OP曲「サンダーマスク」のレコード(東芝レコード)

【画像】豪華すぎない?1972年の特撮番組(11枚)

第二次特撮ヒーローブームをけん引した『サンダーマスク』

 10月3日は、半世紀前の1972年にTV特撮番組『サンダーマスク』が放送開始した日です。まだ生まれていなかった方々にはあまり聞いたことのない特撮ヒーローかもしれませんが、それには大きな理由がありました。

 よく本作の原作者を漫画家の手塚治虫先生だと思っている人がいますが、これは少し違います。手塚先生はいわゆる「コミカライズ」というポジションで、『週刊少年サンデー』でマンガ連載をしていただけでした。その内容もTV版とは大きく違います。

 実は本作は、手塚先生のマンガ『魔神ガロン』の実写作品として企画されたものがパイロットフィルムを製作したところで中止され、その後に一部のスタッフが別作品として新たに作ったものでした。その縁から、コミカライズという形で手塚先生が協力しているのです。

 第二次特撮ヒーローブームと呼ばれるこの時代、雨後の筍のように特撮作品が作られたため、『サンダーマスク』もそういったもののひとつと思う人もいるかもしれません。しかし、本作は後述する理由からマイナー作品となり評価も適当なものになってしまいましたが、集められたスタッフには優秀なメンバーが多くいました。

 監督は「ゴジラ」シリーズでおなじみの本多猪四郎監督。脚本は特撮やアニメ作品を多く生み出した上原正三さんと藤川桂介さんが担当しています。また、造形は当時『仮面ライダー』も手掛けていたエキスプロダクションでした。さらに、主役であるサンダーマスクを後半から演じていた中山剣吾さんは、後に改名してゴジラを演じることになる薩摩剣八郎さんです。

 これだけの一流のスタッフがそろっていたのですから、面白くないわけはありません。当時の子供たちにも受け入れられ、サンダーマスクは人気ヒーローのひとりとなりました。視聴率も激戦区の火曜日19時台前半で平均15%と、好成績といえるでしょう。

 しかし、これだけの数字を出しながらもギリギリの予算で作られていたことから、それ以上は製作を続けられず、番組延長は断念されて半年間の全26話で番組終了となりました。後番組は日曜日18時台後半で放送されたものの、裏番組である人気アニメ番組『サザエさん』相手に苦戦していた『ファイヤーマン』が移動してきます。

 当時、子供だった筆者は『サンダーマスク』が好きで、怪獣ゴッコをするときも本作に登場する魔獣をあえてチョイスするほどでした。それで一緒に遊ぶ友だちも理解できるのですから、けっしてマイナーな作品ではなく、他の有名ヒーローと肩を並べるほどの知名度があったと思います。

 そんな『サンダーマスク』が、なぜマイナー特撮作品となってしまったのでしょうか?



手塚治虫先生のコミカライズ版『サンダーマスク』1巻(手塚プロダクション)

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『サンダーマスク』が見られなくなってしまった理由とは?

『サンダーマスク』がマイナー作品となった理由。それは現在では視聴困難だからです。そこには「版権問題」という複雑な事情がありました。

 本作の制作にクレジットされているのは、前述の『魔神ガロン』を制作した虫プロダクションから生まれたひろみプロダクション、広告会社の東洋エージェンシー(現在の創通)。この東洋が、放送終了後にひろみプロダクションからマスターを引き上げてしまったそうです。

 それでも『サンダーマスク』は何度か再放送されました。1980年代前半くらいまではローカル局でも放送され、その時にビデオ録画した人もいるでしょう。また、ファンには有名な話として、1994年に中京テレビの『今甦る!昭和ヒーロー列伝』という番組で、第1話、第13話、第26話の3本が放送されました。

 しかしこの放送以降、残念ながら『サンダーマスク』は我々の前から姿を消します。この理由に関して、マスターも持つ創通のコメントも「マスターは状態が悪い」、「ネガならある」、「すべて存在しない」と話が二転三転して要領を得ません。

 これは年月が経ったことで『サンダーマスク』の版権が分散し、それぞれの権利と利害が一致しないことで、マスターを持つ創通の一存では放送もソフト化もできないからだと言われています。現状ではリスクを考えると手をつけたくないという、二度と見ることのできない封印作品になってしまいました。

 そのため、前述の特番でさえ28年前、TV局の再放送では40年ほど見ることができない作品となっています。これに加えて本作後半のスチールはほとんど流通しておらず、関連書籍でも後半の魔獣は写真でなくデザイン画となっていました。こういった事情から本作のマイナー化が進み、後年のファンが作品に触れることができない状態になってしまったのです。

 また、認知度の低さゆえに、本作を面白おかしく伝播する人もいました。「第19話に登場する魔獣シンナーマンの描写がヤバいから封印された」「第21話に登場する魔獣ゲンシロンの出身が東海村だから放送できない」、さらに版権管理があやふやな時期は「手塚先生自らが商品化にNGを出している」……というデマまで流れました。

 情報が少ないゆえに、こういった流言飛語が後を絶ちません。当時の人気を知る筆者としては複雑な思いです。

 今回、執筆のために1980年代に録画した『サンダーマスク』を何話か見ましたが、やはり面白かったです。等身大と巨大化というふた通りで戦うサンダーマスクは、現在になっても他に類を見ない独創的なヒーローでした。また、敵の魔獣も造形とデザイン両方が素晴らしく、動いて暴れ回る姿を今の高画質で見たいと思ってしまいます。

「封印作品」などとレッテルを張るから奇異の目で見られてしまいますが、『サンダーマスク』は正統なヒーロー作品としてもっと評価されるべきでしょう。その雄姿を、筆者は生きているうちにまた見たいと思います。1万年も眠らせてはいけない作品ではないでしょうか?