こんなきっかけから落語にハマった私は、勤務後や休みの日にも寄席や落語会に足を運ぶようになった。いま「週刊少年ジャンプ」に連載中で話題を集めている落語がテーマの作品『あかね噺』も、連載開始から前のめりで読んでいる。
著者[“馬上 鷹将”, “末永 裕樹”] 出版日
高校生の桜咲朱音の父は落語家の阿良川志ん太。父の稽古中の姿などから落語に魅了される幼少期を過ごすが、ある日志ん太が破門になり、落語家を廃業してしまう。落語家の最高位である真打を目指し、あかねが成長してゆく物語……。
落語に明るくない読者にも分かりやすく、1つ1つ専門用語も丁寧に解説してくれる。回が進むごとに徐々に徐々に知識が増えて、私は「サンキュータツオと渋谷らくご」での日々を思い出す。落語の場面は江戸を生きる人たちが描かれるから物語が分かりやすいし、高座の様子とオーバーラップしてゆく様は、落語を生で聞いているのを体験しているみたい。
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落語をテーマにした作品は漫画に限らず様々触れてきたけれど、『あかね噺』の“少年ジャンプ感”にはとにかくやられる。応援したくなる主人公に、徐々に増えてゆく仲間。ライバルが登場しても昨日の敵は今日の友だったり、目指し続ける目標やつらいことにも挑んでゆく意義がしっかりと見える。そして何より、読んだ後、自分に活力が湧いている。「ジャンプ」の漫画には、自分が海賊王を目指してなかったり、悪魔に変身する能力を持ってなかったり、鬼退治に行く気持ちがなくても、自分事に出来る不思議さがあると思う。自分とはかけ離れた世界の話を読んでいたはずなのに、何故か自分が前を向いていたり、日常を乗り越える思考を提示してもらえていたりする。友情・努力・勝利からくる感動が、なんだ落語界にもあったのか!と気づかされる。
例えば、高座に上がる前の緊張が語られる場面では
人生において自己肯定感以上のバフは無い
ヤバい時にどれだけ自分を信頼出来るか
その信頼に足る根拠の積み立てが重要な訳
高座に上がるまでの努力がこのように表現されている。日々、我々が取り組んでいる事。表に出せるのはほんの一部で、その背景には人の知識や手間、拘り、思惑、受け継がれてきた歴史など見聞き出来ないものが膨大にある。そんな中で何が1番自分を安心させてくれるのか、この1ページに答えが描いてあった。
落語界にみつけられた“少年ジャンプ味”を噛み締めながら、さみしい時期には私は寄席に出向く。
(次回に続きます)
このコラムは、毎月更新予定です。
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