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子供にどう伝える? “多様性”の大切さ。平井理央さんに聞いてみた

パラサポWEB

―― 多様性について考える上でもパラスポーツの存在は大きいと思うのですが、平井さんがパラスポーツに出会ったきっかけは何だったのでしょうか。

「ラジオ番組の仕事で、谷真海選手(パラトライアスロン)にインタビューさせていただいたことですね。局アナ時代にスポーツ番組を担当していたので、色々なアスリートの方々を取材してきましたが、パラアスリートにお話を伺うのは谷選手が初めてで……。
谷選手は、競技だけじゃなく社会とも真剣に向き合っていて、自分がプレーすることで社会にどういうメッセージを届けられるかということまで考えていらっしゃるのに、それがちっとも堅苦しくなくて、すごく自然体だったんです。その姿勢が印象的で、もっとパラアスリートを取材してみたい!とインタビューを重ねるようになりました」

―― それが、現在も放送されているラジオ番組“渋谷の体育会”(渋谷のラジオ)につながるんですね。

「そうなんです。パラアスリートの持つバックグラウンドの多様性に魅力を感じて、パラアスリートにフォーカスした番組を自ら企画して立ち上げました。今、8年目になります。毎週ゲストを迎えてお話を伺っているのですが、みなさん、すごく個性的なんですよね。身体に障がいをもったきっかけも競技に出会うまでの生活もそれぞれ違うので、興味深いエピソードをたくさん持っていらっしゃる方が多くて、楽しく発見の多い番組です」

―― パラアスリートとの関わりから、ご自身に何か変化はありましたか。

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「パラアスリートだけでなくパラスポーツに携わる方たちって、いろんなことにワクワクして、どんなこともすごく楽しんでいらっしゃって私まで元気になるんです。それで、“何が起こったとしても自分の人生を切り開くのは自分なんだ”と考えるようになりました。自分の可能性を自分で狭める必要はないんだなって」

子どもたちに楽しく多様性を伝えられる『パラスポーツすごろく』を製作

2021年、クラウドファンディングで資金を集め、ラジオ番組「渋谷の体育会」で聞いたゲストのエピソードをまとめた『パラスポーツすごろく』を製作。競技用車いす型のコマなど、すごろくを楽しみながらパラスポーツに触れることができる

―― パラアスリートに取材を重ねて『パラスポーツすごろく』を作られたんですよね。

「はい。パラアスリートの本当の魅力を伝えたくて、パラアスリートの半生を体験できるすごろくを作りました。どんなスポーツ選手でもそうだと思いますが、メディアで取り上げられる時って、どうしてもキラキラした姿だったり怪我や負傷だったり、そういうドラマチックなところばかりがフィーチャーされるじゃないですか。でも、取材を重ねるとそうじゃない部分にも魅力が詰まっていることが多くて、小さなエピソードも含めてすべてを伝えられるメディアがないかと考えていた末に、すごろくにたどり着きました。すごろくって、コマが止まったマスのエピソードは必ず読むので、手にマメができて大変だったという話も、世界選手権の話と同じ大きさで読んでもらえる媒体なんですよね」

―― スタート時にマイナスチップを持ってスタートするのも特徴的ですよね。

「最初はサイコロの出た目から2を引かないといけない設定になっているのですが、アスリート力を高めていくとマイナスチップを返すことができて、だんだん進みがよくなっていきます。これは、“リハビリをしている時は体感的に時間がかかるけど、そこから競技と出会ってアスリートとして輝いていけばいくほど時間の流れを早く感じる”という、スロースタートなパラアスリートの感覚を体感してほしいと思ったからなんです」

当日は、特別に展示されていた車いすに乗りながらマスを進む体験型『パラスポーツすごろく』に挑戦してみました!

―― 今日は会場に体験型『パラスポーツすごろく』が展示されているということで、私も実際にやってみましたが、ボードに書かれたエピソードのひとつひとつがとっても濃くて、読ませるものが多いなと感じました。

「パラアスリートの皆さんが、実名で具体的なエピソードを提供してくださっているのも、このすごろくの魅力です。ただ、リアルなエピソードを集めたくて、プラスとマイナスのエピソードを両方教えてくださいとお願いしたのですが、皆さん、マイナスの話があまり出てこなくって(笑)。何事もポジティブに転換される方が多いんですよね。
たとえば、パラ卓球の渡邊剛選手が、とある理由から練習場を使わせてもらえなくなってしまったことがあるとおっしゃっていたんですけど、『そのおかげで逆に“よし、見てろよ!”と思って、頑張れました』と。私だったらどうしよう、とマイナスに考えるようなことでも、こんなにしなやかに『よし、次も頑張ろう』と思えるその考え方などすごく魅力的で勉強になりました。ただ、とにかくマイナスのエピソードを集めるのが大変でしたが(笑)」

パラスポーツすごろくのマスの一部。交通事故で車いす生活になったことからスタートし、そこからパラリンピアンになるまでの道のりを擬似体験できる

―― 日本中のお子さんにパラスポーツすごろくで遊んでもらえるといいですね。

「そうなんです。今回、たくさんの方に協力していただいて2000個ほどすごろくをつくったのですが、子どもたちに届けたくて、小中学校や児童館など日本各地の教育機関に寄贈させていただきました。小学校で実際に体験してくれた子とお話しすると、感じることも印象に残るポイントもそれぞれ違うのですが、パラアスリートをすごいと思った、すごろくが楽しかったと言ってくれる子が本当に多くて、取り組んでよかったなと実感しています。
すでに配布は終了していますが、教育機関の方に限り、申請していただければパラスポーツすごろくの全データをお送りしますので、プリントして楽しんでもらえたらと思います。あと、今回のような実際に車いすに乗ってすごろくを体験してもらえるイベントもいろいろな場所で開催したいですね」

―― 最後に、多様性の伝え方について悩まれている親御さんに、アドバイスやメッセージがあればぜひ教えてください。

「子育てをしていると、子どもの発想や考え方に驚くことがあると思いますが、私は、子どもの純粋で無垢な気持ちをなるべく壊さないように、まっすぐ伸びていけることを重視して接するようにしています。
今後、小中学生の時から多様性を学んでいる子どもたちや、生まれた時から多様性社会を生きる子どもたちがどう育っていくのか楽しみにしていますし、彼らを応援できる大人でありたいと私は思っています」

今回の取材で、平井さんの「大人が無意識のうちに持っているバイアスに触れさせたくない」という言葉がとても印象に残りました。私たちは、多様性をどうやって子どもたちに伝えればいいかと難しく考えがちですが、大切なのは、子どもたちが直接感じること。実際に見たり、話を聞いたり、遊びを通して体験したりすることで、子どもたちは自然と多様性を理解するのではないでしょうか。その機会を与えることが、私たち大人の役目なのかもしれません。

PROFILE 平井理央(ひらい・りお)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、2005年フジテレビに入社し、アナウンサー・キャスターとしてスポーツ報道に従事。2013年からはフリーアナウンサー兼タレントとして幅広く活躍している。

interview by Mariko Amano, text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Yoshio Yoshida

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