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ラグビーを子供の習い事に。危険?何を学べる? 疑問を元日本代表主将に聞いてみた!

パラサポWEB

「僕らが知っているルールがこの先も使えるかは分からないんですよ。ですから、小学生くらいであれば、無理にコンタクト要素のテクニックを教える必要はないと思っています」

ラグビーを習わせたいけれど怪我が心配?

とはいえ、判断力や決断力、主体性などは小さい頃から身につけさせたい。コンタクトプレーをせずにラグビーのいい面だけを取り入れるなどということが可能なのだろうか?

「ラグビーといっても、必ずしもコンタクトプレーがあるわけではありません。実際、僕がやっているBring Upのラグビーアカデミーでは、コンタクトプレーはしません。うちだけでなく調べていただければ、コンタクトプレーをしないことを特色にしているアカデミーは結構あるはずなので、ラグビーが怖い、心配だという場合は、まずはそういった場所を探して見学してみるといいんじゃないでしょうか」

ラグビーといえば激しいコンタクトプレーというイメージだが、それをしないアカデミーでは、いったいどんなことを指導しているのだろうか。

「Bring Upの場合で言えば、ラグビーの専門的技術を高めるというよりは、スポーツを使って子どもたちが成長するきっかけや環境を作る、というのが大きな柱になっています」

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具体的には1コマ70分のレッスンの中で毎回違ったメンバーでチームを組み、相手にタッチしたらタックルと同じ、というタッチラグビーを行っている。その中でも子どもたちのさまざまな能力を引き出すため、頻繁にオリジナルのルールを導入するそうだ。

「たとえば、5人1組のチームに3色のビブス(ゼッケン)を渡して、相手チームの同じ色のビブスをつけた選手にはタッチできませんよというルールにします。そうなると、アタックの時は、相手チームの選手がいない場所はもともと空きスペースですが、同じ色のビブスをつけた選手がいる場所もタッチされないわけですから、空きスペースと見なすことができる。そうなった時にどこに空きスペースがあって、どういうボールの運び方でアタックするのかということを、子どもたちは瞬時に考え、判断していくわけです。すると、子どもたちは試合中にすごく喋ってコミュニケーションを取るようになるんです」

このように、Bring Upのラグビーアカデミーでは子どもの年齢や成長などに合わせ、少しずつ変化をつけたゲームを行っている。これを繰り返すことで、将来子どもたちが何が起こるかわからない社会に出たときに、冷静に予測を立て、判断できる力をつけられるのではないかと菊谷氏は期待しているそうだ。

嬉しい子どもたちの変化

子どもたちと真剣に作戦を練る菊谷氏。この時間が重要なのだそうだ

Bring Upのラグビーアカデミーでは、毎回チーム編成を変えるのだが、時には1つのチームにリーダーシップのある子どもたちが集中してしまうこともある。だからといって、そのチームが勝つとは限らないのだという。

「アカデミーでは作戦タイムを大切にしているんですが、大切なのはみんなで話し合って作戦を立て、それをどれだけ遂行できるかということです。率先して意見を言える子もいれば、喋るのが得意ではないけれど、作戦遂行能力は高い子もいる。ですから、そこでは僕たち大人はラグビーの技術の指導者ではなく、そうした子たちの能力を引き出すファシリテーターになるのです。時には作戦に一緒に参加するんですが、勝ち負けに関するキーワードが3つ出たとします。その時に、僕がどのキーワードが良いか悪いかを判断するのではなく、『3つは実行できないから、1つ選ぶとしたら、この場合の解決に一番近いのはどれだと思う?』と問い掛け、それぞれが言語化して意見できるような環境を作ります」

こうした、解を自分たちで考え、話し合うという環境を積み重ねていくと、子どもたちの日常生活に変化が生まれるという。

「保護者の方から、いろいろな嬉しい報告をいただきます。たとえば学校の通知表にリーダーシップが取れるようになってきましたと書かれていたとか。アカデミーの帰りにお子さんが『今日はこういうルールでこういうことをして、こんな解決をした』というのをきちんと言語化して説明できるようになったとか。学校に行けなかった子が行けるようになったというケースもあります。ラグビーから得るものは、なかなか数値化できませんが、そうした変化がやっていて何より嬉しいですね」

過去の「WHY」を、未来の「HOW」へ

ラグビーに限ったことではなく、人生において振り返りや反省はその後の成長に繋がる。スポーツはそうしたことを学ぶのに最適な環境なのかもしれない。

「たとえば、チームが勝った試合でも、自分にあまりパスが回ってこなかったとき。『どうしてパスをしてくれないんだよ』と、仲間に対して文句を言うのではなく『なぜパスが回ってこなかったんだろう』という過去に対して問い(WHY)を立てる。こうした反省を踏まえ、次の試合、未来をどう組み立てればいいのか(HOW)を考えるなど、WHYとHOWを常にみんなで繰り返すことが、小学生時のスポーツの習い事では重要なのではないでしょうか」

菊谷氏は自身の日本代表時代を振り返り、次のように語る。

「日本代表までいくと、最終的にはテクニックがずば抜けていることよりも、人間性が重要だということを学びました」

2015年以降、日本で急速にラグビー人気に火が付いたのは、ラグビーというスポーツの魅力もさることながら、代表選手たちが仲間を信じて全力で戦う姿や、相手選手にも敬意を払う姿など、その人間性に惹かれるからなのかもしれない。ラグビーの習い事を単なる専門的技術の習得ではなく、子どもの人間性を高めるためとして考えてみると、子どもの可能性が広がるのではないだろうか。

菊谷氏が代表、ラグビーコーチを務める「Bring Up Athletic Society」
https://www.bu-as.com/

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Bring Up Athletic Society, Shutterstock

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