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明大野球部に初の女性主務誕生。大学野球にも女性活躍の波?

パラサポWEB

その準備というのが田中監督が話してくれた朝練活動などというわけだ。田中監督は女性ならではの目線や気遣いにも期待していると話していたが、一方で世の中には女性であることが「女性は●●だから」「女性だからこれは無理」といった否定的な文脈で語られることもある。ましてや前例がない女性初のポジションともなれば、そういった声が本人の耳に届くこともあるだろう。

「そういうこともありますが、あまり気にしていません。世の中にそういうジェンダーギャップがあるということは理解しています。それを平等にしたいという気持ちもありつつ、その上で違いを受け入れて理解する方が今の自分には合っていると思います。もちろんジェンダーギャップがなくなることが一番ですが、戦うよりも、話し合ってお互いを理解して、みんなにとっていいチームを作っていけば、自然と周囲の理解も得られるのではないでしょうか」(岸上さん)

大切なのは素直さと諦めないこと

ベンチから選手をサポートする岸上さん

主務になることが確定していない1年も前から、もしも任せてもらえたらと努力をしてきた岸上さんだが、もし監督から打診されなかったら、どうしたのだろうか?

「私は大切にしていることが2つあって、1つは素直さ。そしてもう1つは諦めないこと。今回、主務に任命していただいて報われたとは思いますが、たとえ違う結果になっていたとしても、それまでの過程というのは後々の人生で役立つというのを実感しました。もちろん、失敗もたくさんありましたが、諦めなければ誰かが見ていてくれますから」(岸上さん)

一度決めたことに真っ直ぐに取り組めば絶対に結果はついてくると力強く話す岸上さんだが、そうした自分の姿を見てもらうことで、女性たちが何かを頑張るきっかけになってくれたら嬉しいと笑顔で話してくれた。

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そんな岸上さんの話を裏付けるような印象的なエピソードがある。昨年の秋のリーグ戦で、会場となる神宮球場に来場した招待客にチケットを手渡したときのことだ。「明治大学野球部の岸上です、お待ちしておりました」と一言添えたところ、相手は「今までチケットをもらうのに名乗られたのは初めてだし、こんなに丁寧に渡されたのは初めてだ」と喜んでくれたそうだ。もちろん、今までのマネージャーや主務も丁寧な対応をしていたのだろうが、そのたった一言が相手の心にしみたのだろう。

「そんな風に言っていただいて、自分がやってきたこととか、今やっていることは間違っていなかったんだなと嬉しくなりました」(岸上さん)

主将、宗山塁から見た女性主務

2023年10月から明治大学野球部の主将となった宗山塁さん

OBや監督からも絶大な信頼を得ている岸上さんだが、選手たちはどう思っているのだろうか。昨年、野球部の主将に就任、今年のドラフトの目玉とも言われる宗山塁さんに聞いてみた。

「監督から主務は岸上でいくからと聞く以前から、チームの中で、そうなるだろうという話は出ていたので、特別驚きということはありませんでした。女性主務は前例がないので、いろいろと難しい点も出てくるだろうという懸念はありましたが、岸上なら責任感を持ってやってくれるだろうと思っていました」(宗山さん)

とはいえ、男性同士、女性同士の方が話がしやすい、あるいは異性だと言い方に気を遣うなどという話は一般社会の中でもよく聞く話だ。そういった雰囲気は野球部の中にはないのだろうか。

「少なからずあるとは思いますが、それではいいチーム作りはできないので、思ったことはしっかり選手側に伝えてほしいし、主務をやる以上は選手からの意見も遠慮なく言わせてもらいたいといった心構えについて、岸上とは話をしました。お互いにしっかりと話し合える関係性を築いて、いいチームを作っていきたいと思っています」(宗山さん)

宗山塁さん(左)と岸上さくらさん(右)

今回の取材は時間の都合上、それぞれ別の時間に話を伺ったのだが、三人が共通して話していたことがある。それは「コミュニケーションの大切さ」と、そこから生まれる「信頼関係」だ。田中監督は「一人で抱え込まず、同期のマネージャーや選手などとコミュニケーションをとって、信頼関係を築き、チームの顔として活躍してほしい」と岸上さんにエールを送った。宗山さんは野球部では普段から何かあったらきちんと上の人に相談すること、挨拶や礼儀をしっかりするといった指導をされていることを踏まえ、「主将として自分一人でチームをまとめていくのは当然難しいので、主務やマネージャー、選手みんなで協力して、いいチームを作っていきたい」と抱負を語ってくれた。

そして、岸上さん本人も普段から気をつけていることとして、「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)とコミュニケーション」をあげてくれた。

「私には頼もしい同期のマネージャーが3人いるんですが、4人で選手が野球に専念できるにはどうしたらいいかといったことを、日々話し合ったり、一緒に考えることができるのが、自分自身の活力にもなっています」(岸上さん)

いい組織を作る上で障害になるのは、女性か男性かや、年齢、立場などではなく「コミュニケーション不足」とそこから生まれる「不信感」なのかもしれない。今回の取材のテーマは「女性初の主務」だったが、明治大学野球部のように「いいチームを作ろう」「このチームで頂点を目指そう」という目標に向かって性差を乗り越えて協力しあう人たちが増えれば、いつか「女性初」をテーマに取材をする必要がなくなるのではないかと感じた。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:明治大学野球部

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