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日本のジェンダー格差、過去最低の146カ国中125位。今日本がすべきことは何なのか?

パラサポWEB

「たとえば、国連はもしかすると世界で最も多様性に富んだ職場かもしれません。さまざまな出自の人々が仕事をしています。SDGsの担い手であり進行役でもあるのですが、では全く人種差別やジェンダー格差がないのかと言えば、現実にはもちろん存在しています。ただ、SDGsの旗振り役である以上、自分たちの組織内の状況や施策に対してより厳しくなる必要はあります。英語でWalk the Talk(言動一致)と言いますが、ただ表面的に言っているだけではなく、行動も伴わなければいけない。言動が一致していなければ、組織としてのcredibility(クレディビリティ、信頼性)を失うことになります。逆に言えば、差別や格差をなくしていくことによって、あらゆるレベルでやりがいを持って仕事ができる組織、能力を発揮できる組織を実現することができるのだと思います」

そんな多様性の典型とも言える組織・国連関連の組織では、ジェンダー平等の推進が人事査定での評価対象になっているという。

「たとえば国連の広報の仕事を担っている私は、広報発信においてジェンダー平等を推進することを目標のひとつに必ず掲げています。イベントに登壇する際には登壇者のジェンダーバランスを尋ね、もし著しくバランスを欠く場合であれば主催者に再考を促す。制作するコンテンツの中では、女性を保護される立場としてだけでなく課題の担い手として描くなど、普段の活動の中で心がけられる項目をいくつか挙げて、それを自分の目標としています。これは、今すぐ、どんな組織でもできることではないでしょうか」

ちなみに国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、2028年までにあらゆる職員のレベルにおいて男女比を50%-50%にすることを目標に掲げ、幹部職員に関してはすでに達成されているのだそう。

「大事なのは、数値目標と時間軸を決めること。何をいつまでに達成するか、必ず結果を出すのだという大号令の元に進捗を測りながら実施していくという体制さえあれば、できることなんです。トップダウンと草の根からのボトムアップ。両方の歯車が上手にかみ合うと大きな起爆剤になるのではないでしょうか。義務感ではなく、SDGsやD&Iを推進するとこんないいことがあったというメリットを多くの人と共有し、仲間を増やしていくと、それが組織に対する社会的な評価につながるという、良い循環を作っていくことが大事だと思います」

【SDGsと多様性/日本の今後】
東京2020大会のレガシーを未来へ繋ぐ

photo by Shutterstock

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ともすれば我々メディアの側は、たとえば日本のジェンダーギャップ指数の順位が下がったなど、ネガティブな側面に焦点を当てがちだ。しかし根本氏は、その姿勢も変える必要があると語る。

「6月30日は、“議会制度の国際デー”です。議会がより代表的な存在となって時代とともに前進するために、重要な目標の達成度合いを見直す機会なのですが、日本の衆議院議員の女性比率は実のところ10%です。これは193カ国中167位。この順位の前後に並ぶ国に先進国はありません。紛争にあえいでいるような小さな国ばかり。そう言うとネガティブな話になってしまいますが、私たちの暮らしにより近いところにある地方議会では、少しずつ女性議員の割合は増えつつあります。このような動きをより太いものに、揺るぎないものにしていかなければなりません。メディアもそのような状況を紹介しつつ、変化を進めていくためには何が必要なのか。制度や法律なのか、あるいは支援なのか、みんなで考える機会を作るような、提案型の発信の仕方をしていってほしいと思います」

国会審議のテレビ中継を、時間が許す限り見ているという根本氏だが、障がいのある議員が当事者だからこそ訊ける質問、議論しようとする姿勢に胸を打たれるという。障がいのある人の人権や自由を守ることを定めた「障害者権利条約」。日本は2014年に批准しており、政府がどのような取り組みをしてきたのかに関して、国連の障害者権利委員会による初めての対日審査が、昨年8月に行われた。

「ジュネーブで行われた審査会には、日本から障がいのある方々が大勢訪問しました。審査の結果としては、まだまだ課題が多く日本に対し勧告がなされることになりましたが、自分たちの目で見届けようというみなさんの姿勢が素晴らしいと思いました。当事者の方々が出向いて、自分たちの声を委員に届けることができたのは、よいファーストステップになったのではないでしょうか。一方、東京2020大会で、1964年に続いて東京でパラリンピックを開催できたのは、非常に大きなきっかけになりました。障がいのある方が競う、表現することが当たり前の風景になってきたのだと。それが日本社会に対して非常に大きな刺激になっていると思います。これを一過性のものではなく、ずっと継続するレガシーに繋いでいかなければならないでしょう。ただ単にアクションを重ねるだけではなく、大きな手応えを感じ取るにはどうしたら良いかを、一人ひとりが考えていきたいですね」

根本氏は現職につく以前、TV局に勤務後、フリー・ジャーナリストとして活動していた期間もあり、難民問題に関する著作もまとめている。取材中にメディアについての提言があったのは、まさにその経験からだろう。メディアはさまざまな社会の変革の動きを伝え、自分たちはどんな取り組みができるかを「読者・視聴者とともに考える」ことが大事なのではないかと語ってくれた。すべては繋がっており、他人事ではなく、自分事。そのように皆が自然に考えることのできる発信を我々も考えていきたい。

PROFILE 根本かおる
東京大学法学部卒。テレビ朝日を経て、米国コロンビア大学大学院より国際関係論修士号を取得。1996年から2011年末まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。ジュネーブ本部では政策立案、民間部門からの活動資金調達のコーディネートを担当。WFP国連世界食糧計画広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年8月より現職。2016年より日本政府が開催する「持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議」の構成員を務める。2015年以来、SDGsの重要性を訴え続けたことが評価され、2021年度日本PR大賞「パーソン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock

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