阿部:多分……。比較対象がないので。トレーニングの効果なのか、産後うつもなかったですし。
齋藤:一人目じゃわからないですよね。出産って想像以上に女性にとって大事業で、心身に影響があるなって思ってるんです。私も産後うつはなかったのですが、尿もれに悩まされるようになりました。
阿部:それは砲丸を投げるときですか?
齋藤:主にトレーニング中です。ジャンプしたり、ウエイトを持ち上げる瞬間に、ふと出ちゃう。最初は結構ショックで、一番の悩みだったんですよ。JISS(国立科学スポーツセンター)がスポーツ庁から委託されている女性アスリート支援プログラムの産後トレーニングで骨盤底筋系を取り入れるなどフォローアップしてもらったんですけど、今でも油断すると……。開き直って付き合っていくしかないんですよね。尿もれで悩んでいる女性は、結構多いと思います。
阿部:私も産前産後、女性アスリート支援プログラムのお世話になったのですが、齋藤選手はどのぐらい通ったんですか?
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齋藤:トレーニングやリハビリのために、産後半年から1年ぐらいまで通っていました。JISSって東京にあるじゃないですか。まだ子どもを保育園に預ける前で、0歳児を連れて通うのは大変だから、1ヵ月に1回が限界でした。今後は地方を拠点にするママ向けに、地元の理学療法士さんを紹介してくれたら、さらにありがたいなって思います。
阿部:私も出産後は3ヵ月チェックと半年チェックほか、月1で行ったぐらいです。同じく遠方なので……。トレーニングは地元で産前からパーソナルトレーニングに通っています。
妊娠出産は情報収集も大切
産後の競技復帰がスムーズに行くようにと、産前トレーニングに励んだ阿部。齋藤も産前トレーニングがあることは知っていたというが……。
齋藤:妊娠期間って長くないですか? 妊娠から出産、復帰まで丸一年かかりますよね。
阿部:タイミングにもよりますよね。私はパラリンピックを目指すなら、4年間のうちの最初の1年間は妊娠出産期間に当ててもいいかなって思ってます。今回の妊娠中も、出産ぎりぎりまでトレーニングできましたし。
齋藤:私も、海外の砲丸投げの選手が、お腹が大きい状態でデッドリフト(バーベルを持ち上げるウエイトトレーニング)をしている映像を見たことがあります。以前は、私も妊娠したら、同じようにウエイトトレーニングしようかな、なんて考えていたんですけど、正しい方法がわからず、自重トレーニングにとどめました。でもそのせいか、筋肉量が減って体重も15㎏も落ちちゃった。産後、戻すのが大変だったので、もっとやればよかったって、今は後悔しています。
阿部:それって、産前トレーニングを教えてくれる人がいなかったから、結局、自分で考えてやるしかなかったということですよね。
齋藤:そうですね。経験もなかったですし。
阿部は臨月でも医師のアドバイスを受けてトレーニングを続けたphoto by X-1
阿部:私も、知識も経験もなかったので、女性アスリート支援プログラムで教えてもらったトレーニングをしたり、松田先生に言われたとおりに行ったりしたんです。何かあったとしても、それは自分ではなく遺伝子などが原因だから気にしなくていい、と松田先生が言ってくださったので、腹をくくれましたし、安心感もありました。
齋藤:何ごとも知識や経験、正しい情報が必要ですね。だからこそ、経験を伝えていかなければ、と思っています。
子育ての苦労は?
日常生活の過ごし方から子どもの将来にまで話は及んだ。
阿部:練習の時期は、どんな感じで過ごしてますか。
齋藤:通常は平日の4日間、車で10分ぐらいのところにある競技場で練習しています。子どもが保育園に通っているので、子どもを朝8時に保育園に連れて行ったあと、一度家に帰って台所や部屋を整理し、9時から競技場に出てトレーニングしています。帰宅するのは、12時半ぐらいです。阿部選手は?
阿部:私は朝6時ぐらいに起きて、子どもにミルクをあげてから自分のご飯を食べます。その後、洗濯して食器を洗って。ときどき一時保育を利用しているので、9時から一時保育があるときはバタバタと家を出て子どもを預け、そのまま車で移動してトレーニング。13時ぐらいに帰宅し、お昼を食べて、うちの中のことをいろいろとしてると16時のお迎えになる、という感じです。
齋藤:一時保育は、通常だと1時間500円とか、午前中預けて3,000円とかですけど、おいくらぐらいですか。
阿部:9時から16時で11,000円ぐらいです。お高いんですけど、そこは助産院で少人数制なんです。おむつやお着替えなどを全部用意してくれますし、沐浴や爪切りもしてくれます。私のトレーニングもあるので、今の月齢で保育園に連れて行って体調を崩すよりは、と思って。
齋藤:爪切りをしてくれるのは、ありがたいですね。授乳はしていますか?
阿部:完全にミルクです。
齋藤:私は授乳していたのですが、右手しか使えないから大変でした。授乳って、片手でだっこしながら、もう片方の手で自分のおっぱいをつまんで赤ちゃんの口に持っていかなきゃいけないんですけど、それができなくて。
阿部:だっこも片手だと大変ですよね。
齋藤:こわいですよね。赤ちゃんってどんどん重くなるし、動くようになるし。私はだっこひもでおんぶをしていたんですよ。だっこひもにのせた赤ちゃんを、ソファやいすを利用しながらうまく背中に回して。最初は難しかったけど、できるようになったら、すごく楽になりました。
「遠征は岩手の母に、普段の練習は福岡の義母にもサポートしてもらう予定です」と阿部
阿部:いいですね。私の場合、意外とどうにかなっているのが、おむつ替えです。がんばって右手の指を使うことで、おむつの腰のテープを止められるようになりました。
齋藤:私はおむつ替えとか沐浴は産前の予想通り、できませんでした。とくにうんちの始末ができなくて、完全にだんな任せです。中途半端に口を出すとだんなが怒るので、私はもうできないと割り切って、手も口も出さないことにしています(笑)
阿部:うちの子はついこの間、首がすわったんですけど、これだけでだいぶ楽になりました。
齋藤:そうですよね。うちも9ヵ月で立って、10ヵ月で歩き始めたんですけど、手を引いて歩けるから楽ですよ。
阿部:歩き始めるの、早くないですか? 足は速いんですか?
齋藤:さすがにそれはまだわからないんですけど、なんとなく体格ががっちりしているので、フィジカル系のスポーツが向いてるんじゃないかなって。7人制ラグビーとか女子野球とかいいなって思ってるんですよ。
阿部:私は、まずは体幹教室に通わせたいです。体幹をある程度鍛えてから、自分のやりたいスポーツに進めばいいかなと。ただし、スキーはだめです。お金がかかるので(笑)
同年代のママトークに話が弾んだふたり。さらに、海外遠征があるトップパラアスリートならではの悩みやセカンドキャリアについても話が展開していく。
<後編は9月29日公開予定です>【関連記事】(連載1)パラノルディックスキー阿部選手が妊娠中もトレーニングを続けた理由
(連載2)産前トレーニングは効果大!? パラノルディックスキー阿部選手の出産ストーリー
text by TEAM A
key visual by Hiroaki Yoda