ファーストガンダムで描かれた「1年戦争」の時代は、その後も数々のスピンオフ作品が生まれた。画像は「機動戦士ガンダムDVD-BOX 1」(バンダイビジュアル)

【画像】ブライトのその後は? 驚愕展開もあるスピンオフ作品たち(4枚)

物語を作り過ぎて隙間のなくなった一年戦争

 いまだに多くの作品がさまざまなジャンルで製作されているガンダムシリーズ。アニメだけでなく、マンガやゲームでも多くの作品が生み出されています。しかし、近年になってその傾向が少し変わってきました。

 独自の世界観を構築するアニメのガンダム作品と違い、マンガはアニメ作品の時間軸から派生したスピンオフという展開がほとんどです。それは多くのスタッフが関わるアニメと違い、マンガは少人数で製作されることがほとんどだからでしょう。

 もっともガンダム作品であるだけに、近年は発表されただけで「公式」ととらえる人も少なくなく、昔以上に扱いが慎重になっています。そのため、たとえ少人数で製作するマンガでも、関わる人の数は他のマンガ作品より多くなっていきました。

 以前はマンガとして面白ければ問題なかったのですが、近年ではアニメのガンダムシリーズとのすり合わせも重要になっていき、なるべく矛盾点が出ないようにするのが通例となっています。もっとも、それを無視してマンガはマンガ、公式ではないというスタンスで人気を集める作品もありますから、一概にすべてというわけではありません。

 こういった問題が起きるのも、ガンダムではとかく「公式」か「非公式」かという議論になることが多いからです。さまざまなジャンルで作品を発信することで、ゆがみが生じるのは仕方ないことでしょう。ですから、人によって情報の優先度を決めて作品を楽しむことをしているようです。

 そのなかでも初代作品『機動戦士ガンダム』から連なる宇宙世紀を舞台とした作品がもっとも数が多く、本丸であるアニメでは語られなかった情報が登場して、新常識としていつの間にか語られていました。もっとも「A」という作品と「B」という作品で、真逆のことがあります。こうした場合、「一説によると…」という表現が解説される時の定番となりました。

 そういう点では人気の高い「一年戦争」を扱った作品は多く、すでにジオン側のMS(モビルスーツ)の型式番号は埋め尽くされています。もともとファンの遊び心を満たしていたのは、あえてアニメでは描かなかった文字だけの設定でした。しかし、近年では「ルウム戦役」などのそういった文字設定も語りつくされ、一年戦争の時代は掘りつくされて枯渇されたような状態になっています。

 そこで新たな新天地を求めてというわけではないでしょうが、昨今では『機動戦士ガンダムZZ』から『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』までの、アニメでは語られなかった空白の4年間を舞台にした作品が増えてきました。



『機動戦士ガンダムUC』の福井晴敏がストーリーを手掛け、「忘れられたコロニー」ムーン・ムーンを舞台とした『機動戦士ムーンガンダム』第1巻(KADOKAWA)

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宇宙世紀の二大英雄が物語に組み込める利点

 この『ZZ』から『逆シャア』の間というのは、オリジナル作品を作るのに適した条件がいくつもあります。

 まず組織勢力図。宇宙世紀で常に存在する地球連邦軍はもちろん、特殊部隊ティターンズも残党として使うこともできますし、後に活躍するロンド・ベル、暗躍を続ける企業であるアナハイム・エレクトロニクス、近年ではルオ商会もクローズアップされることがあります。

 一方、ジオン側は各地に散らばるジオン公国軍残党のほかに、ネオ・ジオンもハマーン派、グレミーが率いていたザビ派、シャアを旗頭にしたダイクン派と、時には敵とも味方ともなりそうな勢力がありました。

 これに後々、表舞台に登場することとなる私設軍隊クロスボーン・バンガードを立ち上げたブッホ・コンツェルン、ビスト財団やサナリィといった組織も登場させることが可能なため、混とんとした物語を作る材料が多くあるというわけです。

 そして、組織が多いということは人材もまた多くいるということになるでしょう。しかも『ZZ』以降に生きのびて消息不明のキャラが多くいることもこの時代の特徴です。ヤザン・ゲーブル、イリア・パゾム、「ジャムルの3D」隊のダニー、デル、デューンといったMSパイロットはもちろん、一年戦争から生きのびた非戦闘員も多く存在していました。

 さらにこの時代の最大の利点は、アムロ・レイとシャア・アズナブルの存在です。この宇宙世紀を代表するふたりが比較的、自由に動かせるのもこの時代だけ。たとえ登場させなくても存在をほのめかすだけで物語に厚みが増します。

 またMS技術も一定水準はあるので、時代的に先鋭的だとされても登場させることはそれほど難しくありません。すでにオカルトマシンと言われたZガンダムのバイオセンサーが生み出され、サイコフレームも試験中という時代だけに何が出ても不思議ではない。あきらかに特異点のような技術が出たとしても、「登録抹消」という便利なオチがすでに使われています。

 しかも、この当時の型式番号は隙間が多く、新たな設定を組み込む余地は大いにありました。その点を考えると、余裕のなくなった一年戦争時のジオン公国で新たなMSを作り出すよりはたやすいと言えます。さらに昨今ではアニメにならなくても人気があればマンガだけでもガンプラ化は可能。そういった広がりを考えられるわけです。

 最近の話題になるガンダム関係のマンガを振り返ると、『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』、『機動戦士ムーンガンダム』、『機動戦士ガンダム ヴァルプルギス』など、この年代の作品が目立ちます。どの作品もスピンオフとして、アニメ本作の設定を利用して物語が進んでいました。

 リアルな世界観を土台に持つガンダムシリーズは、それゆえに突拍子もないことができません。ウルトラシリーズやライダーシリーズのようにマルチバースの概念が本格的に取り入れられれば違うでしょうが、それには反感を覚える人も現れることでしょう。それはリアルを突き詰めてシリーズを肥大化させたガンダムがかかえる独特のジレンマかもしれません。