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地方移住で農業しながらバスケ生活。実際どう?アスリートの本音に迫る

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また、チームに所属する女子選手の竹内あかり氏は、こうした環境をどのように受け止めているのだろうか。

PREMIERチームとの練習試合

「私は、2023年2月に広島から移住してきました。大学まで5人制のバスケットボールをやっていて、卒業して“もういいかな”と一旦区切りをつけたんです。普通に就職してバスケットボールとは関係のない仕事をしていたんですが、やっぱりもう一度バスケットボールに本気で挑戦したいと考えるようになりました」(竹内氏)

どうせ再びやるなら、新しいことに挑戦したい。そう考えた竹内氏は、それまで経験の無い3人制バスケットボールのチームに入ってみたい。そう考えて探していたところ、三条ビーターズに出会ったという。

農業は未経験だったが、南五百川棚田で初めての田植えに挑戦する竹内あかり氏

「私も農業はまったくの未経験です。でも、そんな不安より新しいことができるワクワク感の方が強かったですね。気候などの環境も広島とは全然違いましたし、毎日が新しい出会い、新しく知ることばかりで、本当にここに来てよかったなと思います」(竹内氏)

農業で広がった、地域住民とのコミュニケーションの幅

これまでの苦労が報われる瞬間。南五百川棚田での稲刈り

柴山氏は、三条ビーターズ創設のポイントのひとつとして“地域課題の解決”を挙げている。農作業の手伝いなどの物理的な地域へのサポートはもちろんだが、高齢化の進む場所に若い人たちが来てくれることによる精神的なサポートといった側面でも、三条ビーターズは大きな力になるのではないだろうか。

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「農業をすることによって、それがチームの“共通スキル”になることはもちろんなのですが、地域の方々との共通の会話の話題ができてコミュニケーションの幅がすごく広がるというのは実感しています。先日稲刈りに行きましたが、とても感謝していただいて。“またお願いします”と言われると嬉しいですね」(竹内氏)

棚田顧問の農家さんと一服。応援の言葉が嬉しい

地域にはバスケットボール、特に3人制バスケットボールについてよく知らない人も多いだろう。ましてや試合を見たことがある人はなおさらだ。

「遠征で東京などに出かけることが多いのですが、帰ってくると“試合はどうだった?”とか、“今度は頑張ってね”など声をかけられます。応援の気持ちを持ってくれるのはありがたいのですが、新潟近辺が試合会場になることがなくて、そういった地域の方々に(プレーを)見ていただける機会が少ないのを残念に思っていました。しかし、2023年10月にはチームのスポンサーを務めてくれている企業の主催で、3人制バスケットボールのイベント“アーネストカップ”を三条で開催することができました。3カテゴリー19チームが参加した賑やかなイベントになり、企画運営を担当した私としては達成感がありました。また、自分自身の課題として、今シーズンは1度も試合に出られなくて悔しい思いをしたので、応援してくださる地域の方のためにも、もっと頑張って活躍できるようになり、ファンを増やしていきたいです」(菅原氏)

地元のみなさんにプレイを見てもらう願いが実現した“アーネストカップ2023”

教育に携わっている安恒氏は、また別の意味での地域に対する責任を感じていると語る。

「チームとしては競技で良い成績を残すことがもちろん一番大事なんですが、小中学校で指導する立場としては地域の子どもたちから憧れられるような存在でいるということも重要だと思っています。バスケットボール以外の部分で培われた人としての力みたいなものは、競技にも影響してくると思うんですね。そういった意味でも、バスケットボールと農業や地域での仕事の両立は大事です。これからの地域を作っていく子どもたちとのコミュニケーションも僕たちの重要な仕事の一つで、8月に盆踊りの催しがあり手伝いに行ったんですが、子どもたちと一緒に踊ったりして楽しかったですね。また来てねと言われて嬉しかったです」(安恒氏)

小学生対象のクリニック。これからの地域を作っていく子どもたちの指導には自ずと力が入る

スタッフも移住して選手をサポート

三条ビーターズでは選手だけではなく、彼らを支えるスタッフも移住者だ。チームの活動のための資金を調達する営業担当の齋藤柊斗氏は、新潟の出身だが新潟市内から三条市へ移住してきた。

水を張った田んぼの土を砕いてならす代掻き作業は、田植え前の大事な仕事だ(北五百川棚田)

「同じ新潟県内とはいえ、雰囲気はだいぶ違います。こちらは横の繋がりが密で、道で会ったら必ず挨拶するし、困ったことがあればアドバイスをもらえる。田舎ならではの良さがありますね。僕の使命は、選手が何かしたいと考えたときに資金面が理由でできないということがないようにすること。チームを経済的に支えて、それがこの地域の活性化に繋がるよう頑張っていきたいです」(齋藤氏)

選手の身体面をケアするトレーナーの坪田麻理氏は、神奈川県からの移住者。未体験だった農作業は毎日刺激的だと語る。

選手の体のケアをする坪田麻理氏

「思い切って神奈川を飛び出してきたんですが、とにかくここで採れるお米が美味しくて、それだけでも人生得したなと思うぐらいです(笑)。月1回地域の方を対象に体操教室を開催して下田弁を教わったり、冬には雪かきも初めて体験しました。都会暮らしに比べたら不便で、何をするにも自分で動かないと始まりません。だからたくましくなったと思います」(坪田氏)

バスケットボール選手の経験がありコーチングも学んだ笈入正和氏は、これから3人制バスケットボールが注目を集めるようになるだろうと考えて参加を決めた。

休耕田をドッグランにし、その整備を行う笈入氏は愛犬家。犬が飼えるならと移住を決めた

「私はここに来てから、女子チームの立ち上げを担当しました。全国の選手を調べて、誰がどのチームに所属しているか、フリーの選手はいるのかなどを確認しつつ、トライアウトを実施して、チームに勧誘を進めていきます。3人制のバスケットボールチームであること、そして移住してもらうことを伝えるんですが、移住がネックになることはどうしてもありますね。そのハードルをどうやって下げていくか。そして、契約期限の3年間をプレーに集中してもらうと同時に、その後もこの三条市に残るための場所を作ることも、今後の私の課題だと思っています」(笈入氏)

高校生を対象にした3×3クリニック

選手はもちろんのことスタッフもこうしたい、こうなりたいという意志と、相応の覚悟を持ってこの地にやってきたことがわかる言葉だった。代表の柴山氏は、新しい人たちが地域にやってくれば、必ずしも理解してくれる人ばかりではなく、それなりの軋轢はあると語る。自分が出て行くのは、問題が生じたときばかりだと笑うが、たとえ何かピンチに遭遇したとしても、このような環境だからこそメンバーはピンチをチャンスに変えるチャレンジができるのだと言う。ここでの体験こそ、移住して半農半バスケをしなければ得られない貴重なもので、さらなる成長を促す原動力となるのだろう。

知的障がいのある人たちに、様々なスポーツトレーニングや競技会出場の機会を提供する“スペシャルオリンピックス日本・新潟”でメンバーは特別講師を務めた

半農半バスケ。取り組みの対象をひとつに絞らず両方“いいとこ取り”をする。一昔前なら、中途半端とかどっちつかずになると歓迎されなかった生き方だが、“こうあるべき”を手放すと人は自由に、より多くのものを得られるのかもしれないと思わされる取材だった。バスケットボールだけではなく、他にも取り組むことがあることによって、固まったヒエラルキーに囚われることなく、新たな才能が発揮できることもあると柴山氏は語っている。三条ビーターズが、そして彼らの活動の拠点である三条市がこれからどう変わっていくのか、行方を見守りたい。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:三条ビーターズ

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