりガッチリとしている

浦安にある試乗会拠点をスタートする際のバッテリー残量は88%で、走行可能距離は118kmでした。高速道路を使って酒々井パーキングエリアに到着した時点で残量は54%です。


バッテリー残量が少ないときの、充電受け入れはいい

この状態から急速充電を行いました。約10分で75%、走行可能距離106kmまで復活しました。バッテリーは充電量が少ない状態からの充電は早く、充電量が増えてくると遅くなります。

炭酸飲料をコップに注ぐときの状態を想像してみてください。コップが空の状態ならば、勢いよく注げますますが、コップのなかの炭酸飲料の量が増えてくるとゆっくりでないと注げないのと同じような感じです。バッテリー容量が20kWhと小さいとはいえ、約10分で20%復活するのはうれしい限りです。

今後、長距離をドライブする機会もあると思うので、さらに詳しいレポートを追加する予定です。

●eKクロスEVのラインアップと価格:グレードは2種展開


eKクロスEVは、上級グレードのPとベーシックグレードのGの2グレード構成で、サクラにあるような廉価グレードは設定されていません。価格はPが293万2600円、Gが239万8000円で、サクラの上位2グレードとほぼ同レベルの価格となっています。

PとGの価格差は53万4600円となります。Pに標準、Gに未装着な装備でおもなものを拾っていくと、LEDフロントフォグランプ、ヒーテッドドアミラー、スマートフォン連携ナビ、ETCユニット、運転席&助手席シートヒーター、リヤヒーターダクト、アルミホイールなどとなります。


Pにオプション、Gに標準のルーフレール

ACCや車線維持支援機能、マルチアラウンドモニター、ルーフレールなどはPもGもオプションとなり(グレードによりセットオプションとなるものもあり)ますが、自動車駐車システムのマイパイロット・パーキングや合成皮革&ファブリックのシート、ライトグレードの内装色などはPグレードでなければ選択できません。

eKクロスEVは純粋な電気自動車なので、購入時には国から55万円の補助金が支給されます。また、東京都の場合は再エネ電力導入で60万円、導入しない場合で45万円の補助金となります。つまり最低でも100万円の補助が出ることになります。

●eKクロスEVのまとめ:バッテリー容量は意外と必要十分


eKクロスEVのフロントスタイリング

eKクロスEVのバッテリーは20kWhと容量は大きくありませんが、必要にして十分な容量という考え方もあります。日産リーフの初期型は24kWhのバッテリー容量で200kmの航続距離(JC08モード)を可能にしていました。

eKクロスEVは20kWhのバッテリー容量で航続距離は180km(WLTCモード)です。現行リーフの電費データを見ると、JC08モードはWLTCモードに比べて20%程度航続距離が長いので、航続距離という面で見るとeKクロスは初代リーフ程度の性能があるということになります。

初代リーフでも十分に実用的だったというユーザーは多いので、普段の通勤や通学をベースとした使い方ではeKクロスEVも十分にその役目を果たすでしょう。何よりも、使わない重量のバッテリーを積んで走るというエネルギーの浪費を避けられるのはいいことです。


eKクロスEVのリヤスタイリング

とはいえ、急速充電にも対応していますし、長距離ドライブができないわけではありません。また、eKクロスEVはルーフレールが標準もしくはオプションで装着可能なので、ユーティリティスペースのアップができます。

SUVテイストを持つeKクロスEVは軽自動車のEVで家族キャンプなどといった新しい世界も飛び込みやすく、発展性の高さも備えています。

(文:諸星 陽一/写真:諸星 陽一、小林 和久)