情報量が増え続ける『ガンダム』世界。なかでも一年戦争の資料は数多い。画像は『電撃データコレクションTHE BEST 機動戦士ガンダム 一年戦争大全』(KADOKAWA)

【画像】迫力が凄い!ザビ家の人々のフィギュアを見る(6枚)

膨大な資料で補足された一年戦争のリアリズム

 ジオン公国が宇宙移民の自治権を求めて独立戦争を起こしてから、宇宙世紀は激動の時代になりました。人類の半数を死滅させた大戦争の責任はどちらの陣営にあるのでしょうか? 一年戦争の前後を含めて戦争の根本的な原因について考察します。

始まりは地球の人口爆発だった

『ガンダム』世界において、人類が宇宙に進出したのは地球の人口が増えすぎたためです。『ガンダム』の放送が始まった1979年は少子化よりも人口爆発が社会問題として取り上げられていた時代でした。「宇宙世紀0079。人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀がすぎていた」というナレーションは当時の日本人の感覚としてリアルだったと言えるでしょう。

『ガンダム』世界において宇宙移民となったのは、立場が弱い人たちが多く、地球連邦政府は地球から宇宙を統治していました。宇宙移民は自治権を持たず、地球連邦の強権に従う他なかったのです。

ジオン公国が地球連邦に反旗を翻す

 そんな状態が半世紀も続いた頃、地球から最も離れた場所にあるスペースコロニー「サイド3」のジオン公国が宇宙移民の自治権を求めて反乱を起こしました。この時の指導者がジオン公国を支配するザビ家の人々です。圧倒的に戦力で劣るジオンですが、新兵器モビルスーツの採用で優位に立つと同時に、民間人を巻き込んだ残虐な戦術で連邦を圧倒します。

 その代表が「コロニー落とし」です。ジオンは閉鎖空間のスペースコロニーに毒ガスを注入して住人を虐殺し、大質量爆弾として地球に落下させたのです。この行為によって開戦から一週間で人類の約半数にあたる55億人が死亡する大惨事となりました。

 独立戦争だからといって、ここまでの非道を行ってもいいのか? そもそも実質的な戦争指導者のギレン・ザビは選民思想の持ち主で、その目的は宇宙移民独立にとどまらず全人類の支配ではないか? というのが「どっちが悪い」論の起点だと言えるでしょう。



ジオンの屈強な軍人たちは多くのファンを惹きつけた。画像は『機動戦士ガンダム ジオン兵列伝ぴあ』(ぴあ)

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反乱を引き起こすほどの地球連邦の圧政とは?

 アニメ『機動戦士ガンダム』において地球連邦の圧政や腐敗がどれほどのものか、具体的に描かれたことはほぼ無いと思われます。キャラクターが地球連邦のひどさを語ることで間接的に描かれるケースがほとんどです。

 しかしその後の派生作品においては、半ば強制的に移民となって宇宙での過酷な生活に耐えなければならなかったにもかかわらず、高額な移住費用を負担させられ、孫の代まで返済し続けなくてはならないなど具体的な内容が描写されています。

 また複雑化した官僚組織の腐敗については、どこから手を付けたらよいか分からないほどで、『閃光のハサウェイ』では政府高官を狙ったテロによる世直しの行方が描かれています。

戦後の連邦はジオンと同じことをやり返す

 一年戦争で地球連邦が勝利を治めた後も宇宙移民との対立は収まりません。地球連邦内にはジオン残党に対抗する特殊部隊「ティターンズ」が結成され軍閥化します。そして毒ガスやコロニーレーザーを使い、かつてジオンが行ったのと同じ非道を繰り返しました。

 戦前・戦後にまで目を向けて連邦とジオンの確執について解説しましたが、両陣営とも相当の残虐行為を行っていることは確かです。どちらが悪いか悪事の質・量で判定するのは無益ですが、あえて被害者数で比べるならやはりジオンによる55億人という死者数は圧倒的で比べ物になりません。

戦争の原因は共感能力の欠如?

 本当の問題は「地球に住む豊かな人は宇宙移民の心がわからない」ことにあるのかもしれません。もちろん地球にも多くの貧しい人がいるのは確かですが、問題はごく限られた地球のエリートたちです。

『ガンダム』で描かれてきた地球連邦の高官の多くに見られるのが、柔軟性と共感能力の著しい欠如です。これがブライト・ノアに代表される地球連邦の「現場の人々」の葛藤につながっています。

 豊かさに由来する無自覚なエリート意識が人々の反感をかい、劣等感を煽っているのです。そして「豊かさに無自覚なごく少数の人々」と「生きていくのに奮闘する多くの人々」の対立が指導者を得て「地球連邦vsジオン」の戦争として具体化したのではないでしょうか?

 地球と宇宙の対立ではなく、富をめぐる対立の方が一年戦争の本質に近いと思われます。ジオンと連邦の確執は人類の歴史を反映しているようです。