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部員約160人の高校サッカー部がまるで会社?強豪校の「部署制度」で 生徒の主体性が最大化される理由

パラサポWEB

どんな部署を作るかも、新入生がどの部署に入るのかも、すべて生徒に任せているので、監督は活動を円滑に進めるためにアドバイスをする程度で、口出ししないという。しかしそれだけで生徒の主体性が育つものなのだろうか?

10代のうちに失敗を体験することで人生の経験値を上げる

新入部員の歓迎会を兼ねたオリエンテーションでは、野外炊飯などでコミュニケーションを図る。こうした企画も生徒が発案する

高川学園のサッカー部の部員数は約160人、その内の120人近くが寮生活を送っている。江本監督は1日24時間のうち、サッカーの練習をするせいぜい2~3時間だけでなく、それ以外の時間での人間としての成長も、部活動での大きな役割だと考えているそうだ。

「生きていれば、いろんな過ちや失敗が当然ありますよね。そのときに自分の判断や対応がいいことなのか、悪いことなのか、ということをきちんと理解し判断できる人になってほしいなと思うんです。大人になるまで過ちや失敗にきちんと向き合わずに成長してしまうと、いざ社会に出て本当に失敗をしたときに困ることになります。ですから、今のうちにいろんなことを考え、体験し、いろいろなことを感じる回数や時間をいかに増やしてあげて、どれだけ経験値を上げてあげられるのかが大切だと思います」

そこで、子どもたちの経験値を上げるために、指導者は具体的に何をすればいいのだろうか。江本監督は、どんなことに気をつけているのかを聞いてみた。

「生徒がやらされていると、感じないようにすることです。あくまでも指導者主導ではなく、子どもたちが主導であることが大切です。ついガミガミ言ったり、ああしろこうしろと言ってしまいたくなることもあるので、そこをぐっと我慢することが大事。おかげで一緒に成長させてもらっています。一方で、ただやらせっぱなしではなく、生徒たちがやっていることはしっかり見ておく必要があります。この子は、率先してこんな活動をしているなとか、逆にあまり気づかないタイプだなとか。そうやって見ていて気づいたことを、各部署のリーダーと我々スタッフで作っているSNSのグループトークで提案することもあります。そのときも、あれをしろといった直接的な表現ではなく、これってどうなってたっけとか、他の部署はこんなふうに頑張ってたよなどと、間接的に伝えることで、気づきや、他の部署がやっているなら自分たちも、という向上心に繋がっているようです」

完成形がないからこそ自由な発想ができる

生徒たちに胴上げされる江本監督

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部署活動の良さのひとつは学校の必須科目や、試合ではっきりと勝ち負けが決まるサッカー部の活動とは違い、「完成形」が決まっていないことだと江本監督は言う。

「学校生活では3年間、約1100日間という限られた時間の中で、決められた課題をこなさせなければいけないとか、サッカー部の活動でもこういう練習をして、こういうレベルまで持っていかなくてはいけないという、目標というか目指すべき『完成形』がありますよね。でも部署活動はいつまでにこれをしなくてはいけない、というものがないので、生徒も自由ですし、指導する側も生徒の主体性を尊重した問い掛けができます」

そんな環境の中で生まれたのが先に紹介した「トルメンタ」なのだ。サッカー部の強化を担っている強化部からの提案だったそうだが、初めてこの案を聞いたとき、江本監督はどう思ったのだろうか?

「めちゃくちゃ面白かったですね。こいつら何やってんだろうと思いましたが(笑)、まさにこれが部署制度をやってきた答えだと思いました。我々がすべて完璧にやれてるかというと全然そうでない部分ももちろんあります。でも、こうした面白いことを考案できるのは、強化部として日頃から活動しているからですし、生徒一人ひとりの発想力によるものじゃないでしょうか」

指導者がこうしなさいと言って成功するプレーも当然あるが、子どもたちの発想力をうまく利用して自由にさせたことが、こうした奇抜な発想に繋がったのではないだろうか。また自分たちの意見が採用されるという自由な空気は、チームを盛り上げ全体のモチベーションアップにも繋がったという。自分が一生懸命考えたことが採用される、やったことが評価されるという体験は、日常のさまざまな場面で子どもたちの主体性を高めることに役立っているようだ。

たとえば、大会が近くなると分析部の生徒たちが、チームが一丸となって頑張るための資料を主体的に作って「メンバーみんなに見てほしい」と提案してきたり。強化部が朝練のメニューを考えて、他の生徒たちよりも早くグラウンドに来て準備をしていたり。

また、2023年は生徒たちが自分たちの力だけで自主運営の「SGリーグ」を立ち上げた。運営、出場メンバーの選考、チームの指揮など、指導者は介入せずすべてを選手主体で行っている。そんな自立した子どもたちの姿を見た江本監督が、ひとり密かにじーんと胸を熱くしていることは内緒なようだ。

7年前、「やっと終われる」と言われてしまったサッカー部の活動だが、現在では卒業生が「部署活動をやっておいてよかった」と言ってくれるようになったそうだ。現在のサッカー部のSNSなどを見ても、生徒たちが楽しそうにしている様子が伝わってくる。子どもたちの主体性に任せるということは、任せても大丈夫だという指導者側の気持ちと、何を言っても聞いてもらえるという子どもたちの気持ち、お互いの信頼関係がなくてはならない。それは決して簡単なことではないが、卒業生の言葉や在校生たちの笑顔や充実した活動を見れば、部署活動がいかに多くのものをもたらしてくれているかが見えてくる。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:高川学園高校サッカー部

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