しかし、W杯フランス大会はプラスチックごみの削減に積極的に取り組み、各都市のプレスルームにはボルヴィックのタンクが用意され、自分のタンブラーに注ぐ形になっていた。
フランスでは驚くほど、ペットボトルがないのだ。
photo by X-1
この流れは2024年のパリオリンピック・パラリンピックにも引き継がれ、組織委員会は「使い捨てプラスチックを使用しない、初のメジャーイベントにする」と宣言、環境問題に配慮した持続可能な国際大会にすることを目指す。それに対応して、主要スポンサーのコカ・コーラ社は、大会期間中は再利用可能なボトルと、200以上のソーダファウンテンを提供するという。
この発想はスポーツイベントだけではなく、私がボルドーのジャズクラブへライブを見に行ったときも、アーティストはマイタンブラーで水分補給をしていた。
ただし、この現実を目にしても、「フランス、いいね! 日本、遅れてる……」と単純には言えない。
日本ではなぜ、これほどペットボトルが普及しているのか。それはこの国が安全、安心だからだ。
駅、職場には自動販売機が設置され、それが破壊される心配はほとんどない。そしてコンビニエンスストアは全国各地に存在し、社会インフラとなっているが、この業態が広まったのは運輸網が発達し、かつ深夜の時間帯でも強盗被害の不安が少ないからだ。
つまり、ペットボトルの普及は、日本の治安の良さの証明なのである。
だから、フランスが良くて、日本が遅れているとは一概には言い切れない。
むしろ、日本がペットボトルの削減に取り組むとするなら、フランスよりもハードルが高いということになる。なんといっても、ペットボトルは軽くて持ち運びしやすいだけでなく、何種類もの飲み物が選べる。
これは豊かさの証明だ。
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削減に取り組むとするなら、その便利さ、豊かさを捨てることになる。つまり、理性を働かせなければならない。21世紀、日本人に課せられた大きな課題なのではないか、とW杯の取材のあとに感じた。
ラグビーW杯開催期間中、外国人観光客でごった返すモンマルトルの丘。パリ2024大会で現地に行く人はスリやひったくりに気をつけようphoto by Shinji Akagi
花の都はどう変わる?
2024年夏、パリオリンピック・パラリンピックという大会は、国際スポーツイベントの運営のスタンダードを決める意味では大きな意味を持ちそうである。
パリは古くて、新しい。
社会インフラには、19世紀のものがいまだに活用されている。それは持続可能という視点では評価できるのかもしれないが、現代の社会福祉ニーズに応えてない場合もある(メトロの駅にエレベーターが設置したくてもできない場合もあると聞いた)。
しかし、プラスチックごみの削減をラディカルに進めるあたり、刺激的でもある。
さて、「パリ2024大会」を開催することで、花の都はどう変わるのだろうか。
オリンピックとパラリンピックのシンボルが掲げられたパリ市庁舎(2023年7月撮影)photo by X-1ライター 生島 淳
宮城県気仙沼市出身。1999年からスポーツライターとして活動し、ラグビー、野球、駅伝を中心に執筆。テレビ、ラジオにも多数出演。取材で印象に残っているパラアスリートは、女子マラソンの道下美里。
editing by TEAM A
key visual by Shinji Akagi