ファミコンでは最後のシリーズ作となった『ファイナルファンタジーIII』は、圧倒的な飛空艇のスピードでプレイヤーを驚かせた

【画像】移植されて今も遊べる!名作『ファイナルファンタジーIII』(6枚)

『FF3』高速飛空艇の秘密とは?

 ファミコン用RPGとして1990年にスクウェアから発売された『ファイナルファンタジーIII』は、ジョブチェンジや召喚魔法をシリーズで初めて採用し、100万本以上も売れた大ヒットタイトルでしたが、他機種への移植は2006年まで実現しませんでした(『III』以外のシリーズ作で『ファイナルファンタジーI』から『ファイナルファンタジーVI』までは、2002年までに最低一度は移植版が出ています)。

 その理由としてまことしやかに語られているのが、「メインプログラマーを努めた天才、ナーシャ・ジベリ氏がファミコンCPUのバグを使って飛空艇を高速移動させていたため、他機種では実現できなかったから」というものです。そのうわさは本当なのでしょうか? 検証してみます。

 まずナーシャ・ジベリ氏についてですが、彼はイランの王族出身で、アメリカでコンピューター科学を学んだ後、プログラマーとして名を馳せるようになります。スクウェアでは「ファイナルファンタジー」の『I』『II』『III』のほか、さまざまなゲームを開発しました。

 ジベリ氏が天才的だったのは、CPUの構造を理解し最大限までその機能を引き出せる点にあったようです。『III』の飛空艇の高速移動に話を絞ると、それが実現できた理由は以下の2点にあるといえるでしょう。

1.プログラム言語の使い方が卓越していた
2.ファミコンCPUの処理速度を熟知していた

 どんなプログラム言語もそうですが、同じ処理をさせる書き方(コード)は複数あります。コードが違うと処理に使う命令の種類や数が変わることもありますが、実はそれぞれの命令には、CPUの処理時間というものがあります。もちろんコンマ数秒以下の世界ですが、このためコードが違えば、同じ処理でも結果が出るまでの時間が変わります。

 ジベリ氏はそれをすべて計算し効率化して、60分の1秒という非常に短い時間に飛空艇が高速移動する処理を詰め込みました。マップのデータを次々と読み込んで表示し、海や滝などをアニメーションさせ、飛空艇の影も落とす……といった処理です。これはまさに彼の天才ぶりが成せるわざでした!

 当時のファミコンゲーム開発はどこもアセンブラ言語を使っていたようですが、同じ土俵のプログラマーたちがそれを真似できず、ましてジベリ氏の書いたコードを直接読める立場にいた周囲の人も理解に苦しんだわけです。筆者の知人のプログラマーは、「プログラムにはセンスが必要だ」と日頃言っていました。まさにジベリ氏は発想が卓説していたのでしょう。



2006年にニンテンドーDS向けに発売された『ファイナルファンタジーIII』は、3D映像でリメイクされた内容に

(広告の後にも続きます)

15年以上たって実現した初移植 高速移動の再現度は?

 飛空艇の動きを「60分の1秒に詰め込んだ」というのは、次の理由によります。ほとんどのテレビは、ファミコン発売当時の「ブラウン管テレビ」から現代の「液晶テレビ」に至るまで、画面の書き換えが60分の1秒ごとに行われています。この時間内にスクロールなどの準備を終わらせないと「処理落ち」が発生し、例えば画面の書き換えが間に合わず、スクロール時にマップの一部がガクガクしたように見えるなどの影響が出ます。

 しかし、『III』の飛空艇の移動では、そんな様子は見られません。イメージ的にいえば、他のプログラマーはこの時間内に読み込めるマップデータの量が少ないプログラムしか書けなかったから、高速スクロールを真似できなかった……ということになるでしょうか。

 なお、この高速処理を実現するために「ファミコンCPUのバグを利用した」という噂ですが、事実かどうかは少々怪しく感じます。確かにそういうバグはあったようですが、近年、それを利用しなくても同等の処理が可能であることを証明した人がいますし、ジベリ氏や開発者が「バグを利用した」と語っている情報を見つけられませんでした。

 もちろん火のないところに煙は立たないので、ここまで語り草になっている以上は事実なのかもしれませんが、本記事では真偽不明としておきます。

 さてこの高速移動ですが、実は初の移植となったニンテンドーDS版では完全再現には至っていません(速いには速いのですが)。うわさだと「何度も移植が試みられては止まっていた理由は高速移動を実現できなかったから」なのに、結局実現させずに発売したのは不自然に思えますよね?

 実はDS版の開発者が当時の速度を実現しようとしたという趣旨の話をしているようなので、実現にこだわるのはやめたのかもしれません。というのも、DS版は3Dで完全リメイクした別物といってよいほどのものなので、ファミコン版とDS版のプログラム技術や、両ハードの処理速度を単純に比較することに意味がなく、再現できなくてもマイナスになるとは思えません。

 それにしても、1990年の技術が2006年の開発者にとっても目標だったようですから、ジベリ氏の偉大さがわかるというものです。そうそう、2023年4月20日にPlaystation 4版とNintendo Switch版が発売になった『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』の『III』だと、飛空艇はファミコン版と同等の速度で飛んでいますよ!