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1つの団体でできないことも9団体なら――パラスポーツ競技団体の共同プロジェクト「P.UNITED」の挑戦

パラサポWEB

「メジャースポーツの人気チームであれば、集客力もあるので、グッズ販売は大きな収入源となります。しかし、今回集まった競技団体は、パラスポーツの中でも集客力が弱く、人員の不足のためスポンサーの獲得もままならない状況なので、従来のセールス戦略だけでは運営基盤の強化につながらないのです」

以前よりスポーツイベントのマーケティングに関わってきたという高阪氏

パートナーらと創出する新しい価値

では、どのようにして、収益化を図るのか。参考となるのが、馬術と射撃の競技団体が以前、共同で行った、ある小学校での講演会だ。

「競技中の動きが多い馬術と、動きの少ない射撃。対照的な競技の選手たちが、互いの違いを認めながら共通点を見つけていくというアプローチで話をしました。すると子どもたちは興味を持って、それぞれの競技に対して、そして障がいに対して、さまざまな意見を交わすようになったのです」(高阪氏)

昨年10月に世田谷区の小学校で行われた講演会の様子。東京パラリンピック日本代表の稲葉選手(馬術)、佐々木選手(射撃)が並んだ
photo by Haruo Wanibe

競技を組み合わせることで、新たな気づきや共感、価値観が生まれる。従来、パートナー企業や団体は、資金面でのサポート、観戦、大会運営ボランティアなどといった形で競技団体を支えてきた。高阪氏によると、スポンサー側から見た競技団体への関わり方には主に「知る」「見る」「支える」があるが、P.UNITEDでは新たに「活用する」を提案するという。

スポンサーがP.UNITEDを「活用する」とは、具体的にはどういうことか。

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P.UNITEDのパートナー第1号となったのは、日本モーターボート選手会だ。同会はこれまで14のパラスポーツ競技団体に対し、大会運営費の一部支援、ボランティア参加、優勝カップの寄贈など、スポンサーとして物心両面からさまざま形で関わってきた。

ボートレーサーであり同会常務理事も務める小畑実成氏は、P.UNITEDの記者会見で、パラスポーツ競技のボランティアに参加したボートレーサーたちの声を紹介した。ボートレーサーたちは、パラアスリートの体幹の強さ、集中力の高さに感銘を受け、同じアスリートとして、とてもよい影響を受けたのだという。

東京パラリンピックが終わっても、今までと同じようにパラスポーツを支えていきたい。そしてただ支えるだけでなく、自分たちも刺激を受けたからこそ、パラスポーツを一緒に盛り上げていきたい。そんな思いが強くあったからこそ、日本モーターボート選手会はP.UNITEDのパートナーとしていち早く名乗りを上げたのである。

日本モーターボート選手会の小畑氏(写真左)と企画部の安藤愛恵氏

P.UNITEDでは、プロジェクトから生まれる価値を活用してもらうことが、最初からスポンサーメリットの一つに含まれている。ボートレーサーたちが受けた影響と同様に、企業に勤めるビジネスパーソンの働き方やマインドによい影響を与えるための活用方法もこれから検討されるだろう。

馬術と射撃の組み合わせから新しい価値が生まれたように、P.UNITEDとパートナー、そして選手が一体となることでさらなる価値が創出されることも予想される。それらの活用方法についても、スポンサーとともに探っていくつもりだ。

アスリートも“チーム”に期待

P.UNITEDの発足により、競技の垣根を越えたパラアスリート同士の交流も活発になる。P.UNITEDの記者会見では、集まった8人のパラアスリートの中から車いすフェンシングの加納慎太郎選手が登壇し、そのメリットをこう語った。

「(来年のパリ大会を目指す中で)喜びや感動や悲しみも共有できて、もっとスポーツを楽しめるんじゃないかと思います」

加納選手(写真)のほか、P.UNITEDの記者会見には多くのパラアスリートが出席した

加納選手は自身のトレーニングに水泳を始めとするさまざまな競技を取り入れている。車いすフェンシングでは使わない筋肉を動かしたり、リフレッシュしたりすることが目的だ。P.UNITEDとして多団体が集まることで、異なる競技を知る機会、新しい練習方法を取り入れる機会が増え、他競技のアスリートとも接点が生まれる。同じアスリートの立場で目標や悩みを共有できる仲間が増えれば、選手たちは心強いだろう。パラリンピックのような大舞台ではなおさらだ。

選手たちが競技を続け、そして大会で結果を出すためにも、P.UNITEDの役割は重要なものとなる。パリ2024パラリンピック、そしてそれ以降、社会にどれだけインパクトを残せるか。競技団体、スポンサー、選手が一体となった新たな挑戦に注目したい。

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text by TEAM A
photo by Atsushi Mihara

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