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2つのゴールを目指す画期的なスポーツ指導法。「勝利がすべて」は百害あって一利なし!

パラサポWEB

ジム・トンプソンによるコーチモデルの原則の2番目は、アスリートのエモーショナルタンク(感情の貯蔵庫)を満たすことだ。

車の燃料タンクが空っぽだと、その車でどこかにたどり着けるとは期待しないだろう。同じように、子供は(大人も!)目標にたどり着くために満たさなければならないタンクを持っている。それは「エモーショナル・タンク(Eタンク)」と呼ばれるものだ。(中略)
子供たちのEタンクが空っぽになっているとき、プレー(または、勉強、思考、行儀よくすること等)で潜在的な力をすべて残さず発揮することは不可能だ。車の燃料タンクが満たされていることに気を配るのと同じくらい、監督として選手たちのEタンクが満たされていることに気を配れば、よりよい結果を出せるようになるだろう。
(ジム・トンプソン・著/鈴木佑依子・訳『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』東洋館出版社より)

Eタンクを満たすとは、アスリートのモチベーションが上がるような言葉をかけたり、イベントを行うことによって、目標に集中できるような環境にすることだと言えるだろう。

それには、

褒める 感謝する よい行動に気づく 聞く

などの方法が効果的であるとジム・トンプソンは語っている。

指導者は、とかく間違っていることを指摘しがちだが、常に注意されればアスリートは頑なになり、ひいては殻に閉じこもり言うことを聞かなくなるかもしれない。一方、小さな事柄でも具体的に褒めることによって、アスリートは自分が何をするべきかを思い出すことがあるのだという。同様に指導者がアスリートに対して、感謝する、よい行動に気づく、そして聞くことは、アスリートの頑張りを指導者は決して見逃してはいない、きちんと認めているというアピールに繋がる。自分のことを指導者が受け入れてくれているとわかれば、Eタンクは一杯に満たされ、目標に向かって頑張ろうという気になることは想像に難くない。

ユーススポーツが子供たちにとって良い経験となるかどうかは、監督や保護者によってEタンクが満たされるかどうかにかかっているといっても過言ではない。Eタンクのレベルを管理することは、それだけ重要なことなのだ。
(ジム・トンプソン・著/鈴木佑依子・訳『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』東洋館出版社より)

競技に敬意を払う

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ジム・トンプソンによるコーチモデルの原則の3番目は、競技に敬意を払うということ。ジム・トンプソンは、これをPCAの基礎と位置づけている。たとえば、野球の試合に負けて、悔しさのあまりバットを地面にたたきつけて折ってしまったり、自分に不利な判定をした審判に感情をぶつけたりするのは、競技に敬意を払っているとは決して言えない。もし、それまで良いパフォーマンスをしていたとしても、たったひとつの言葉、行動によって台無しになるということは往々にしてあるのだ。

私たちは、スポーツマンシップを超えたものを目指さなければならない。スポーツマンシップには、どこか受動的な雰囲気がある。主に「悪いことをしない」という意味で使われているため、それは私たちが守るべき最低ラインにすぎない。(中略)しかし、このように「マナー違反をしない」だけでは不十分である。ユーススポーツではその参加者に対し、より高いレベルの行動や態度を期待すべきだと私は思っている。「勝ち負けにこだわらないで、フェアに行こう!」というような標語では、今のユーススポーツ文化を変革することはできないだろう。
(ジム・トンプソン・著/鈴木佑依子・訳『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』東洋館出版社より)

そこでジム・トンプソンが「競技に敬意を払う」とはどういうことかを、指導者、保護者、アスリートたちに覚えてもらうために作ったのが合い言葉“ROOTS”だ。ROOTSとは次の単語の頭文字をあわせたもの。

Rules=ルール
Opponents=対戦相手
Officials=審判
Teammates=チームメイト
Self=自分

この5つの要素は、一見当たり前にも見えるが、さまざまな人との関わりがあることを忘れ、競技に参加することを当然と思い込んでしまうと、たとえ勝利というゴールに達することができたとしても、人間としての成長を掴むことができないということを表しているのだろう。スポーツをするという恩恵を受けるためには「競技に敬意を払う」という責任がついて回ることを忘れてはいけないというジム・トンプソンの主張は、“スポーツマンシップ”という言葉が存在価値を失いつつある現状では特に重く響くのではないだろうか。

スポーツは楽しいもののはずだ。しかし、勝敗を競う、成績を競う側面があるからこそ、敗者にはつらい結果をもたらすことがある。それによって、スポーツが嫌いになったり、挫折感を味わうことになるのはとても残念だ。このジム・トンプソンの提唱する“ダブル・ゴール・コーチ”は、そんなジレンマを解消し、すべてのアスリートにスポーツに取り組むことの本来の楽しさ、そして人間的な成長をもたらす大事なノウハウに違いない。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock


<参考図書>
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』

鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊
子どもにとってスポーツとの出会いは、人生に多大な影響を与える重要な体験のひとつ。しかし、指導者や親の厳しい指導によって挫折し離れてしまう子どもも多い。そこで重要になるのが、勝利だけをスポーツのゴールとしない考え方。本書は、PCA(ポジティブ・コーチング・アライアンス)メソッドを提唱したジム・トンプソン氏がその理論を詳述し、全米を席巻したユーススポーツコーチングのバイブルの邦訳。すべての子どもたちがスポーツを通じて人生を豊かにするために指導者や親はどうするべきかがわかる実践的な内容が網羅されている。

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